2013年07月12日01時25分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201307120125155

コラム

日本人のハートに火をつける安倍首相      村上良太

  安倍首相の人気は高い。参院選も自民党が圧勝する可能性が高いと新聞は報じている。安倍首相の願いは「戦後レジーム」からの脱却だとされる。それは論理的には戦前・戦中への回帰である。 
 
  昨日、朝日新聞にアメリカのパウエル元国務長官のインタビューがほとんど1ページを使って大々的に掲載されていた。テーマは核兵器がいかに使えない兵器かということ。パウエル氏は朝日新聞を通して、日本人は核武装は考えない方が得であると口を酸っぱくして語っていた。このインタビューを読んで、安倍総理のことを思い出した。アメリカ人にとって、日本は本当は怖い国なのではないか、ということだ。それもベトナムやイラクとは比較できないほどだ。 
 
  安倍首相は日本人の心に火をつけるかもしれない。それも今みたいなものではなくて、本当にハートに火をつけるかもしれない。 
 
  アメリカ人が恐れているのはこのことではないだろうか。最近、尖閣諸島や竹島、あるいは北方領土のことで日本は中国、韓国、ロシアとの間に火種を抱えている。それは日本人にとっては大問題のようだ。しかし、太平洋の彼方にあるアメリカから見ると、それらの領土問題くらいほっとすることはないだろう。日本人の目が西か北に向いていて、東に向かなければアメリカとしては安泰だからだ。 
 
  古代や中世のことはさておき、少なくとも近代になって中国も韓国も一度も日本を侵略していない。ロシアが北方領土を奪ったのはアメリカのルーズベルト大統領ひいては連合国の要請にこたえて対日参戦した褒美としてだ。一方、米国は日本の都市に焼夷弾を必要以上に雨あられと注ぎ、日本人を焼き、日本を焦土と化した。原爆も二発落としている。さらに戦後も一貫して日本が真に独立国としてふるまうことをさせず、12歳の少年であるかのように指導し続けてきた。それなのに、これまで日本人の怒りはアメリカではなく、中国や韓国やロシアにもっぱら向けられてきた。しかし、アメリカ人が今、恐れているのは日本人が心の底に抑圧してきた、本当の敵意を自覚することではないだろうか。 
 
  戦後レジームからの脱却は日本人のハートに火をつけるかもしれない。今のようなものじゃなくて日本人が本気でアメリカに怒りを感じる日が来るかもしれない。もしそうなれば核武装するだろう。長距離弾道ミサイルを作ってアメリカ全土を射程に入れるだろう。そうしようと思えばできるだけのプルトニウムも技術も資金も日本は持っている。日本が軍事大国アメリカと肩を並べようと思えば核武装は避けられない。もし核戦争で玉砕することになっても敵国に蹂躙されるよりは日本人としてのプライドを保てる。その先には神の世界がある。1945年まで日本人の多くは(核兵器の完成は間に合わなかったが)このように考えていた。私の父は戦時中は少年だった。敗戦の1945年には16歳だった。私が子供の頃、父は土曜になると、昼食後に横になってテレビで戦争映画を見ていたものだ。父は私にこんなことを口癖のように言った。 
 
  「日本人が今日、繁栄できているのは特攻隊のおかげだ。アメリカ人は特攻隊を見て恐怖を感じた。だから、戦後このような国を敵にしてはいけないと思ったのだ」 
 
  戦後アメリカはハリウッド映画、ジャズ、野球、オクラホマミキサー、あるいはチューインガムやチョコレートなどの文化で日本人のハートをとらえようとしてきた。戦後数年間は「忠臣蔵」など復讐をモチーフにした映画や舞台は占領軍によって許可されなかった。日本人の心からアメリカ人への復讐心を忘れさせようとして、アメリカの魅力を毎年アピールすることを忘れなかった。しかし、今、アメリカが努力してきたこのような戦後レジームを否定する政治家が出て、人気を持ち始めた。原発も放棄しない。今までの芝居の書き割りが崩れ落ちて、眼を避けてきたものが一気に露わになるかもしれない。 
 
  私は核武装を望まない。しかし、個人的な思いは別にして、安倍首相が日本人の心に火をつけてこれまで戦後隠されてきたものがどっと露わになる可能性がある。現在、アメリカと友好的なムードを保っている安倍首相だが戦後レジームからの脱却によっていつかはアメリカと向き合うことを余儀なくされるだろう。いったんそうなれば安倍首相個人がどこかでブレーキをかけようとしてもかからなくなってしまうかもしれない。それくらい抑圧されてきたものは大きい。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。