2013年09月09日00時22分掲載  無料記事
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コラム

パリの散歩道  モンマルトルの部屋〜バレリーナの部屋だった・・・〜

  今回、僕が滞在しているのはパリ北部のモンマルトルという地域。行政区画としては18区になる。建物のすぐ裏手にピカソが若いころ暮らした「洗濯船」(vateau lavoir)というアトリエの跡がある。まだピカソが貧乏だった頃のいわゆる「青の時代」を生きたところだ。このあたりは坂道が多く、散歩をするには好ましい。 
 
  住まいの建物は5階建てで、わが部屋は4階になる。エレベーターはない。大家さんは地方在住の女性で、契約を結ぶ日、彼女は大きな旅行鞄を転がしながらやってきた。彼女の後ろについて僕もスーツケースと撮影機材の入ったバッグをかついで階段を上る。大家さんの鞄の中にはシーツやタオルの一式が入っていた。ベッドメーキングをしてくれる。 
 
  「契約期間中、この部屋はあなたの部屋です。くつろいでください。」 
 
  部屋は日本でいえば1ルームマンション。月ぎめで1か月700ユーロだ。ちなみに日本を出るとき、成田空港で両替したら1ユーロ=135円だったから、1か月の家賃は9万円相当になる。ホテルに滞在することを思うと落ち着けるし、価格的にもリーズナブルだ。それから、一応建物が壊れた場合などにそなえて保証金350ユーロを預けることになった。しかし、何もなかったら保証金は出るときに返ってくる。電気代も後から請求される。だから、電力使用量を一応僕もメモに控えておくようにと言われた。 
 
  台所には食器類や冷蔵庫も完備されているし、ベッドや本棚、バス、トイレももちろんある。窓から入る明かりも十分で快適だ。テレビはないが、Wi-Fiは使える。洗濯は通りのコインランドリーでする。あたりのコインランドリーをいくつか見たところ、1回の洗濯代は4ユーロくらいからだ。アベノミクスのおかげで円がずいぶん目減りしてしまったが、外食を減らせば何とかなるだろう。 
 
  「掃除用具はこの棚の中にあります。でも、もし掃除のサービスが必要なら、人を雇うことができますから言ってください」 
 
  白壁に1枚、バレリーナの白黒写真が額に入れて飾ってあった。足を前後に広げて、両腕をまっすぐ空に上げている。チャイコフスキー作曲「白鳥の湖」のポーズだろう。 
 
  「娘はバレリーナです。今は旅公演で海外に出ているんですよ。この部屋もパリに出てきた娘のために買ったものなんです」 
 
  娘さんはパリに出てきてコンセルバトワールに通い、卒業後、プロになった。今はロシア公演中で、そのあと日本公演を行うそうである。その間、空き部屋を貸しているのである。ちなみに大家さんはロワール川の流域に住んでいて、料理教室を主宰しているという。暇ができたら週末に食事に来なさい、と誘っていただいた。パリから230キロ南に位置しているそうだ。 
 
  入居して二日後、今度は電気の補修工事に技師がやってきた。アルジェから1989年にパリに移住したという男で、サッカーのジダンと同じ、北アフリカの先住民族、ベルベル人だという。話好きの人間で「本を読んでばかりいないで、町で話さないと言葉は覚えられないぞ」と忠告してくれた。技師は近くに住んでいて、娘が3人いるそうだ。この建物が建てられたのは1948年だと教えてくれた。ということは築64年になる。それでも住むにはさしあたって不便はなさそうだ。電気の補修工事も時代とともに行っているのだろう。入居した当座は工事中だったからだろうが、夜になると階段が真っ暗になって、鍵穴すら見えなかった。 
 
  通りに面した表玄関の門にはロックがあり、数字とアルファベットを混ぜた暗証番号を入れないと開かない。また敷地内の各棟の入り口にも同様の鍵のシステムがある。そして最後に部屋の鍵がある。安全なのはありがたいが、暗証番号を入力するのが(すぐに忘れるので)、ちょっと手間ではあった。それと鍵をうっかり紛失したら、ロワール川流域まで行って合い鍵を受け取らなくてはならないだろうから、用心しなくてはならない。 


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