2013年06月15日19時41分掲載  無料記事
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反戦・平和

映画「日本国憲法」(ジャン・ユンカーマン監督)

  6月15日、代々木の婦選会館で「憲法を考える映画の会」という集まりがあり、そこでジャン・ユンカーマン(John Junkerman)監督によるドキュメンタリー映画「日本国憲法」が上映された。ユンカーマン監督は憲法第9条に焦点を当てながら、戦後にこの憲法を作った人々がいかなる考えで作ったのか、またこの憲法が後にアジアや世界の人々にどう受け止められたのかを丹念に各地を訪問して取材している。証言者は歴史学者のジョン・ダワー、社会学者の日高六郎、政治学者のダグラス・ラミス、憲法を作成した一人のベアテ・シロタ・ゴードン、そして中国の班忠義と韓国のシン・ヘス、ハン・ホング、ベイルートのジョゼーフ・サマーハなど実に多岐にわたる。 
 
  会場には監督のユンカーマン氏も訪れ、様々な観客の感想を聞いた後、自ら撮影にまつわるエピソードや思いを語った。 
 
  「日本国憲法」が最初に上映されたのはイラク戦争がまだ生々しく話題になっていた2005年のことだ。映画にも出てくるが、ブッシュ大統領と密接な親交のあった小泉総理が率いる内閣は2003年に自衛隊をイラクのサマワに派遣することを決めた。この時、小泉総理は国会で「憲法を改正している時間がない」といった内容の答弁をしている。この時は憲法を改正せずその解釈だけを改め、特別法としてイラク特措法を作り自衛隊をイラクに送ったのだ。しかし、イラク戦争では戦争目的であったサダム・フセイン政権が製造していたはずの大量破壊兵器が出てこず、戦争目的自体がねつ造されたものに過ぎなかったことが後に明らかになった。イラク人の死者は数十万人に及び現在もその数すら定かでない。あれから10年後の今日、イラク戦争に対する戦争責任もうやむやのまま、安倍政権は憲法第9条の改正を目指している。 
 
  監督のユンカーマン氏はこの映画について次のような声をパンフレットに掲載している。 
 
 「私が初めて日本を訪れたのは1969年のことである。その頃、ベトナムのジャングルでは50万人以上のアメリカ兵が戦っていた。私は16歳だった。当時のアメリカには徴兵制があったから、いずれは自分も不当で無節操な戦争に参加しなければならないという不安を感じていた。日本の平和憲法は、アメリカにあふれ返る軍国主義と明確な対照を成す、悟りと知恵の極致のように思えた。そのことが、日本にいるといつもやすらぎを感じられた理由の一つであろうし、私が長い間、日本に住み、日本で子供たちを育てようと決めた大きな理由ともなっている。」(ジャン・ユンカーマン) 
 
  そして、上映会場で次のように語った。 
 
  「9条みたいな歯止めがなければ、戦争は簡単に始まるものなんです。でも、終わらせるのは大変ですよ。イラク戦争を始めて半年たったら戦争に意味がないことが判明しましたが、それから終わらせるまでに10年もかかったんです。その間に帰還兵の半分に当たる86万人が病院にかかっています。またPTSDは26万人に上っています。帰還兵の自殺率がとても高いのですが、その帰還兵を迎える家族もまた崩れているのです。」 
 
  帰還兵の自殺率はおよそ80分に1人。換算すると1日およそ18人、1か月で500人、1年で6000人になるという。これは米兵がイラクで戦死した数よりもはるかに多い。 
 
  太平洋戦争でも日本政府は真珠湾を奇襲した後、優勢な時点で早期に米国と講和を行い戦争を終結させることを考えていたが、実際には4年に渡る長期戦となり、本土は空襲で焼け野原と化してしまった。 
 
  「2005年頃、何百回と憲法について考える集会がありました。そうした努力の結果、日本国憲法に対する知識が広がったと思います。ですから今、憲法改正の動きがありますし〜もちろん危険な動きだと思っていますが〜でも簡単に憲法を改正することはできないんじゃないでしょうか。」 
 
  ユンカーマン氏のこの映画にはナレーションはない。見る人が映画に参加していろんな解釈をしてもらいたいからこのような作り方になっているという。だから、こうした映画を見る小さな集まりでは会場の人々の参加によって、さまざまな考え方に出会うきっかけとなり、より大きな<映画>となりうる。それは世界に対する見方を変える契機となり、民主主義を作るのです、とユンカーマン監督は語った。 
 
 
■『映画 日本国憲法』(監督ジャン・ユンカーマン)〜憲法を考える映画の会の第3回目〜花崎哲 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201306100110271 
■ジャン・ユンカーマン 
http://www.cine.co.jp/list/junkerman.html 
  「1952年、米国ミルウォーキー生まれ。 画家の丸木位里・俊夫妻を取材した『劫火-ヒロシマからの旅-』(1988年)は米国アカデミー賞記録映画部門ノミネート。9.11のテロ後にノーム・チョムスキーにインタヴューした『チョムスキー9.11』(2002年)は世界十数カ国語に翻訳され、各国で劇場公開された。他に、与那国のカジキ捕りの老漁師を描いた『老人と海』(1990年)、エミー賞受賞作「夢窓〜庭との語らい」(1992年)など。現在も日米両国を拠点に活動を続ける。」(シグロのウェブサイトより) 
 
■企画 「イラク戦争の傷痕〜増える脳損傷者〜」 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201111101152004 


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