2013年06月05日10時53分掲載  無料記事
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コラム

アベノミクスの論点    村上良太

  アベノミクスが始まったのが昨年12月だったから、約半年になる。この間、安倍政権は日銀の協力を得て為替を円安に誘導し、平均株価の上昇につなげた。庶民の多くは久々に景気のいい話だと喝采を送った。しかし、最近になって高騰していた株価が急激に下降する事態が何度か起き、アベノミクスは本当に大丈夫なのか、という不安も同時に広がっている。だが、その時その時の景気で一喜一憂するより、起きている物事の理由や長期的トレンドを考える方が有益なのではないか。 
 
  実質的に20年近く続いてきたデフレの下では物価が下降するよりも給料が下降する割合の方が一般に高かったため、デフレスパイラルが日本経済を駄目にしている、という認識は広範にあった。しかし、ここに来て.妊侫譴任茲った、とする声と▲妊侫貘从は必要だが、アベノミクスでデフレ対策は無理、とする声が目立っており、しかも両者がごちゃ混ぜになって庶民にはわかりづらくなっているように見受けられる。こうした中で、安倍政権は目標として10年後に所得が150万円上がると大盤振る舞いの発言をしている。 
  最近、目立つアベノミクス批判,鉢△力聖櫃鬚發Π貪戮泙箸瓩討澆拭 
 
 屮妊侫譴任茲った」という声 
 
  若い世代は車も買わず、モノを基本的にあまり消費しないように育ってきている。彼らは生まれた時からデフレに適応しており、地球環境を考えると未来はデフレ経済でよい、という声がある。若者は給料も低いが、モノを買わない生活にたけているので今のままでいいじゃないか、とする声である。しかも若者は単に貧乏というだけでなく、ファッションセンスは先行世代よりも格段によい。これは経済成長はもう必要ない、という最近台頭してきた経済理念と通底する。年金世代の多くも同感だろう。 
  しかし、この方向に進めば日本経済全体が縮小して、今の経済水準はいずれ保てなくなるだろう。円安が加速し、石油や金属などの海外の資源を買う余裕もぐっと減るだろうし、海外旅行も難しくなる。パソコンやスマートフォンなどの日常で扱う機械類ですら、簡単に手に入らない時代が訪れるだろう。これが地球に負荷をかけない暮らしである。そうした暮らしを長期的に受け入れる国民的覚悟が問われることになる。 
 
◆屮妊侫貘从は必要だがアベノミクスでデフレ対策は無理」 
 
  アベノミクスでは日銀の協力を得て、日銀が金融市場から大量に日本国債を買い上げて、市場に大量にお金(円)を供給した。金利の安い金が市場にだぶつけば景気が良くなるという期待と共に金を借りて設備投資したり、給料を上げたりといった実体経済に変化を及ぼせるとされた。 
 
  しかし実際には庶民の給料はほとんど上がっていない、という報道が目につく。さらに、景気が上がるのを実際に目にしてから・・・と設備投資を控える経営者が多く、国内の設備投資も増えていないとされる。その一方で物価だけは目に見えて上がっている。 
 
  物価が上がっているのは円安によっては石油などの資源や小麦粉などの原料価格が上がっていることが大きな原因となっている。これらは海外に支払う価格であり国内に還元されることがない。その一方で中国をはじめとした新興国から依然として安い商品が入ってくるため、日本国内でいくら物を作ろうとしても価格差が大きな障壁となっている。 
 
  アベノミクスでは日本国内にマネーを注ぎ込めば人々は日本製の商品をこれまで以上に買ってその結果、日本国内の産業が増産し、その結果給料も上昇し、雇用も回復するという夢のような絵を描いてきた。しかし、日本企業は依然として新興国に生産をシフトさせる傾向を変えていない。そのため、市場に金が流されても、庶民の暮らしの実質は改善されないばかりか、物価上昇にさらされる結果となっている。 
 
  アベノミクスを成功させるためには国内生産を増やし、国内の給料と雇用を改善することが不可欠だが、その肝心なところが何も変わっていないのでは10年後の目標もありえない。これまでの説明ではまず物価が先に上昇するから最初は生活は厳しいが、アベノミクスが効いて来れば少し遅れて給料がUPするから後はうまくいく、という説明であった。しかし、もし給料が今後もUPしなければ・・・?デフレ対策が必要と言う認識は同じでも、今のままではむしろ国民経済は悪化するという声が出ている。 
 
  さて、上の,鉢△任魯妊侫譴紡个垢觜佑方が180度違っているが安倍政権に対する批判という点では一致している。そのためか二つがあいまいな形でごっちゃになっている印象がある。しかし、この2つは水と油なのである。 
 
  ,力声圓任△譴丱ぅ鵐侫賁槁犬論外と言うことになる。 
  一方、△両豺隋国内の設備投資を強めるためにはよほど革新的で日本でなければ不可能な高度な生産を行うか、でなければ労働者の給与を新興国と同等まで下げるかしなくては難しいとされている(*)。しかし、後者では給料が下がり、デフレ対策にならない。デフレの原因が国内要因と言うより、冷戦後、労働市場が旧社会主義圏や発展途上国に開かれた結果、安い労働力が生産の主軸になってきたことにあるのであれば地上で最も安い給料と国内の給料が同等になるまでこのデフレ傾向は収まらないことになる(輸送費などの問題はとりあえずおいておく)。自由貿易を加速させれば加速させるほどそうなる。これがグローバリズムの実態であり、アメリカで起きたオキュパイ運動の理由でもあった。そして安倍政権はTPP参加の方針であり、決まれば自由貿易はより加速することになる。安倍政権がデフレ退治に本気で取り組むなら、工業だけでなく、農業や保険・金融も含めて、世界との価格差に耐えられる「高値でも売れる」革新的な技術がいったい日本国内にどれだけあり、世界にその需要が実際にどれだけあるかがこれから問われるだろう。 
 
  日本のトレンドの10年先を行くと見られているアメリカでは80年代以降、生産設備が海外に流出し、その空洞化の代わりになったのが平均給与が製造業よりも大幅に安いサービス業(スーパーの従業員やファーストフード店の店員など)だった。これらのサービス産業は商品の激安価格を売りにしている。もちろん商品や原料の生産設備は中国などの新興国にある。これらサービス産業で働く労働者の社会保険の充実度も企業によってさまざまで、最悪の場合医療保険に入れない労働者も多数生まれた(4000万人以上と言われる)。製造業は一般に熟練した技術が必要となるため付加価値が高い。その製造業が空洞化した一方、労働者の取り換えが容易なサービス産業が台頭し、製造業で失業した労働者が大量にそちらに流れ込んだ。その裏で大手チェーンの激安価格に対抗できない小さな店やレストランが大量に店じまいしただろう。この結果、アメリカ経済の中核を担うはずの中流層が激減し、大学に行けない若者が増えた。あるいは学費を賄うために実社会に出るまでに何百万円という単位の借金を背負う若者が生まれている。 
 
  アメリカのオバマ政権は製造業復活を唱えてきたが、その理由は国内製造業の回復こそが中流層をボリュームアップする手段であり、中流層の衰退こそが米経済悪化の核心だととらえていることにある。オバマ政権は国民経済回復の道のりを明確に描いた。それが焦点となったのが昨年の米大統領選である。オバマ政権は製造業を復活させるための政策を米国民にも公開し、遊説で問いかけた。11月、米国民はさらなるグローバル化を訴えたロムニー候補でなく、オバマ大統領を再選させた。オバマ政権は公約で今後税制を改正するとしている(産業を米国に戻した企業には税制優遇措置を取る)。一度海外に流出した生産設備を国内に戻すのは簡単ではない。それでも、それこそが経済の回復には必要であると訴え、選挙の承認を得て国を挙げて進めている。最近では米国内各地からシェールガスやシェールオイルが大量に掘削されるようになったことでエネルギー価格や原料費が格安となり、米製造業が国内回帰する追い風が吹いているが、実はそれ以前からオバマ政権は製造業の国内回帰を目標にしていた。 
 
  一方、アベノミクスによって安倍政権はどんな産業の未来図を描いているのか、「成長戦略」と言われるものの具体的中身が問題なのだ。大衆は本当にそれで生活がよくなるのか。輸出を中心とする大企業の収益が上がっても、それが庶民に還元されていないことに多くの人は気づき始めている(★細かいことは岩本沙弓著「バブルの死角〜日本人が損するカラクリ〜」詳しい)。一部の富裕層から富が零れ落ち、全体に豊かさが届き渡るという、これまで有効だった「トリクルダウン」理論はすでに消費期限に来ている。 
 
  しばしば経済学では景気への「期待」が実体経済を変えるとされる。しかし、今、日本でその「期待」が何にあるのかが漠然としすぎている。 
 
■世界銀行による貧困のデータ 
 
  今、世界がアフリカに向ける熱いまなざしの理由はどこにあるのか。それを示唆するのが世界銀行の貧困データである。http://data.worldbank.org/topic/poverty 
  現在、1日1.25ドル(約125円)以下の収入で暮らす人の割合が最も多いのがサブサハラと呼ばれるアフリカのサハラ砂漠以南の地域である。48.5%だからおよそ半数が1日125円以下の収入で生活している。 
  アフリカ開発会議と称する会議でアフリカに日本企業が注目しているのも鉱物資源ばかりでなく、サブサハラに安い労働力が豊富にあるからであろう。さらに1日2ドル以下に貧困のラインを広げればサブサハラの約70%、さらに南アジアの67%が射程に入ってくる。 
  こうした国々が「民主化」され、世界から投資が自由にできるようになれば旧ピッチで企業が進出することになるだろう。その象徴がミャンマーである。 
  単純化すれば日本人労働者が1日数百円の収入でも労働する日が来るまで、あるいはサブサハラの労賃が1日数千円に激増するまで、日本国内の空洞化は進む可能性がある。これを見ればグローバル時代のデフレ対策がいかに難しいかが一目瞭然である。南北間の経済格差が0になるまで先進国は1%の富裕層を除いて、大衆が窮乏化に甘んじる、という見方もあるかもしれない。 
 
■GNI(一人あたりの国民総所得) 
 
  安倍政権が掲げた10年後にGNI(国民総所得)を一人当たり150万円増やすという目標は、朝日新聞の報道によればイコール「家庭の収入ではない」。GNIは日本国民や企業が1年間に国内外でつくりだした付加価値の総額を表したものに過ぎない。そして一人当たり150万円というのは単純にその総額を国民の数で割った数字である。だから企業が利潤を会社で貯蓄し、社員に還元しなければGNIがいくらであれ、国民に行き渡らない。そして、「日本企業が国内工場を閉めて失業者が出ても、海外に工場を建ててもうければ、GNIは減らない」 


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