2013年07月06日17時47分掲載  無料記事
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検証・メディア

政治家が「偏向」報道といって「出演拒否」は短絡的 ―英国メディアだったら、どうなる?

 もうひとまず終った感のある、与党・自民党によるTBSの番組への出演停止宣言事件。今後、似たような例が起きないことを強く望んでいる。政治家による、報道機関への威嚇行為だったと思うからだ。(小林恭子) 
 
 この件を知ったのは、自民党田村重信氏による一連のブログ記事だ(なぜ自民党はTBSに対して取材・出演の一時停止したのか!など、BLOGOS掲載) 
 
 この中に、朝日の新聞記事の紹介があった。 
 
 
引用: 
 
 自民、TBS取材や出演を拒否 党幹部級、報道内容受け 
(朝日新聞デジタル 7月5日(金)5時20分配信) 
 
 自民党は4日、TBSの報道内容について「公正さを欠く」などとして当面の間、党役員会出席メンバーに対するTBSの取材や出演要請を拒否すると発表した。問題視したのは、6月26日放送の「NEWS23」で通常国会会期末の法案処理を報じた内容。党は「重要法案の廃案の責任がすべて与党側にあると視聴者が誤解する内容があった。マイナスイメージを巧妙に浮き立たせたとしか受け止められず、看過できない」としている。(引用終) 
 
 
 田村氏は、上記のブログの中で、 
 
 「今回、自民党がTBS取材や出演を拒否するとの決断は支持したい。こうしないとテレビ局は反省しないからだ。テレビの影響は大きい。これでテレビ報道も少しはまともになることを期待したい」と書いていた。 
 
 その後の同氏のブログや 
 
 続報!TBS「NEWS23」どこが問題か? 
 続続々、TBS「NEWS23」問題に関する菅官房長官会見(全文=関連部分) 
 
 杉本穂高氏によるブログも拝読させていただいた。 
 自民党のTBS取材拒否の発端となった番組を見てみた 
 
 (以上、すべてウェブサイト、BLOGOS掲載分) 
 
―事態は急展開 
 
 その後、毎日新聞の報道で、取材拒否を撤回したことを知った。 
 
 自民党:取材拒否を撤回…「TBSから謝罪あった」と 
 
 以下、あえてこの記事の全文を入れてみたい。 
 
 引用: 
 
 自民党が、TBSの報道内容が公平さを欠いたとして取材を当面拒否するとしていた問題で、同党は5日、石破茂幹事長宛てにTBSの報道局長名の回答文書があったことを明らかにしたうえで「これを謝罪と受け止める」として同日で解除すると発表した。 
 
 発表文は「本回答、またこの間、数次にわたる政治部長はじめ報道現場関係者の来訪と説明を誠意と認める」とした。安倍晋三首相は同日夜、BSフジの番組で「今後はしっかりと公正な報道をするという事実上の謝罪をしてもらったので決着した」と語った。 
 
 自民党は6月27日にTBSに送った文書で、電気事業法改正案が廃案になった経緯を伝えた報道番組について「民主党など片方の主張にのみ与(くみ)したもの」と抗議していた。 
 
 一方、TBS側も5日夜に自民党に提出した文書を公表。報道番組について「『説明が足りず、民間の方のコメントが野党の立場の代弁と受け止められかねないものであった』等と指摘を受けたことについて重く受け止める」とし、「今後一層、事実に即して、公平公正に報道する」としている。【竹島一登】 
 
 ◇TBS「謝罪でなく回答」 
 
 TBSの龍崎孝政治部長は「本日、報道局長が自民党を訪問し、抗議に対し文書で回答するとともに説明したが、放送内容について訂正・謝罪はしていない」とのコメントを出した。 
 
 引用終わり 
 
 
―与党あるいは政党がこのような形でメディアを「脅す」べきではない 
 
 私は、一連の経緯を見て、明日以降の日本のメディアが、与党・自民党の対応を厳しく批判することを祈りたい。似たような例(政治家とメディア)を最近散見して、気になっていた。 
 
 先の「続続々、TBS「NEWS23」問題に関する菅官房長官会見(全文=関連部分)」の中で、日本のメディア記者が続々と「問題があるなら、取材拒否ではなく、番組内で反論するのが本筋ではないか」と問いかけていたが、まさにその通りだ。 
 
 こういうことが許されてしまっては、まともな政治報道ができなくなるからだ。 
 
 守るべきは: 
 
 「政治家あるいは政党が、不当ではないと自分たちが思うような報道をメディアがしたとき、言論でこれに反論すること」だろう。民主主義社会の原則中の原則だ。 
 
 批判されたから・不当だからといって、「今後、出演を見合わせる」などと、まるで絶対主義国家のような言葉を発するべきではないと思う。 
 
 「民主主義」なんて、お堅い言葉と思われるかもしれないが、この部分(=言論には言論で)を死守しないと、すべてが崩れてしまう。 
 
 それに、「不当かどうか、偏向しているかどうか」の判断には、恣意的な部分がある。白黒はっきりさせるのが難しい部分があるのだ。 
 
 もしどうしても何か行動を起こしたいのだったら、第3者に「公平さを欠いた報道かどうか」を検証してもらう、という手はなかったのだろうか。自分たちで判断し(=決め付け)、自分たちで「罰を加える」(=出演を見合わせるという判断)をするのは、「絶対王政」的行動に見える。与党という立場を乱用したようにも見える。 
 
 反論しても通じない場合、もし言論が法律に反するような類であれば、司法手段・裁判所で解決するーそういう流れもあるだろうと思う。 
 
 以前にも、政治家がある報道が不当であるとして、これを報じたメディアのグループに入る別の媒体の取材を一切拒否する、と発言したことがあったかと思う。 
 
 その報道自体に暴力性があったということを、日本ではかなりの数の人が感じていたようであるけれども、原則として、政治家がある特定のメディアの取材を「一切拒否」というのは、これ自体が暴力的な行為だと思う。 
 
 今回の自民党の行動は、報道の自由の侵害にもなろう。これを黙認してしまえば、報道機関の側はおちおち、政治家や政権を批判できなくなってしまう。自由に報道ができなくなってしまう。今回はTBSが槍玉にあがったが、ほかのテレビ局の報道部も「気をつけよう」と思うのは必須だ。 
 
 国会議員は、もしそうしようと思えば(現実的にはありえないが)、放送免許についての法律を変えることができるほどの力を持つ。(ギリシャでは財政難の政府が突如、国営放送の活動を停止させたことは記憶に新しい。) 
 
 だからこそ、放送機関が報道の自由を保障されていることが重要だ。自由に批判する・報道する・論評するという権利を脅かされるべきではない。 
 
 政治家の一挙一動にメディアがおびえているようになったら、国民はどうなるだろう?国民だって、萎縮してしまう。 
 
 報道機関は政治家になんと言われようと、簡単に謝罪したり、相手のいうことを鵜呑みにしてはいけない。国民の代表として活動をしているのだから。 
 
 今回、行動を起こしたのが与党・自民党であったことの罪は重い。自分たちが不当と思う報道が出たら、威嚇行為に出ることをはっきりと示してしまったからだ。 
 
 負けるな、日本のメディア!と言いたい。 
 
―英国ならどうなるか? 
 
 各国によって状況が異なるので、単純な比較はできないが、英国だったらどうなるか?を考えてみた。あくまでも、外国の例と思っていただきたい。 
 
 まず、単刀直入に言えば、同様のことは起きないだろう。 
 
 細かい話に入る前に、想像していただきたいのは、英国ではメディア(=報道機関)がある意味、野党的な役割を果たすということ。その影響力は強大で、政治家のほうがメディアを怖がっているともいえるくらいだ。 
 
 メディアはどんなに完璧そうな政策を政府が発表しても、常に批判する。これが基本スタンスだ。 
 
 一方、大手放送局(BBC,ITV,チャンネル4、チャンネル5)は、ニュース報道において、「バランスよく」報道するよう、規定されている。Aという見方を出したら、Bという見方も出さなければならない。 
 
 それでも、政治家・政党からすれば、不当な、かつ偏向した、かつ過度に批判的な報道が出ることはあるだろうと思う。番組内で司会者が厳しい質問を浴びせる様子は日常的だし、政治家が面子をなくす様子もよく放送される。しかし、不恰好だろうが、面子をなくそうが、「政治家はメディアによって厳しく質問される(時には曲解される)」=そんなもの、という考えが浸透している。 
 
 メディアに不当に扱われたと思った政治家側はどうするかというと、「言論には言論で」つまりメディアに出演することで、論調を変えようとする。度を越した偏向報道の場合、放送・通信業の監督組織「オフコム」に調査をさせる、あるいは司法の場に持ち込んで(名誉毀損など)、決着をつける。 
 
 英国で、報道内容によって、政党全体として、大手放送局のいずれかに出演を見合わせることを宣言する・・・・ということはありえない。 
 
 大手放送局はすべて「公共サービス放送」という役割を持ち、国民のために放送しているわけだから、政治家・政党が一律的に「出ない」という決定をするのは、国民の知る権利を踏みにじることになる。そんな大それたことを、政治家、しかも与党がするわけがない。 
 
 「もし」そうしたら?あるいはそうしようとしたら? 
 
 英国のすべてのメディアから総スカンをくらい、新聞も含めて、非難の大合唱が起き、「アナクロ=時代錯誤」といわれてしまうだろう。そんな批判に耐えられるほど「勇気」のある政治家はいないー。 
 
 あくまで、英国の話である。 


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