2013年07月18日15時01分掲載  無料記事
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反戦・平和

日本軍の重慶「戦略爆撃」被災者をめぐる旅(上) 加藤〈karibu〉宣子

  先日敗訴が確定した東京大空襲訴訟の訴状に、戦時中日本軍が行った重慶爆撃を東京大空襲につながる「先行行為」として責任を求める要求があった。日本では東京大空襲は知られていても、日本軍による218次(中国側資料による)にわたる重慶爆撃のことはよく知られていない。その重慶大爆撃の被災者188名が日本で日本国を相手に裁判を起こしており、第24回まで裁判が行われている。6月21日から27日までの一週間、重慶大爆撃訴訟弁護団の田代博之弁護士、一瀬敬一郎弁護士とともに四川・重慶を旅した。 
 
 今回、訪れたのは四川の成都、楽山、自貢と重慶の4都市である。重慶爆撃のことは断片的に知ってはいたが、四川空襲については何も知らないままの出発であった。 
 
 重慶大爆撃訴訟の訴状によれば、重慶および四川を爆撃した重慶大爆撃は1938年2月から1944年12月までの6年10カ月間に渡り、重慶・四川を合わせた死傷者は10万人を超え、家屋や店舗を失った人は100万人の規模となる。重慶大爆撃は、抗日戦争中の新首都重慶とそれを支える四川省を徹底的に破壊して、中国人民の戦争継続意思をたたきつぶすことにあった。 
 軍事目標を目的としない無差別爆撃は「戦略爆撃」と言われ、重慶大爆撃は世界的にも初めて本格的に戦略爆撃を行ったもので、国際法にも違反するものと認識されていた。爆撃を行った日本海軍・陸軍の航空部隊は1938年に占領した湖北省の漢口と山西省の運城を基地としていた。 
 
 北京を経由して、夕方四川省の省都、成都につくと原告団を支援している弁護士の徐斌さんらに迎えてもらい、近くの食堂で原告団の人たちに歓迎会をしてもらう。翌日22日は、原告団との交流会。成都爆撃の被害者は2008年の第2次訴訟で提訴している。 
 
 弁護団から「国は被害の実際を認めていない、答弁を拒否している」など裁判の状況報告と今後の運動に向けての提案を行い、原告団の皆さんからも一言もらう。「日本政府に失望している」「歴史と向き合ってほしい」「残虐な爆撃だった」「母から当時のことを聞いている」「事実を認めてほしい」などの訴えがあった。メディアからの取材も受けた。交流会の後、四川料理で再び歓迎会をしてもらう。 
 
 成都への爆撃は、1938年2月18日から1944年12月18日まで、爆撃日数25日、出動爆撃機695機、投下爆弾2031発とされる。 
 
 23日、朝から楽山へ。楽山でも原告団から大きな歓迎を受ける。証言のために東京にきていてお会いした李本澤さんと再会する。楽山は、成都の南に位置し、楽山大仏で知られる街だが、その街の中心に死者の名前が刻まれた8・19死難碑がある。1939年8月19日の爆撃(爆撃機36機、100発以上の爆弾)の死者を追悼する碑で、そこに訪問団として献花をした。碑は楽山大爆撃訴訟団が建てたもので、2000年代に入ってから建てられたようである。 
 
 ここでも市の会議室を使って交流会が持たれた。歓迎の夕食会では、中国側、日本側それぞれが歌を披露して和やかな時間を過ごした。交流会後、支援者の方と中国茶を楽しみ、夜は楽山大爆撃訴訟団長の楊銘佳さんのお宅にも伺った。駆け足の滞在だったが、充実した交流ができた。 
 
 24日、自貢では塩業歴史博物館を訪ねた。最初はなぜ塩博物館なのか分からなかったが、自貢は昔からの塩の生産地で、戦争中、塩の供給を止めるために爆撃されたそうである。1939年から1941年の間に7回、爆撃機474機、爆弾1544発の爆撃を行った。ここでも歓迎会をしてもらい、そのあと弁護士事務所で自貢の原告の方と面談した。裁判の状況を説明し、希望を聞き、研究者による鑑定書の確認をお願いして、急ぎ足で重慶に向かった。 
 
 同日夜、重慶に到着。迎えに来た支援者の方や原告団長の粟遠奎さんと重慶の名物、火鍋屋で食事をした。翌25日朝、空襲から逃れるため地下の壕で大勢が窒息死した6・5大隧惨案追悼碑に献花をする。この碑も2000年に竣工されたそうだ。ここでも複数のメディアから取材される。日本人が中国の死者に対して献花し拝礼をすることが記事になるようだ。そして重慶大空襲訴訟団の事務所で交流会が持たれた。30名余りの重慶の原告は、訴訟に至るまで長い時間をかけてきたせいか、ほとばしるように裁判への思いを語る人が多かった。 
(つづく) 


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