2013年10月18日18時34分掲載  無料記事
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検証・メディア

首相の所信表明演説が意図すること 暮らしにくい「弱肉強食の競争社会」 安原和雄

  安倍首相の所信表明演説が意図するものは何か。それを大づかみに理解しようと思えば、社説を読むのが手っ取り早い。といっても各紙社説は多様である。現政権への擁護論から批判派まで主張は幅広い。だから読者としての自分なりの視点が求められる。 
わたし自身は東京新聞の主張に教えられるところが多い。特に<「弱肉強食」の競争社会は、たとえ経済が成長したとしても、暮らしにくい。目指すべきは「支え合い社会」>という視点に賛成したい。安倍首相の単純な経済成長推進論は幸せへの道にはほど遠い。経済成長賛美はもはやいささか陳腐すぎるとはいえないか。 
 
 大手新聞社説(10月16日付)は安倍首相の所信表明演説をどう論じたか。まず各紙の社説の見出しを紹介する。 
 
*朝日新聞=所信表明演説 1強のおごりはないか 
*毎日新聞=安倍首相演説 汚染水への危機感薄い 
*讀賣新聞=所信表明演説 「意志の力」を具体化する時だ 
*日本経済新聞=首相は「実行なくして成長なし」を貫け 
*東京新聞=首相所信表明 「意志の力」は大切だが 
 
 以下、各紙社説の要点を紹介し、締めくくりとして安原のコメントをつける。 
 
(1)朝日新聞=安倍首相の所信表明演説は、拍子抜けするほど素っ気ないものだった。各党とまともに議論する気があるのかどうか、疑わしい。首相がいま最も力を入れているのは、消費税率引き上げに伴う成長戦略だ。演説では「起業・創業の精神に満ちあふれた国を取り戻すこと。若者が活躍し、女性が輝く社会を創りあげること。これこそが私の成長戦略です」と打ち上げた。 
 政策を前に進めることには賛成だ。だが、国民が増税などの痛みを強いられるなか、権力が集中する「1強」のおごりが見えるようでは、信は失われるだろう。 
 
(2)毎日新聞=東京電力福島第1原発の汚染水問題に対する危機感が足りないのではないか。そんな疑問を抱く首相の所信表明演説だった。この問題を解決しない限り、首相がアピールする「成長戦略の実行」も前には進めないはずだ。首相は「日本は、もう一度、力強く成長できる」「意志さえあれば、必ずや道はひらける」と改めてプラス思考を強調した。「若者が活躍し、女性が輝く社会をつくる」という首相の言葉に異論はない。 
 大事なのは「実行」であり、「作文には意味がない」とも語った。果たして目標としている労働者の賃金アップに本当につながるかどうか。結果が問われる時期が近づいている。 
 
(3)讀賣新聞=日本経済の再生を目指す「意志」は、伝わってくるが、肝心なのは結果である。成長戦略をいかに具体化するか、政権の実行力が問われる。安倍首相は衆参両院の所信表明演説で、困難な課題を克服する「意志の力」の重要性も強調した。 
 外交・安全保障の分野で首相は「積極的平和主義」の立場から国家安全保障会議(日本版NSC)の創設を急ぐ考えを示した。政府は日本版NSC設置法案の早期成立に加え、初の国家安全保障戦略や新防衛大綱の策定、集団的自衛権の憲法解釈の見直しなどを着実に進める必要がある。 
 
(4)日本経済新聞=首相はアベノミクスで経済成長率や雇用情勢が改善した成果を示す一方で「これまでも同じような『成長戦略』はたくさんあった」と指摘。「実行なくして成長なし」と訴え、今国会で結果を出すよう呼びかけた。 
 外交・安全保障政策では「積極的平和主義」の理念を掲げ、国家安全保障会議の創設や国家安全保障戦略策定の方針を打ち出した。 
 日中、日韓関係に全く言及がなかった。中韓両国の国内事情もあり、ともに首脳会談が実現していないが、これでは日中、日韓関係を軽視していると誤解されかねない。 
 
(5)東京新聞=首相が今回の演説でちりばめたのは「チャレンジ」「頑張る」「意欲」「意志の力」「実行」という言葉だ。長年のデフレから脱却し、日本経済をを再び回復基調に転じるには意欲ある人や企業を支援し、けん引役になってほしいのだろう。 
 しかし「意志の力」ばかり演説で繰り返されると、心配になってくる。頑張ろうとしても頑張れない、社会的に弱い人は切り捨てられても構わないという風潮を生み出しはしないか、と。弱い人たちが軽んじられる「弱肉強食」の競争社会は、たとえ経済が成長したとしても、暮らしにくいに違いない。それは目指すべき「支え合い社会」にはほど遠い。 
 
<安原のコメント> 目指すべきは「支え合い社会」 
 
 大手紙の社説が一番言いたいことは何か。簡潔にいえば、以下のようである。 
*朝日新聞=国民が増税などの痛みを強いられるなか、権力が集中する「1強」のおごりが見えるようでは、信は失われるだろう。 
*毎日新聞=大事なのは「実行」であり、果たして目標としている労働者の賃金アップに本当につながるかどうか。 
*讀賣新聞=政府は、初の国家安全保障戦略や新防衛大綱の策定、集団的自衛権の憲法解釈の見直しなどを着実に進める必要がある。 
*日本経済新聞=日中、日韓関係に全く言及がなかった。ともに首脳会談が実現していないが、これでは日中、日韓関係を軽視していると誤解されかねない。 
*東京新聞=「弱肉強食」の競争社会は、たとえ経済が成長したとしても、暮らしにくいに違いない。それは目指すべき「支え合い社会」にはほど遠い。 
 
 上記5紙の社説のうちあえてひとつだけ選ぶとすれば、東京新聞を挙げたい。他の4紙の社説もそれぞれの個性が浮き出ている。朝日は「1強」のおごりを戒め、毎日は労働者の賃金引き上げこそ重要と説く。一方、讀賣は安倍政権を支持する右派メディアらしく、集団的自衛権(日本が直接攻撃されていなくても同盟国米国と共に軍事力を行使すること)を容認する。ただし私自身は集団的自衛権行使には賛同できない。日経の「首相は日中、日韓関係を軽視している」との認識は正しい。 
 
 さてなぜ東京新聞社説が一番評価できるのか。まず<「弱肉強食」の競争社会>への批判となっているからである。しかも安倍政権の単純な経済成長論にも疑問を提示している。何よりも<目指すべき「支え合い社会」にはほど遠い>という指摘には新味がある。単純な経済成長賛美論はもはや陳腐である。ぬくもりのある「支え合い社会」をこそ目指したい。 
 
*「安原和雄の仏教経済塾」からの転載 
http://kyasuhara.blog14.fc2.com/ 


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