2013年09月16日13時39分掲載  無料記事
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地域

【安房海より】野性を解体  田中洋一

  海の獣(ツチクジラ)の解体を真夏にじっくり見学したら、今度は山の獣(シカ・イノシシ)の解体を取材する機会を得た。ツチクジラは商業捕鯨、シカとイノシシは野生動物との関わりを探る大学のゼミで、切りさばく人も解体の目的も異なるが、日ごろ肉を口にしていながら、忘れがちな何かを共に感じさせた。 
 
  シカとイノシシは田畑や植林を荒らして嫌われる悪役になって久しい。ここ房総半島も例外ではない。解体は、東京大学1、2年生が参加する全学体験ゼミナールの一つとして、昨日まで3泊4日の日程で、東大千葉演習林(鴨川、君津市)で行われた。学生が理系・文系を問わずに自由に選べるゼミで、羽生善治三冠が特別講義をする将棋のプログラムもある。 
 
  先生役は地元の専業猟師の高橋幸廣さん、64歳。初めに吊して体重を計り、巻き尺で頭囲・体長・脚の長さを調べて記録。いよいよ解体に入る。男子5人、女子6人は、刃の長さや傾き具合が異なる10種近い高橋さんのナイフを借りて取り組んだ。高橋さんが手がかりを与えた。まず肛門の皮を破り、ナイフを喉から肛門まで走らせる。さばく順序を教えると、学生に「やってごらん」。数あるゼミの中から選んだだけあり、全員とても積極的だった。 
 
  熱が入ると、高橋さんは「力は要らない。力を入れると危ない」と落ち着かせる。脚の肉は曲げてナイフを入れれば、「すっと切れる」。皮をはぐ時は、「皮を広げて引っ張るといい」。男子学生は「皮をはぐと、肉になっちゃうものだね」と妙に納得顔。同じ作業をツチクジラでは、ウインチで皮を引っ張りながら大包丁を走らせた。体の大小は違うが、解体の基本はほぼ同じと見えた。肉の塊が切り取られると、「おーっ」とか「いえーっ」と歓声が上がるのも共通している。あばら骨付きの肉は、いかにも旨そうだ。 
 
  学生たち、とりわけ女子が、初めての作業にもかかわらず、ためらいを見せないのが印象的だった。「ナイフを入れると、さくさく切れて、肉はおいしそう」。そう語る2年女子の出身地は、宮城県の蔵王山麓の町。昼間の商店街にクマが出没したそうだが、彼女自身はシカ・イノシシとも遭遇体験はない。「見てみたい。シカ肉を食べてみたい」の興味から参加した。東大は3年進級で専門課程が決まる。彼女は生物系・農学系には進まないそうだが、こんな体験がどこかで役に立って欲しいものだ。 
 
  午前中にシカ2頭とイノシシ1頭の解体を済ませたら、夕食はジビエ(捕獲した野生鳥獣)料理に挑戦する。自分たちがさばいた肉で料理できれば面白いのだが、実際は食肉処理場できちんとさばいた肉を使った。こちらの肉に骨は付いていない。自分たちがさばいたのは「骨付きのシカ肉」で、料理に使ったのは店で買える「1kgいくらのシカ肉かな」。両者の違いを男子学生がうまく表現した。 


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