2013年07月24日11時46分掲載  無料記事
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米国

デトロイト市破綻の記事に寄せて 2  村上良太

  前回、朝日新聞が書いたデトロイト市の財政破綻に関する記事を読んで自分が去年取材した印象と違っていることを述べた。その記事は多くの方に読んでいただいたようだが、1つだけ今更ながらだが補っておく情報があったのでここに記したい。 
 
  僕が去年、デトロイトの米自動車産業の取材をした時はデトロイト市という自治体に限って取材したわけではなくて、デトロイト市の周辺地域も含めた取材だったことだ。これはメトロ・デトロイト(Metro Detroit)と呼ばれ、デトロイト市とその郊外地域を含めた呼称となっている。 
 
  たとえば労働者からもらったTシャツの写真で紹介したクライスラーのスターリングハイツ工場が位置するスターリングハイツは、厳密に言えばデトロイト市内ではなく郊外にある。ミシガン州マコウム郡に属している。だから、僕がデトロイトと書いていた時はこうした郊外も含めた大きなデトロイトについてだった。しかし、朝日新聞が書いていたのはデトロイト市内の話だったのだろう。なぜならデトロイト市の財政破綻がテーマだったからだ。だからその意味で僕の批判は当たっていなかったと言える。 
 
  朝日新聞が書いているようにメトロ・デトロイトの中心部分、つまり、デトロイト市の中心部分は空洞化が激しい地域となっている。その部分だけを見ればボロボロの空き家になったビルがいくつも点在しており、朝日新聞の記述は間違っていない。これは僕がデトロイト市とその市外地域との境界線を厳密に意識していなかったためである。 
 
  しかしながら、一度デトロイト市と、デトロイト市とその周辺地域までを含めた呼称の「デトロイト」=つまりメトロ・デトロイトとの関係について整理しておきい。 
 
  アメリカの自動車産業を語る場合の、いわゆる「デトロイト」は今日、デトロイト市内に限らず、メトロ・デトロイトの方を指していると思われるのである。というのは朝日新聞もデトロイトの経済動向の例としてGMと並べて記載している自動車メーカー大手のクライスラーについてだが、クライスラーの本社はデトロイト市内にはない。シンボリックな星形のトレードマークが飾られたクライスラーの本社ビルがあるのはミシガン州オークランド市である。これはデトロイト市に隣接する地域で、メトロ・デトロイトに含まれる。そしてクライスラーの組立工場もメトロ・デトロイトの中に分散されているのだ。 
 
  実はFORDの本社もデトロイト市内にない。デトロイト市の西に隣接するディアボーンという都市にあり、それはミシガン州ウェイン郡に含まれる。FORDは創業時代からこの町に拠点を構えていた。米3大自動車メーカーの中でデトロイト市内に本社を持つのはGMだけなのだ。だから今日、米3大自動車メーカーを語るときにデトロイト市内に限定していたのでは語れない。普通に「デトロイトの自動車産業」という時は大きなデトロイト、つまりメトロ・デトロイトのことを指す。デトロイト市はその中の1つの地域と言うことができる。それも空洞化が進んだ地域だ。 
 
  朝日新聞は確かにGMの本社はデトロイト市内にあるとしているが、3大自動車メーカーがデトロイト市内にあるというようには書いていない。それは今触れた理由で、そうなのである。朝日新聞はその点で正確と言えば正確だ。しかし、「自動車の街無一文」という見出しを見て、そしてまたビッグスリーの斜陽の記載を読んで、読者の中にはビッグスリーの町デトロイト、つまりメトロ・デトロイトの話と受け取っている人も少なくないのではないか、と僕には思われるのだ。 


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