2013年09月11日14時52分掲載  無料記事
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核・原子力

【たんぽぽ舎発】福島第一原発の専用港「湾内」と外洋を隔てて「ブロックする」ような構造物など何もない  山崎久隆

 IOC総会で安倍首相は「汚染水は港湾内で完全にブロックされている。抜本解決のプログラムを私が決定し、着手している」と発言した。世界に向けて真っ赤なウソを平然と言い放つ神経に、怒りを通り越して呆れかえった。本当に、こんな見え透いたウソがまかり通ると思っているのだろうか。福島第一原発の専用港「湾内」と外洋を隔てて「ブロックする」ような構造物など何も無い。そんなことは東電の資料でも明らかだ。 
 
 東電自ら、潮の満ち引きで外洋との海水交換があることを認めている。東京海洋大の神田穣太教授は、港湾内の海水は一日に44%程度の比率で入れ替わっているとしている。 
 
 港湾内のシルトフェンスにも完全に遮蔽する性能は無いことは、東電の作った資料にも書いてあるとおりだ。 
 そういう事実を知りながらオリンピックほしさに世界中の人々の前で、大変な作り話をした。その責任は重大だ。 
 
 また、抜本的対策とは何なのか。いわゆる「凍土式遮水壁」について国が資金を出すとしているだけだ。本来必要な、周囲を取り囲む形式の遮水壁、それも恒久的な遮水性能を有する設備は、海側の一部で着工しているが、これさえ完成するのは2年近く先の話である。陸側の遮水壁は見通しも立っていない。 
 
 その間にも汚染された地下水は毎日数百トンが湾内に流れ込んでいる。コントロールどころか流出量は増える一方だ。 
 
 最近では、海に放流する計画で作られている「地下水くみ上げ井戸」の上流側130m地点で、汚染水タンクの漏水が起きている。さらに、その他のタンクでも漏水が確認されており、おそらくもっと数多くのタンクから汚染水が漏れ出していると考えられる。 
 
 地下水バイパス計画は、元々東電が計画していたものだが、汚染水問題が深刻化する中で田中俊一規制委員長も「敷地内は水だらけになっている。基準以下(の汚染水)を排出するのは避けられない」といいだし、流れは「地下水バイパス」へと急激に動こうとしていた矢先に、揚水井の地下水汚染が見つかり頓挫している。 
 
◆東電は調査せず=地下観測孔を掘らず 
 
 なぜなのか?=「対策せず」の「責任追及」から逃げるため 
 
 8月27日の交渉で東電に対し敷地内に千本の観測孔を掘り、地下水位の調査と放射能調査を行うよう求めたところ「必要な調査をしている」と回答してきた。しかし実際には観測孔は13しかなく、そのため地下水の流出を見つけることも出来なかった。観測孔は増設中で、39孔まで増やすことになっているが、孔を掘れば掘るほど、新たな地下水の汚染状況が明らかになっている。 
 
 こんなことは分かっていたはずだが、調査をちゃんとしていないのはなぜか。 
 調査して結果が明らかになった後も対策を行わなければ「故意」ということになるが、調査をしないで「分からなかった」のならば「過失」になるからだ。 
 
 故意による海洋汚染はもちろん犯罪であるが、過失ならば事故以来汚染水の流出続きなので、その延長線上での過失だと言い張れるというわけだ。 
 
 「東電体質」という言葉があるが、調べない、気づかない、改めないことが常の、反省の無い、改革をしない体質が会社の上部に行けば行くほど徹底している。これが最悪の現れ方をしていたのが原発震災発生時の東電本店の対応だった。 
 
 
◆対策は 
 
 汚染水対策は東電の、極限まで資金を惜しんで、最低限のタンク建設と資材の使い回しの結果、事態が深刻化していった。たくさんの人々が、原発の水対策が最も重要と述べていた。吉田元所長もそう語っていた。その点では反原発も推進も関係が無い。ではどんな方法が在るだろうか。 
 
 例えば大型貯水タンクを建設するという方法もある。鹿児島県志布志湾には半地下式の石油国家備蓄タンクが43基立ち並んでおり、1基あたり約12万キロリットルで、合計約500万キロリットル溜めることが出来る。東京ガスが扇島に作っている地下式の液化天然ガス貯蔵タンクは1基25万キロリットルの貯蔵能力がある。このような大型タンクを2年半前に作り始めていれば、もうできていた。 
 
 資金繰りの悪化や人材難が対策を遅らせてきたのではといわれている。たしかにそういう面はあるが、そうならば早い段階で「手に負えない」と言うべきだろう。 
 
 手遅れに近い状態まで放置してきた東電の思惑は一体何処にあるのだろう。 
 
 東電の「仕掛け」は、汚染水問題を利用して国の資金投入を引き出し、さらに規制庁をも福島第一の後始末に引き込むことにあった。 
 
 今年4月、東電の社外取締役6人と広瀬社長が安倍首相と会談し、「国も一歩出る」との発言を引き出した。このとき彼らは辞表を持っていたという。 
 言うまでも無く、彼らは東電取締役を退任しても帰るところがある。国の支援と 
いうのは税金の投入を意味する。これについては原子力損害賠償支援機構が税金から5兆円を限度に被災者への補償を「肩代わり」している。表向き国への返済をすることになっているが、実態としては「電気の安定供給その他の原子炉の運転等に係る事業の円滑な運営の確保に支障を生じない限度において」(原子力損害賠償支援機構法第52条)返せば良いことになっている。つまり抜け道がしっかり作られている。東電は「電気の安定供給その他の原子炉の運転等」に必要な資金は確保できるわけだ。 
 
◆東電は3200億円もの大金を柏崎刈羽原発の運転再開めざして投入 
 
 東電は地元新潟県の意向など無視し、柏崎刈羽原発の運転再開準備を進めている。緊急対策設備を作り、防潮堤を建設し、ベント装置を作るなど、3200億円もの金を掛けて運転再開のための規制基準適合審査を受けようとしている。動かせるはずのない原発に、とんでもない無駄金をつぎ込んだ。 
 
 普通ならば重大事故を起こした会社が、その事故の後始末さえしていないのに事故原因となった設備の再開準備に莫大な資金を投入するなど許されるはずが無い。補償や事故収束にまず資金投入されるはずだ。 
 
 ところが東電は福島第一の汚染水対策の資金を国に「無心」しつつ、柏崎刈羽に、その無心した金額の何倍もの資金を投入している。 
 
 2年半前に責任を問うて、破たん処理をしておくべき会社を生き残らせたために、国民負担は巨大になるばかりだ。今からでも東電を解体することが問題解決のためには必要だ。 


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