2013年07月06日14時28分掲載  無料記事
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<講演記録> 安倍改憲政権の企む日本改造の正体─国難が生む“ファシズム”にどう向き合うか<下> 桂敬一(マスコミ九条の会、元東京大学教授)

<3> 新手の“ファシズム”の特徴 
―民主的な社会の崩壊のあとにくるもの 
 
◆安倍政権が自分で構築し、自ら縛られていく右翼人脈 
 
 日本の国難というものを考えるとき、私は、もう一つ新しい要因が生まれているような気がしてなりません。たとえば、アメリカも行き詰まっていますが、まだアメリカの場合は、ある種の本場のデモクラシーというものの復元力が蘇り、有効に働くことがあり得る。「チェンジ」を国民に呼びかけたオバマが登場したのは、そういうものでした。ところが、日本では、失脚から蘇った安倍首相は、右翼バネしか持ち合わせていない人物です。 
 
彼が一番いいと思っているのは、明治維新をやった長州ですし、一番尊敬する人物は、あの国難の時に商工大臣をやっていた自分の祖父、岸信介氏なのです。その岸は戦犯であったが見事に蘇り、60年安保をやった。日本の凶悪な左翼を撃退し、日米安保体制を作り、日本の首相として初めてアメリカ大統領、アイゼンハワーと一緒にゴルフをし、パターを貰った。そういうおじいちゃんを彼は心の底から尊敬し、愛している。岸は本格的な右翼です。自由党の時すでに「押し付け憲法」反対、「占領憲法」反対の立場を旗幟鮮明に示し、現在の自民党改憲草案のもとになる案を作った人です。安倍首相が今度、オバマ大統領を訪問したとき、おじいちゃんがアイクから貰ったパターを持って行って、オバマに見せたというんでしょう。本当に馬鹿です。彼の頭の中にはその程度のことしかない。 
 
 そういう彼がどういうことをやるか。資料3[アベノミクスと「教育再生」・改憲の安倍人脈]を見てください。これを見ると、つくづくいやになります。「アベノミクス」に誰が関わっているか。相変わらずのアメリカ一辺倒、規制改革・民活派です。それから、安倍首相は前首相だった2008年に「教育基本法」を改悪しました。教育基本法の中には、教育への政治の介入を禁止する条項があります。それは「国は教育に介入してはいけない」とするものでした。ところが安倍さんはこれを、「教育の中に不当な影響を与えるような介入」という書き方に変えた。そして、「例えば、日教組のような団体が介入するのを禁じるんだ」と明言したのです。この「改正」は教育基本法の根本を、完全にひっくり返す 
 
資料3.アベノミクス・「教育再生」・改憲の安倍人脈 
 
1.内閣官房参与(官邸直属ブレーン)) 
 浜田宏一・米エール大教授(国際金融)。金融緩和と財政出動主張。 
 本田悦朗・静岡県立大教授(国際経済)。インフレ政策主張、日銀批判。 
 藤井聡・京大大学院教授(土木工学)。国土強靱化政策主張。 
 
2.経済財政諮問会議(閣僚以外のメンバー) 
 黒田東彦・日銀総裁 
 伊藤元重・東大大学院教授(国際経済)。インフレ目標論者、TPP推進派。(注) 
小林喜光・三菱ケミカルホールディングス社長 
佐々木則夫・東芝社長。原子力発電推進派。 
高橋進・日本総合研究所(三井住友フィナンシャルグループ系シンクタンク)理事長 
 
3.産業競争力会議(日本経済再生本部に設置。首相が議長) 
 秋山咲恵・サキコーポレーション(産業用検査ロボット)社長 
 岡素之・住友商事(総合商社)相談役 
榊原定征・東レ(繊維)会長 
坂根正弘・コマツ(建設機械)会長。経団連副会長 
佐藤康博・みずほフィナンシャルグループ(金融)社長 
 竹中平蔵・慶大教授。元経済財政相。規制緩和・構造改革派、TPP参加推進主張。 
新浪剛史・ローソン(流通)社長。経済同友会副代表幹事 
橋本和仁・東大大学院教授(応用化学) 
長谷川閑史・武田薬品工業(製薬)社長。経済同友会代表幹事 
 三木谷浩史・楽天(ネットショップなど)会長兼社長。新経済連盟代表理事 
 
4.規制改革会議の復活(稲田朋美行政改革相の区処の元に置かれる) 
 1月23日に第1回会議開催。企業経営者や大学教授ら民間委員15人で構成。この日は議長に岡素之・住友商事相談役、議長代理に大田弘子・政策研究大学院大教授を選任。 
 
5.教育再生実行会議(本部長・首相) 
 座長=鎌田薫・早大総長。専門は民法。グローバル人材育成提唱。 
 副座長=佃和夫・三菱重工業会長。自衛隊支援を目的とする全国防衛協会連合会会長。 
 大竹美喜・アフラック最高顧問。「競争なき社会に進歩なし」。 
尾崎正直・高知県知事。知徳体のバランスが取れた教育を強調。 
 貝ノ瀬滋・東京都三鷹市教育委員長。地域ぐるみの学校運営経験者。 
 加戸守行・前愛媛県知事。戦前「修身」のような道徳科目の必須化主張。 
 蒲島郁夫・熊本県知事。東大名誉教授(政治過程研究・計量政治学)。 
 川合真紀・東大教授。地域に開放された「学校」づくりを。 
河野達信・全日本教職員連盟委員長。愛国心教育主張、反日教組活動。 
 佐々木喜一・成基コミュニティグループ(塾経営)代表。しつけ教育の重視。 
鈴木高弘・専修大付属高校長。学力の底上げ主張。 
 曽野綾子・作家。教育現場の「日の丸」「君が代」賛成、沖縄戦の集団自決強要否定。 
 武田美保・スポーツ・コメンテーター。シンクロナイズドスイミング五輪メダリスト。 
八木秀次・高崎経済大教授。「新しい歴史教科書をつくる会」元会長。 
山内昌之・東大名誉教授。中東・イスラム地域研究。文科省文化審議会委員。 
 
6.中央教育審議会 
 2013年の委員半数改選で、ジャーナリストの桜井よし子氏が委員就任。 
 
7.第二次安倍内閣閣僚の改憲政治団体所属状況 
(1)日本会議国会議員懇談会(閣僚19人中13名)) 
    安倍晋三総理          麻生太郎副総理・財務相 
谷垣禎一法相          岸田文雄外相 
    下村博文文科相         田村憲久厚労相 
茂木敏充経産相         小野寺五典防衛相 
菅義偉官房長官         根本匠復興相 
古屋圭司公安委員長       甘利明経済再生相 
稲田朋美行革相 
 
(注)「日本会議」は、日本の伝統と国柄に基づく憲法改正、首相による靖国神社公式参拝、新学校教育法に基づく「いじめ」等の根絶、外国人参政権反対、人権擁護法案反対などを目指す、生長の家が主唱した超保守的な政治団体。「日本会議国会議員懇談会」(1997年5月発足。現在の会長は平沼赳夫・日本維新の会国会議員団代表)は国会議員による同会議の事実上の支部組織。超党派の国会議員が約250名所属するとみられる。 
 
(2)新憲法制定議員同盟 
安倍晋三総理 麻生太郎副総理・財務相 
    谷垣禎一法相          下村博文文科相 
    林芳正農水相          石原伸晃環境相 
山本太一沖縄・北方相      稲田朋美行革相 
 
(3)創生日本 
当初は「保守系議員連盟」(2010年に自民党が呼びかけて結成した超党派の団体。中川昭一議員が会長)。中川会長の自殺後、改称し、安倍氏が会長となり、現在は自民・維新・みんな・新党改革などの議員が結集。 
 
                              以上 
 
 
ものでした。そして、こういうことの続きを、今度は憲法レベルでやろうとしているわけ 
です。 
 
まずトップのブレーンを見ますと、内閣官房参与に浜田光一、本田悦郎など、彼が私淑するお師匠さん、「アベノミクス」をやれやれと言っている本家が顔を揃えています。次に経済財政諮問会議ですが。これには日銀総裁も入る。白川さんは中央銀行の中立性を守るのに頑張ったんですが、彼が退いて黒田さんが入った。黒田さんは財務省の回し者みたいな人です。安倍さんの先回り先回りをすればいい。伊藤元重という東大教授も、もともとインフレ目標論者で、読売新聞の社説と同じです。あとは財界人です。 
 
 次の産業競争力会議は、細かいことをいろいろやるところですが、経団連や経済同友会のメンバーがずらりと入っている。また、一度死んだはずの竹中平蔵さんが生き返って、TPPへ入れとか構造改革をやれとか言っている。また楽天の三木谷浩史が入って、新しいデジタル商売のための規制緩和などでエンジンを吹かしている感じです。 
 
 さらに規制改革会議の復活も決まっていますが、竹中構造改革の時に一緒にいた、政策大学院大学の太田弘子さんが入るようです。規制改革担当大臣の稲田朋美さんは、靖国神社万々歳の右翼中の右翼です。 
 
 それから、教育再生実行会議というのは、改悪された教育基本法の右翼路線をこと細かく固めようというところです。大竹美喜さんというのはアフラックの最高顧問で新自由主義的な競争至上主義者です。河野達信全教連委員長は日教組の敵役です。佐々木喜一氏は成基コミュニテイグループという塾の経営者です。曽野綾子さんは君が代・日の丸大賛成で、沖縄戦の集団自決に軍の強制はなかった、と主張する方です。八木秀次は新しい歴史教科書をつくる会の元会長です。それから中央教育審議会は委員が半数入れ替わったのですが、その中にこわもてのジャーナリスト、桜井よし子さんが入ってきました。 
 
 そして、第二次安倍内閣閣僚の改憲政治団体所属状況が問題です。閣僚19名のうち13名が「日本会議」のメンバーです。日本会議というのは、生長の家の肝いりでできた国粋的な超保守の団体です。こういう考え方の下で「日本をトリモロセ」なんてやられたらとんでもないことになる。それから「新憲法制定議員連盟」というのをつくっているんですが、ここに所属しているのは、安倍首相以下、8名の閣僚です。自民党改憲草案に陽の目を見せようとする面々です。さらに安倍晋三氏を会長とする「創生日本」という団体が国会の中にありますが、この団体は、2007年にできた保守系議員連盟が2010年に「創生日本」と名を変え、初めは自殺した中川昭一さんが会長でした。現在は自民党のほかに、維新の会、みんなの党、新党改革の議員もメンバーになっています。 
 
 このように安倍氏を取り巻くというか、彼が使っている人たちは、その顔ぶれからもわかるように、恥も外聞もない、立派な右翼と言っていい方々が圧倒的に多い。 
 
◆維新の会との連携強化はファシズムを養う土壌を用意する 
 
 そして、このような自民党政権に今、維新の会が連携強化を狙って急接近しているわけです。新しい動きをみせようとしている。例えば3月30日の朝日夕刊に、日本維新の会の綱領の一部が載ったが、そこには「日本を世界からの孤立と軽蔑の対象に貶め、絶対平和という非現実的な共同幻想を押し付けた元凶である占領憲法を大幅に改正し、国家、民族を真の自立に導き、国家を蘇生させる」とある。これが維新の会綱領の改憲宣言部分です。 
 
 これは、自民党の改憲草案の新バージョンに出てくる文言と瓜二つです。また、読売新聞の憲法改正試案、4回ぐらいリバイスされてきたものの中に何回も出てくる文言とも同じで、安倍首相の先を行くような過激な表現になっている。 
 
 こういうものが全部一体となってつぎつぎに出てくると、日本は今、外国から軽蔑されている、外国との紛争の脅威にさらされている、外国はますますけしからん態度になっている、という思いに駆られる人たちはいきおい、日本は力で対抗しなければ舐められてしまう、力で出て行かねば駄目だ、という変な危機意識ばかりが煽られることにもなる。そういう怒りや勢いばかりが高まってくるんですね。そういうとき、岸田外相のような立場の人は、中国との関係に触れる言動は、慎重に考えないといけないのに、例えばNHKの番組の中でも、中国は東アジア地域の脅威である、などと平気でいってしまう。自然に出てきてしまうんです。そして、これが一部の政治家だけのことでなく、みんな当たり前のようにこれに呼応する動きも出てくるようになる。このような排外主義的傾向の高まりは、ファシズムへの第一歩になりかねない。 
 
◆「在日特権許さない市民の会」の横行、内向する集団群 
 
 最近、朝日がようやく記事にしましたが、新大久保にある、コリアンタウンとかエスニックタウンとか呼ばれる地区での在日朝鮮籍の居住者に対する排撃の動きは、無視できないものがあります。通りを挟んで在日の人や、タイとかベトナムの人たちも混じって、いろいろなお店を開いていており、日本の市民が喜んでそこを訪ねる、ちょっと面白い多文化的な環境のところです。食べ物も安くて美味しいし、いろいろなアジア人の風俗も面白いと、みんなが楽しみにして行きますね。そこに2月頃、「在日特権を許さない市民の会」、俗に「在特会」と称する集団のメンバーがデモをかけるようになったんです。 
 
彼らは最初、千葉の方でビザなしで不法滞在していたフィリッピン人の一家が強制退去の処分を受けたとき、その家族が住んでいる町にいって、不法滞在者は出ていけとデモをかけ、騒ぎを起こしました。あと、サクラチャンネルというCSテレビで桜井という代表がアジテーションを行い、知られるようになってきました。アジの内容は排外主義的なものです。この連中がコリアンタウンで始めたデモは、ネットテレビがすぐ報じるようになりました。大がかりなデモではないのですが、プラカードに「朝鮮人首をつれ 毒を飲め 飛び降りろ」とか、「いい韓国人も殺せ、悪い韓国人も殺せ」などと書いてある。それから、シュプレヒコールでも、「ソウルを焼野原にせよ」とか「朝鮮人は殺せ」とか叫んでいるんです。ヘイトクライムとかヘイトスピーチとかいうもので、異なる宗教・民族や、同性愛の人、障害者などの社会的な少数者を排撃し、憎悪を掻き立てる言説を公然と流布する行為を指します。 
 
外国ではこれだけでも犯罪として取り締まりの対象になる。しかし、こういう行為が東京で、警察が許したデモとしてまかり通っているんです。これ対しては、流石に一般市民の側は常識を備えており、「みんな仲良くしようぜ」とか、「外国人差別はやめよう」とか書いたプラカードを持って道路の両脇で掲げ、罵声を浴びせるようなことはいっさいせず、乱暴な奴が焼肉店やキムチの店に飛び込むようなことがないように、見守ったりしています。最近、こういう人たちの数の方が多くなってきています。オウム事件のときに頑張ったジャーナリスト、有田芳生さんなども、張り付いて警戒しています。ようやく朝日が記事にしましたが、もっとメディアは大きく、また長く取りあげ、社会に警報を発していくべきでしょう。 
 
◆外に“敵”みつけると噴き出す国家ナショナリズムの暴走 
 
 外に敵を見つける。そして、そこに向かって国家ナショナリズムをどっと噴出させる。そういうことが起こりやすくなっている。安倍さんのメンタリティーとか思想的体質は、そういう動きにブレーキをかけるものではない。反対にそういう動きを勢いづかせるところがある。その流れの先にある終着駅として彼が想定している改憲というものを考えてみると、容易ならない情勢がいま日本に生じつつある、という気がします。そういう流れの底の部分では、いろいろなことが起こっている。だれもが独りではこの社会に落ち着いてはいられない。なにかの団体、集団に属し、その組織のルールや掟に従うと、ようやく落ち着ける。しかし、集団の中では、イジメや体罰が横行し、不安が絶えない。もっと大きな一つの力にくるまれないと安心できない。そういうところに国家ナショナリズム大きく立ち現れると、それが改憲という政治イベントとも結びつき、日本的なファシズムができあがってくるのではないか、と心配になります。 
 
 国民の生活が厳しくなっていく。仕事もない。そういうことから生じる不安や、社会から排除されているような疎外感も、人を集団への帰属に追い立てます。どこかの集団に入りたいと思う人間が増える。強力な集団に入ってその掟に従うことになると、束縛よりも自信と責任感に満たされ、使命感さえ湧いてくる。 
 
1920年代末、第一次大戦敗戦後の傷が癒えぬうちに、大恐慌に巻き込まれ、深刻な経済危機に見舞われたドイツでは、民主的なワイマール体制が崩壊、その割れ目からナチが出現、行き場のない孤独な人たち、先輩世代に失望している若者たちなどを急速に集め、活気のある、戦闘的な政治集団を形成していった。敵に不足はなかった。敗戦ドイツに、払いきれないほどの賠償など、過酷な懲罰を科した戦勝国、東方に出現した危険な共産国・ソ連、つねにドイツを裏切るユダヤ人。今日本でこれと似たような変化への機運をつくり出す決め手は、安倍政権より、むしろ維新の会の方が大きく握っているかもしれません。両者の合体は紛れもなくその危険を飛躍的に大きくするでしょう。そういう動きをこの段階でどう食い止めるかが、いま大きな問題になっている、と考えます。 
 
<4> 7月の参議院選を勝つ 
―マスコミに過ちの歴史を繰り返させない 
 
 もし7月の参議院選挙で護憲勢力が負けたら、どういうことが起こるでしょうか。負けるという意味は、維新の橋下氏の露骨な言い方のなかに発見できます。「私たちが公明党の代わりをする。私たちは既得権を打破する党だから、今の自民党の既得権のあり方は許さない。すなわち自民党に打撃を与える。だけど自民党がその気になれば、我々維新の会、自民党、みんなの党が集まって、参議院選挙で3分の2以上の議席を取り、参議院での憲法改正の発議権を獲得する勝利が収められる。そうなれば、この勢力はすでに衆議院では3分の2以上の議席があるから両院で第96条を変え、すぐ過半数で改憲発議が可能となるようにすることができる。こういうやり方をすれば、公明党はいらない」といっているわけです。 
 
 そういう形になっては、私たちの負けです。そうさせないためにどうするか。彼ら以外の勢力を全部糾合し、参議院選で彼らに3分の2以上は与えない、ということができれば、当面の勝利を確保、良く戦えたといえるでしょう。しかし、彼らに過半数でも許せば、それはかなり危険です。自民党、維新の会、みんなの党などで過半数になると、通常の法律決議で自衛隊法などをいじり、外堀をいろいろ埋めてくるということが考えられるからです。そういう意味では、できれば過半数も取らせたくない。だが、なんとしても3分の2以上は取らせないことが必要です。この点で負けると、この先5年10年どころか、おそらくもっと長い期間、日本は歴史的に大きなダメージを受け、特にアジアの国々の信頼を失い、そこから立ち上がるのも難しくなる。そういう心配がある。 
 
 もう一つ、都議選も重視する必要がある。都議会への進出を維新の会が狙っています。維新の会は都議選で恐らく20議席ぐらいの獲得を狙っている。都議会で一番多いのは民主党で42名です。与党の自公は、自民党が40名、公明党が20名で、計60名です。そこに維新の会が20名入ってきたら、それは、参議院選で彼らが目指す勝利に対する、前哨戦における勝利といった成功を許すことになります。公明党を排除しても自分たちがその分埋めるから都議会は大丈夫だ、といえるわけです。追い込まれる公明党もかなり危機感を募らせ、96条の改正についてはそろそろ自民党と共同歩調を取るか、という雰囲気になりつつある。 
 
公明党というより創価学会の婦人部は、護憲でよく頑張っています。そういうところがどこまで頑張れるのかという問題があるにはありますが、やはり権力政治の舞台裏では、政党同士の上層部の野合みたいな部分があり、公明党はもうかなり危ない、と思うべきでしょう。維新の会は、大阪では散々勝手なことをやってきましたが、首都圏エリアではそんなことは許さないぞと、突っぱねていく必要があると思います。 
 
 こういう戦い方をするとき、既存の政党も、今までのやり方だけで選挙をやっていいのかということを、問われることになります。私は、今までどおりではだめだ、危ない、と思います。例えば、社民党でも共産党でも、選挙をやるとなると、それは当然のことなのですが、自党の支持者をどれだけ増やし、自党の票をどれだけ多く稼ぐかということになる。けれども、敵が連合勢力をつくって一緒に攻めてくるときに、今までどおりのやり方だけで対処するのでは、勝ち目がなくなる。もっとたくさん味方になってくれそうな勢力の見つけ方、あるいは作り方を勉強し、敵を除く残り全部で一緒にたたかえるような体制を構築する必要があるのではないか、と思います。たとえば、滋賀県の嘉田知事が立ちあげた未来の党をどう評価したらいいのでしょうか。総選挙の時は小沢さんのところ、生活が第一と組んで目算が狂い、おかしなことになりましたが、未来の党そのものには、まだ市民のあいだでかなりの人が期待をよせているのでは、と思います。それを見限るのはもったいない。 
 
それから今、緑の党みたいな政治集団があちこちで生まれていますね。それらは、綱領を掲げ、政党的な首尾一貫性を備えているというより、重要な市民的要求を大きな政策課題として掲げ、政府に働きかけてその実現を目指す、というようなスタイルの政治運動団体です。たとえば、原発問題では首都圏反原発連合=反原連が好例です。ミサオ・レッド・ウルフさんが代表となっていますが、どちらかといえば世話役です。彼ら彼女らは党派的な政治勢力の介入を嫌いますが、自分たちの運動が政治的意味を持っていることは、ちゃんと理解しています。そういうところと、政策課題ごとに協力し、一緒になってたたかう工夫が必要なのです。もう政党とその選挙だけという組み合わせで政治闘争をつづけようとしても、目算も成算も立たなくなっているのです。 
 
市民が自分たちの生活の問題、身の回りの細かな問題、あるいは社会的な問題について危機感を抱いていることがあれば、既存の政党は自分のほうからそっちに近づいていき、そこにあるおかしなことを引っくり返したり、危険な状況に陥るのを防いだりし、みんな一緒になって望む方向に進んでいこうと呼びかけ、みずから先頭に立って問題の解決に力を尽くしていくことが求められている。そのような運動のなかでどれだけ多数の市民を結集できるかが、今度の選挙の成否を分けるカギになる。思い切った取り組み方が必要になるでしょう。たとえば、議員定員2名の小選挙区で、自公が調整し、候補を1名に絞って出してくるとき、これに対して社民党、共産党、未来、無所属の反原発派、維新、みんなの党なども、それぞれ一人ずつ候補を立てれば、どういうことになるか。維新・みんなが組めば、ほかは全部負け、改憲派・原発推進派に二つの議席を独占させる結果に終わる危険が大きい。逆に社民・共産・未来・無所属反原発派が候補を一人に絞ることができれば、1議席を確保する可能性が生まれる。こういうことがやれるか否かが、今度の選挙では現実に、非常に重要な問題になっているわけです。 
 
そういう勢力をどうやって作っていったらよいか。まず統一勢力の呼び方をどうするか。右翼、ファシズムに対して「護憲リベラル」はどうか、という声を耳にします。早稲田の水島教授は「立憲リベラル」のほうがいい、とおっしゃっていました。リベラルにはネオリベラル=新自由主義を連想させるところがあるので嫌いだ、という人もいます。もっといい言い方がないか、考えみたい。いくつかの名前を許容し、連合するテもある。また、そういう集団的な流れをつくっていくとき、その運動に相応しいどんな人、あるいは人たちに、運動を呼びかけていく「顔」になっていただくかも、大事な問題です。「九条の会」の成功も、あの9人の方々のお顔がそろったことに負うものでしょう。最近の経験でいえば、2008年暮れの派遣村活動で名誉村長を務め、その後、日弁連(日本弁護士連合会)の会長となった宇都宮健児さんが都知事選候補になったとき、サラ金・貧困問題、解雇反対、反原発、東京五輪招致反対などなど、さまざまな市民運動団体の関係者が勝手連的に動き、各方面の著名人の賛同を募ってたくさんの「顔」をつくり、その人たちから寄せられたメッセージをネットに発表しつづけ、また「顔」の方々を招いていろいろな支援集会も開催、投票協力を呼びかけました。その結果、猪瀬候補に負けはしましたが、知名度を高めるうえで大きな力を発揮することになりました。7月の参議院選挙にも、参考になるたたかい方ではないかと思います。 
 
そして今、広範な市民に結集を呼びかけようとするとき、つぎの4つの課題が大きな柱になるのではないでしょうか。 
 
1.「脱原発」を前に進める―放射能洩れのまま東京五輪が呼べるか 
「脱原発」は依然として大きな柱です。ただし、これを単純に、あるいは抽象的に「反原発」という言い方の繰り返しで終わらせたくない。「脱原発」という言い方のほうが、その先で何をやるのか、何を目指すのか、かち取るべきものは何なのか、を示唆する力があるので、これを積極的に使いたい。そう思っていた矢先、3月18日に福島第一原発の1号機、3号機、4号機の使用済み燃料棒プールの冷却水を送る装置が、変電所の突発停電で2日間止まる事故が起きました。肝が冷えますね。政府は例によって、大したしたことはない、という。しかし、続報で写真を見ると、変電所といってもトラックの上に置かれただけの仮設パネルの変電装置で、それにキャンバスの覆いが掛けてあり、剥き出しの電線がつないであるだけ。開けてみたらネズミの死骸があり、これが電線を囓ってショートさせたらしい、という話です。よくそんな状態に放置してきたものです。また、汚染水の排水管も露天に晒されたままのホース群で、ところどころ絡み合ったりしている。一番恐ろしいのは、海に流せない高濃度の汚染水をタンクに溜めているけれど、発電所の敷地をはみ出し、周りの林まで切った広大な用地に広がるタンクが、900本もあるということです。そのうちの3割、270本のタンクは継ぎ手に溶接が施してなく、ボルトで留めただけの仮設の簡易タンクです。 
 
このタンクたち、2020年の東京オリンピックまで、完全に保全できますか。その前に震度6ぐらいの地震がきたら、いくつも倒れたり壊れたりするかもしれませんよ。野田首相は辞める少し前、福島第一原発の事故は収束した、と宣言しました。ふざけた話です。日本人は信じるかもしれませんが、外国人は誰も信じていません。フランス人とアメリカ人はとくにそうです。フランス政府は、「3・11」のあと、すぐチャーター機を差回し、在日フランス人を乗せ、帰国させた。東京・麻布のフランス大使館は京都に引越し、今もそのままです。アメリカが「ともだち作戦」を迅速に実施したのも、日本のためというより、4号機の燃料貯蔵プールが倒壊したら、もう東京はおしまいなので、同胞救出の意味のほうが強かった。彼らの状況認識は基本的に今でも変わっていない。今度の危険な停電事故の発生は、その認識を裏書きするものです。タンクは今後も減ることはなく、増えるばかりでしょう。危ないタンクのことを知ったら、7年後の東京オリンピック開催が決まっても、見に来る外国人客はろくにいないのではないでしょうか。危険な東京に近づきたくないでしょう。 
 
政府も東京都も、東京オリンピック招致に血道をあげる前に、福島第一原発のこのような危険を全部無くせ、もう完全に安全だという状態を早くつくり出せ、といいたい。そのことが最優先の課題です。参院選に先立つ都議選も、このような問題をはっきりさせてたたかう必要があります。市民は敏感に反応し、また共感するはずです。 
 
2.沖縄を取り戻す―日本全体の独立を実現してから4月28日を祝え 
 つぎの柱は沖縄です。日米両政府が沖縄にいうことが、ぐるぐる変わるけれど、結局は沖縄の基地負担を減らすどころか、増やすばかりなのだから、ひどい。1995年、米兵の女子中学生暴行事件が発生、島ぐるみの抗議運動が起こり、両政府とも、米軍基地負担の軽減を迫られることになった。そこでアメリカの国防省、国務省の要人が来て基地の実情を調べることになった。ラムズフェルト国防長官は普天間基地をみて、その危険な状態に驚き、橋本内閣と協議し、96年に普天間返還の計画が決まった。ところがその後、普天間基地はただ返還するのでなく、名護市の辺野古に移設するという条件付きになった。しかし、辺野古の住民がこれに強く反発、粘り強く反対運動つづけてきたため、その後17年目になっても辺野古移設は実現させていない。 
 
そして今回、安倍首相は、沖縄の嘉手納基地から南にある、牧港補給地区や那覇軍港など六つの基地も返すことをアメリカに約束させたと、胸を張る。しかし、これで負担軽減が加速されると思いきや、この約束の実施は普天間の辺野古への移設ができてからで、おおむね2022年からのことになる、というのだ。こんな酷い話は初めてだ。辺野古移設ができなければ、ほかの基地は返さないという条件が、抱き合わせになっている話ではないか。頑張る辺野古住民がほかから恨まれる仕組みになっている。沖縄のせいにして、アメリカはずっと居座るつもりらしい。 
 
危険な垂直離着陸機、オスプレイ配備も、全島民、県議会全党議員の反対を押しきって強行したばかりです。そのうえで、普天間の辺野古移設と嘉手納以南基地返還のセット条件で沖縄の人を追い詰める。そして、さらに4月28日、サンフランシスコ講和条約発効の日を「主権回復の日」として記念式典を催すことにし、沖縄県民の神経を逆なでする。確かに安倍さんにとっては、この日はめでたいんです。戦犯だったおじいちゃんの岸信介はすでに巣鴨拘置所は出ていましたが、公職追放の身分でした。しかし、講和条約発効とともに、晴れて追放を解かれることとなりますから、めでたい。でもそんなことは自分の家だけで祝えばいい。沖縄は反対せざるを得ない。この日以前、日本全島が被占領地であった時代は、沖縄もその仲間だったが、この日からは、本土4島は独立を回復したのに、国と国の新しい約束の下で沖縄は切り離され、米軍の占領下に放置されたのですから。沖縄県民はこの日を「屈辱の日」と呼んでいますが、当然です。日米安保をそのままにし、日米同盟最優先を唱える限り、この状態がつづくんです。もう日米安保を根本から見直し、沖縄の人たちと一緒に独立するという覚悟を、日本全体が持たなければいけない。そういう中でTPPの問題もあわせて考える。一番根本的なところから考え直すということが、今求められている。そのことを参議院選挙の大きな問題にしていく必要がある。 
 
3.日本の「99%」の生活を立て直す―金融緩和で儲かるのは「1%」だけ 
 金余りの今、グローバルなギャンブラー達が暴れ回り、荒稼ぎをしている。だが、それは世界の僅か「1%」程度の金持ちだけで、それがだれなのかは「タックス・ヘイブン」に隠れていたりするので、わからない。正体は見せない。顔も見せない。税金も取られない。そもそもお金のやり取りも分からない。だけれど、世界経済を混乱させていることは確かなのです。EUの金融危機、通貨危機は彼らのアナーキーな行動が引き起こしているものです。ひところのギリシャ、最近のキプロスの経済危機の構造も同じです。いまキプロスではATMによる以外は、本人でもお金がおろせない。そこにも銀行は少ししかお金を入れない。たくさん入れておくと、銀行も信用できないので、みんなが自分のお金をおろしてしまい、いわゆる取り付け騒ぎが起こってしまうからです。 
 
こういう騒ぎの元凶は、キプロスもちっぽけなオフショア、タックス・ヘイブンだったからです。キプロスは小さな島の南半分だけです。北半分はトルコ領です。キプロスにも通貨がありましたが、2008年にユーロに変わりました。ここをタックス・ヘイブンとして最近利用しだしたのがロシアの金持ちです。ルーブルで持ち込んでも、ユーロに換えて貯めておいてもいい。そこからユーロで外国に投資することもできる。そういうことがロシアの中央政府に隠れてできる。ところが、ユーロ圏全体で危機が進行し、キプロスに一番大きな影響力をもつギリシャの経済危機が深刻さの度合いを増すばかりなので、ロシアの金持ちがキプロスに預けておいたカネをいっせいに引き揚げだした。それがキプロスに危機をもたらしている。ギャンブラーたちはそういう変化はけっして嫌いじゃない。変化こそチャンス、腕の振るいどころだからです。しかし、貧乏人には困ったことになる。職がなくなる。物価が高くなる。 
 
 世界中の金余りの状況は、一握りの世界の「1%」の大金持ちには、けっして不都合なことではない。国によっては、こういうギャンブラー達を大儲けさせ、彼らと結託して世界の金融支配力を掌握しつづけようとする政府もある。代表的なのがイギリス。ロンドンの金融街、シティはそれ自体がタックス・ヘイブンです。アメリカもそう。「99%」の貧乏人を代表するオキュパイ運動が敵と目指す「1%」の本拠、ウォールストリートもタックス・ヘイブンだ。この両国の人も含め、世界の「99%」は、もうそういう関係に気付いている。そういう状況から抜け出さなければいけないとも考えている。とくにヨーロッパははっきりしていて、国際的な金融取引に、カネが国境を越える時点で課税する制度を実施することを、EUとして決めました。その税収入が目当てでなく、このシステムで、カネを動かすものの正体を世の中に明らかにさせ、それぞれの主権国家が彼らの所在、ビジネスの実態を捕捉できるようにすることが狙いです。 
 
日本ではこういう動きについてもちゃんとした報道がされていません。しかし、こういうことでも、そのあり方を全体として見直し、根本から変えないとだめです。アベノミクスの見せかけの成功なんかに騙されているようでは、話になりません。TPP反対は、政治の根本の国際的なつくり変え運動への参加です。 
 
4.立憲主義を一層発展させる―「護憲」で止まらず、「活憲」目指す 
 最後に、立憲主義というものを、もっともっと発展させていくことを、大きな声で訴えていく必要がある。単なる九条護憲にしがみつき、この条項を受け身で守る、今の条項を守っていく、というところから大きく踏み出したい。憲法を変えさせないというだけでなく、今の憲法を積極的に生かして使っていくことを訴えていく。憲法は私たち一人一人を守ってくれています。その憲法が守ってくれている具体的な内容を、要求として主張していく必要があるのだと思います。特に人権がますますなおざりにされる傾向が募っており、むしろそれが踏みにじられるような場面も多くなっているので、問題はたくさん出てきています。私たちが訴えること、主張すべきことはたくさんあるのです。 
 
例えば、政府が法制化を進めている「秘密保全法」は、公務員に職業上知ることとなった秘密を守らせるための法律とされていますが、上司の不法行為の告発は違法な秘密の暴露になるのかなど、曖昧な点が多い。もっと重要なのは、秘密を法に反して漏らした公務員と通じた市民、報道の取材記者も訴追の範囲に入れる仕組みになっている点です。「公益」「公の秩序」を阻害する場合は、言論報道の自由・知る権利も制約されるとするのが、自民党の改憲草案ですが、この法案はこの草案の先取りです。こういう仕組みで国家が市民に脅しをかけるのは、情報公開制度への逆行であり、立憲主義の理念に反するものです。これは、公務員任せにしておけばいい問題でなく、広範な市民が反対すべき問題です。 
 
さらにはマイ・ナンバー制、共通個人番号の制度化と実施という問題もあります。政府のこの制度の導入理由は、納税やいろいろな社会保障の番号が同一化され、行政サービスも受けやすくなり、個々の市民の利便が増すというものですが、とんでもない話です。確かに、住民票を取ったり、税金を納めたり、健康保険、厚生年金の事務のやり取を考えると、便利な点はある。しかし、この制度の最大の問題点は、政府が圧倒的に、また一方的に、多岐にわたる大量の個人情報を掌握する一方、その利用状況が、肝心の当該個人、本人には事実上、まったく分からなくなるというところにあります。日本の個人情報保護法は、国が権限を掌握して私人間の情報のやり取りを監督し、不心得ものが個人情報を侵害していたら、それを取り締まる、という組み立てのもので、まるで狼に羊の番をさせるようなものです。政府の不当な個人情報の利用は、防ぐことも摘発もできない。日本的個人情報保護法なのです。 
 
欧米の個人情報保護法は、本人が自分の情報を守る―特に政府が不正に自分の情報を保有したり、利用したりするのを防ぐためのものとしてつくられている。個人情報保護法には、例えば精神病の病歴は、行政機関、教育機関、警察などに渡してはいけないと規定してある。しかし、それがこっそり病院からよそに移されているかもしれない。そういう疑惑があるとき、元の情報所有機関に対しては自分の情報の取り扱い記録を、移送先と思われるところには自分の情報の有無、有る場合はそのファイルを、それぞれ開示するよう、本人は請求できるし、当該機関は請求に応えなければいけない。これが個人情報保護法の基本的な構造なのです。そこには自己情報コントロール権という人権概念がしっかり埋め込まれている。また、個人情報を守る方法が、隠蔽ではなく、情報公開の適用拡大や徹底化という発想に基づくものである点も、日本と大違いです。こういう制度の裏打ちがないままのマイ・ナンバー制は、泥棒にカギを全部預けるようなもので、不用心の最たるものです。 
 
それから、ようやく自民党が選挙をネットでやれるようにしようとしているが、これも危ない。利用可能なのは候補者と政党だけだというんです。アメリカのオバマ大統領選出の時も、韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領選出のときも、市民たちが自由にメールを使い、呼び掛け合い、自分たちの大統領を選んだ。しかし、こういう使い方は許されず、今までの選挙の枠内で候補と政党だけが使える、というのが解禁の骨子です。政治家が、俺たちだけが使うんで、他の奴はダメだ、使ったら選挙違反だというのは、とんでもない話です。 
 
こう考えてくると、立憲主義に肉付けしていくためにやれること、やるべきことはたくさんあることがわかります。そういう実践を重ねていくことが、憲法を生かしていくということではないでしょうか。まさに市民運動の生き生きした課題です。 
 
憲法9条と25条との結びつきを、いろいろと具体的に追求してゆき、平和的生存権の実質を豊かにしていくことも、重要課題です。どんな人間にも健康で平和な生活をする権利があることを具体的に保障させていく必要があります。例えば、生活保護基準の引き下げなどは、とんでもない話です。生活保護だけの問題じゃない。この基準が下がれば、児童手当とか就学補助とか、その他の低所得者の支援を目的とする補助給付の基準も引き下げられ、最低賃金も連動して下げられるでしょう。ありとあらゆるところに影響し、バリアーを高くして公助を待つ人を切り捨てることになる。これでは社会の中の諍いを荒々しく掻き立て、市民の平和的な生存基盤を損ねてしまう。かつて「もう戦争にしか希望がない」と述懐して反響を呼んだ青年フリーターがいましたが、そういう声が若者の共感を呼ぶようなことにはさせてはいけない。立憲主義がゆきわたる社会は、本当の希望を持つ若者の声が伸び伸びと響き合うものです。 
 
最後に資料4の[2013年1月1日読売新聞社説『政治の安定で国力を取り戻せー成長戦略の練り直しは原発から』]をご覧ください。これは、元旦の年頭社説ですが、渡辺恒雄氏直々の執筆ではないかという気もします。文中至るところで、例えば脱原発の問題でも、沖縄の問題でも、それから憲法改正の問題でも、読売新聞が今の自民党のやること、考えていることすべてを応援している様子がよくわかります。ある意味では読売ほど首尾一貫している新聞はない。 
 
資料5の[3月23日・読売新聞社説『移設実現へ最大の努力を尽くせ』]は、普天間の問題を取り上げている。安倍が辺野古移設をやるというと、すぐさまこれに呼応して「移設実現へ最大の努力をせよ」です。沖縄側のいうことなんぞ構っちゃおれんというわけです。問題は対米関係と日本の安全保障だけです。こういう新聞をのさばらせてはいけない。読売新聞は、選挙の対象となるものではありませんが、こういう社説が出せなくなるように、我々はもっと大きな声を上げていく必要があります。 
 
私の話は1時間の予定でしたが、1時間30分になってしまいました。すみません。ご清聴ありがとうございました。 
 
<講演者注> 
 本稿は、桂が3月31日、千葉の「若葉九条の会・憲法を読む会」の創立8周年記念の催しに招かれ、標題のタイトルで講演を行った記録です。原稿は、会の幹事、木村忠彦さんが起こしてくださったものに桂が手を入れ、完成いたしました。文責は桂が負うものです。 
 講演では5種類の参照資料を用いましたが、本稿では資料3のみ収録、他は割愛しました。 
 本稿は、「若葉九条の会・憲法を読む会」が印刷物にしてくださり、広く配布してくださっておりますが、ほかの運動団体の方にも参考にしていただきたいと思い、データでお送りできるものにしました。会の木村さんと藤木武夫さんにはたいへんお世話になりました。ここに記してお礼申しあげるしだいです。 
                                        桂 敬一 
(注): 
http://diamond.jp/articles/-/35261 


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