2013年08月22日04時32分掲載  無料記事
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コラム

ハリウッドと歌舞伎         鬼塚忠

  ほぼ5年ぶりくらいのハリウッドのどんぱち映画「ワールド・ウォーZ」を観た。典型的なハリウッドのどんぱち映画はほぼ五年ぶりだ。私は元々ハリウッド映画の原作小説を日本に持ってくる仕事をしていて、たとえば、アルマゲドン、パールハーバー、ミッションツーマーズなどの原作を日本に持ってきて版権を日本の出版社に売っていた。それがほとほと飽きてきたのも独立した理由の一つだ。ではなぜ観たのか? 
 
 それは一部イスラエルが舞台になっているので、懐かしくなった。私はイスラエルに住んでいたのだ。 
 
 この映画は、三大宗教(キリスト教、イスラム教、ユダヤ教)が脳裏に刷りこまれていないとあまり面白くないと思った。というのも、世界終結、死者復活、最後の審判、救世主、イスラエルの立場が分からないと、単なるCGいっぱいのゾンビ映画になってしまう。とは言ってもそのCGがすごいからそれでもじゅうぶん刺激的なのだが。 
 
  もうひとつ、こういう見方ができる。なぜハリウッドはこうも、ドンパチのヒーローものが好きなのか?アメリカ人は野蛮だからだろうか? 
 
  そうではないと思う。過去に戦争で勝者の記憶があるからだ. 
日本でも江戸時代、江戸の歌舞伎は荒事(あらごとが)中心で、上方の歌舞伎は世話物(せわもの)が中心だった。荒事は『牛若丸』などのちゃんばらヒーローもの。世話物は「曽根崎心中」などの市井の男女の恋愛もののようなものだ。なぜそのような違いが出てきたのか? 
 
  それは直近のいくさの記憶による。関ヶ原の戦いで、東が勝ち、西が負けたことの記憶が根付いているからだ。勝った者はその延長線上で戦いが好きになってくるし、負けたものは戦いから目をそむけたい。それが理由。 
 
  なので人の記憶による。アメリカは、ベトナムで負けたじゃっかんの記憶はあるものの、それ以外の戦争では勝ち続けているので、自然とドンパチ、ヒーローものを好むようになってくるのだ。 
 
  この映画を観てまたイスラエルに行きたくなった。この国で私は多くのことを学んだ。とにかく学び、働く人たちだった。そして日本人の100倍くらい哲学的で、議論好きだった。 
 
鬼塚忠 
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「恋文讃歌」(河出書房新社) 
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