2013年06月01日07時23分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201306010723546

検証・メディア

紙媒体の危機 米トリビューン系列新聞(LAタイムズ、シカゴトリビューンなど8紙)が売りに出され・・・

  アメリカのトリビューン系列の8紙が売却されようとしている。8紙の中にはロサンゼルスタイムズ(全米4位)やシカゴトリビューン(全米9位)など歴史のある新聞が含まれている。さらにアメリカにおけるスペイン語の新聞では2位であるHoyも含まれている。今アメリカでもっとも人口が増加しているのがヒスパニック系であることを考えると長期的には大きな影響力を持ちうる新聞だ。 
 
  これらトリビューン系列の新聞8紙を買おうとしている人物が富豪で投資家のデビッド・コーク氏とチャールズ・コーク氏のコーク兄弟だ。コーク兄弟は共和党の中でも小さな政府を信奉する右派の集団「ティー・パーティ」の資金源になっている人物。そこでロサンゼルスでは「売却するな」と読者や市民らによるデモが行われている。新聞報道を綜合すると、「新聞はパブリックトラストである。このような極端なイデオロギーを持つ人物の手に渡るのは問題だ」というのが反対する人々の共通の思いのようだ。 
http://www.nytimes.com/2013/05/09/us/a-bid-to-thwart-los-angeles-times-sale-to-kochs.html?_r=0 
  ニューヨークタイムズによると、トリビューン社の最大の株主である Oaktree Capital Managementらは8紙すべてをまとめて売却する方針だが、買収金額が低くて折り合いがつかない時は売却中止の可能性もあるという。またコーク兄弟の競争相手として、メディア王ルパート・マードックの名前も浮上している。トリビューン社はケーブルテレビを含むテレビ局23局も保有しており、株主たちは紙媒体からデジタルメディアや放送事業に軸を移そうとしている模様だ。 
http://www.nytimes.com/2013/04/21/business/media/koch-brothers-making-play-for-tribunes-newspapers.html?pagewanted=all 
  トリビューン社は米国の歴史に名を留めるロサンゼルスタイムズやシカゴトリビューンなどの大新聞を含む紙媒体をばっさり捨ててデジタルメディア・放送メディアに特化しようとするのだからすごい。以下の記事(昨年12月)はシカゴトリビューンの記事である。 
http://articles.chicagotribune.com/2012-12-31/business/sns-rt-us-tribune-bankruptcy-plansbre8bu0d0-20121231_1_register-owner-aaron-kushner-tribune-paper-tribune-and-knight-ridder 
  トリビューン社の起源は1847年にシカゴの新聞「シカゴトリビューン」が生まれた時に遡る。金融危機の2008年に連邦破産法の適用を申請し、以後リストラを経て再生を図ってきた。しかし、販売部数の低迷や広告収入の減少で経営は逆風の中だった。全米の新聞協会によればリーマンショック以後、新聞業界全体で広告収入は半減(240億ドル=2兆4000億円)し、発行部数は10%減少し4000万部となった。 
  そしてトリビューン社の経営陣をテレビ局の幹部だった人間が多数を占めた結果、放送業に軸を移し新聞は売却する方向になったとされる。 
 
  ’Tribune's controlling owners, which include JPMorgan Chase & Co and hedge funds Oaktree Capital Management and Angelo, Gordon & Co, intend to sell most, if not all, of the newspapers. Tribune has already received expressions of interest in the Los Angeles Times, the Orlando Sentinel and others 
 
Oaktree is the biggest Tribune shareholder, owning about 23 percent of the company, while Angelo, Gordon and JPMorgan each hold a 9 percent stake.’ 
 
  シカゴトリビューンのこの記事にあるように、金融会社JPモーガンチェースやヘッジファンドのOaktree Capital Managementなどが株主となっている。最大株主のOaktree Capital Managementは23%、JPモーガンチェースら各社は9%の株を保有している。金融会社やヘッジファンドが株を保有しているということは経営に当たって、ジャーナリズム自体よりも収益が優先させられると言えるだろう。 
 
  こちらは売却寸前のロサンゼルスタイムズ紙の報道。 
’Activists outside L.A. Times building protest potential sale to Koch brothers’(反対活動家はロサンゼルスタイムズ社屋前でコーク兄弟への売却の可能性に抗議) 
http://www.latimes.com/business/money/la-fi-mo-activists-rally-outside-la-times-building-to-protest-potential-sale-to-koch-brothers-20130529,0,4368710.story 
 
  ハフィントンポストでは’If Koch Brothers Buy LA Times, Half of Staff May Quit ’(コーク兄弟がロサンゼルスタイムズを買収したら、半数のスタッフが辞職)と題する記事が出ている。こうなると、フランク・キャプラの映画を彷彿とさせる騒ぎである。 
http://www.huffingtonpost.com/kathleen-miles/koch-brothers-la-times_b_3180391.html 
  ハフィントンポストは今では世界的な商業媒体になってしまったがもともとは既存の紙媒体に対する草の根の対抗勢力として生まれた歴史を持つ。創設当時はブッシュ政権の時代で新聞も政権よりになり、市民の期待からかけはなれたメディアと化していた。そこでアリアナ・ハフィントン氏がAOLの元幹部とともに創業したのがハフィントンポストである。当初は大半の記事が無料でも書きたいというブロガーたちの原稿で成り立っていた。80年代からアメリカの新聞媒体では株主への配慮から短期利益を優先せざるを得ず、調査報道班が解体に追い込まれていた。その経緯は「アメリカ・ジャーナリズム」(下山進著 丸善ライブラリー)に詳しく書かれている。 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201203181223330 
■トリビューン社のウェブサイト 
http://corporate.tribune.com/pressroom/?page_id=4200 
  ’Tribune is one of the country’s leading multimedia companies, operating businesses in publishing, digital and broadcasting. In publishing, Tribune’s leading daily newspapers include the Los Angeles Times, Chicago Tribune, The Baltimore Sun, Sun Sentinel (South Florida), Orlando Sentinel, Hartford Courant, The Morning Call and Daily Press. The company’s broadcasting group operates 23 television stations, WGN America on national cable and Chicago’s WGN-AM. Popular news and information websites complement Tribune’s print and broadcast properties and extend the company’s nationwide audience.’ 
 
■コーク(Koch)兄弟についての考察 宮田智之 
http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=763 
  「カンザス州ウィチタには、エネルギー・コングロマリットのコーク・インダストリーズ(Koch Industries)がある。同社を経営するチャールズ・コーク(Charles Koch)とデイビッド・コーク(David Koch)の資産はそれぞれ二二〇億ドルに達し、二人は共に『フォーブス(Forbes)』誌の世界長者番付(二〇一一年版)の十八位に入っている*1 このように世界的にも大富豪のコーク兄弟は、現在、アメリカ政治を賑わす対象である。二〇一〇年夏のジェーン・メイヤー(Jane Mayer)による『ニューヨーカー(New Yorker)』誌の記事以降、リベラル派はティー・パーティー運動に資金を提供しているとの理由でコーク兄弟を執拗に攻撃している*2 。」 
  東京財団のウェブサイトで宮田智之氏はコーク兄弟について、その家族の歴史から思想とビジネスを紹介していて興味深い。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。