2013年06月03日12時00分掲載  無料記事
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地域

【安房海より】香りビジネスと健康被害  田中洋一

 きっかけは、この通信の読者から寄せられたメールだ。香りの強い柔軟剤や洗剤、シャンプーが出回るようになり、職場も電車の中もにおいの化学物質で充満し、体調不良に陥っているという内容である。最近は満員列車もオフィス勤務も無縁な私は、彼女の指摘に初めは戸惑った。でも調べ始めると、強い香料に閉口している人が結構いることが分かった。今回はそれを報告しよう。 
 
 まず新聞の投書から。愛知県の60代の主婦が先月こんな投稿をしている。彼女は植物園を案内するボランティア。1人の客の洋服についた柔軟剤の香りが強過ぎたので、天然バニラの香りを他の客に楽しんでもらえなかったそうだ。「人工的なきつい香りが狭い場所で充満すると、かえって不快な時もあります」と訴えている。柔軟剤とは、洗濯物を柔らかく仕上げるために洗剤に加えた化学成分。だが近年は、肌触りよりも香りを重視する商品が増え、日本でも2000年代後半から売り上げは急増している。 
 
 香りやにおいには好き嫌いが伴う。風土や文化が培ってきた民族性も反映される。だから、新たな香りやにおいは、時間をかけて少しずつ慣れ親しむべきものだと思う。しかし現実には、差異化を求める商業主義と商品の目新しさが幅を利かしている。ここで俎上に乗せる<においビジネス>もそうした一環なのだろう。 
 だが好き嫌いの域を超え、健康に悪影響を及ぼすとなれば、ことは重大だ。この点について、確証を持って語る資格は私にはない。余りにも取材が足りないからだ。とはいえ、傍証はある。 
 
 岐阜県庁は昨夏、化学物質過敏症に苦しむ人たちへの配慮を求めるポスターを張 
り出した。香料つまり香水・整髪剤・柔軟剤・芳香剤……が「化学物質過敏症の方には、頭痛やめまいなどの健康被害を発生させる要因となることがあります」と呼び掛けている。 
 症状に苦しみ、禁煙や分煙の進むたばこと同様に、せめて公衆の場では香料を控えて欲しいと訴え出た人たちが背景にいる。同様の自粛要請を、少なくとも岡山県や大阪府吹田市はしている。 
 
 自治体が、健康被害の確認を待たず、自主規制に乗り出した点を評価したい。健康問題は、被害者から訴えがあっても、企業側の反論や行政の消極姿勢で、対策はずっと後になるのが常だからだ。 
 
 私は20年前、電磁波障害に警鐘を鳴らす原稿を書いた。住民の問題提起を基に、送電線の直下に暮らす小児の白血病発症率が数倍高くなるという米国コロラド州での疫学調査を根拠にした記事だ。日本国内には当時、安全性の基準はなく、上司から慎重さを求められた。しかしその後、電磁波の健康障害は様相を変えながらも世界で認められ、WHOが認定するところまできた。 
 さて、においビジネス。当事者の切実な問題提起と、それを受け止めた同僚ジャーナリストの活躍に期待したい。 


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