2013年09月24日11時22分掲載  無料記事
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地域

【安房海より】大阪の人権と平和  田中 洋一

  大阪の人権と平和が冬を迎えている。抽象論ではない。リバティおおさか(大阪人権博物館=大阪市浪速区)とピースおおさか(大阪国際平和センター=同市中央区)というユニークな博物館が存続・運営の危機に晒されているのだ。主に新聞報道を引用する。 
 
  両館は大阪府と大阪市からの補助金で運営が支えられてきた。だがリバティの補助金は昨年度で打ち切られた。運営する公益財団法人は人件費を切り詰め、入館料を上げ、年会費制の個人サポーターに頼らざるを得なくなった。企業・個人からの寄付も募っているが、苦しい運営が予想される。 
 
  何故そんな事態に陥ったのか。リバティは部落差別やアイヌ民族といった少数者の人権問題の展示に特色がある。だが橋下徹市長は昨年4月にリバティを視察し、批判した。「差別や人権の展示に特化しており、子ども夢や希望を抱ける内容になっていない」 
 
  ピースおおさかも、府と市が設立した財団法人が運営する。大阪空襲を展示の導入とし、南京大虐殺や朝鮮人強制連行の加害行為に目を向けさせ、平和の希求へと結ぶ。 
 
  これに対して財団は戦後70年を目標に全面改装する構えで、展示の新構想をまとめた。基本設計案では、戦時下の暮らしや大阪空襲、復興の展示を増やす一方、旧日本軍による加害の展示は大幅に縮小する。南京大虐殺の展示はなくす恐れが高いようだ。 
 
  91年の開設当初から、保守系の団体や議員は展示を「自虐的」「偏向」と批判してきた。展示写真や説明文に誤りが見つかり、取り外したり書き換えたりしたこともある。 
 
  それにしても気がかりなのは、橋下氏のこんな発言だ。「補助金を受けないなら目的は自由。受ける以上は決定権は僕(市長)にある。その権限を与えてもらうのが選挙なんで。優先順位をつければ、人権博物館に1億円投じるより、近現代史の教育をやる。それが僕の価値観」。摩擦のある近現代史を「両論併記」で学ぶ施設の建設構想を記者団に語った昨年5月の発言だ。 
 
  発言の部分だけ抜き出すことの危険性を承知で言えば、橋下氏は選挙に勝てば全権委任を得たと受け止めているのか。両博物館の歴史的な役割をどう評価しているのか、知りたいところだ。 
 
  加害展示を縮小するピースの改装計画を疑問視する市民は集会を開いて声を上げている。「加害展示をなくせば、『日本は自国の被害しか関心がない』という誤ったメッセージを広げてしまう」「なぜ大阪空襲が起きたのかを説明するためにも、近隣諸国との和解の手がかりとしても重要」。説得力のある意見だ。 
 
  ある関係者は私に「29日に投開票される堺市長選の結果に注目している」と打ち明ける。大阪維新の会の新顔候補の当落しだいで、橋下氏側に立ち向かう戦術に違いが出る、と言うのだ。 


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