2013年10月31日15時16分掲載  無料記事
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中国

天安門事件が明らかにした中国の矛盾

 中国当局は北京市・天安門に車で突入、多数の犠牲者が出た事件をウイグル族によるテロとして、押さえこもうとしている。この世界第二の大国はいま、想像を絶するほどに激烈なグローバル資本主義的競争社会となっており、底辺労働者(とりわけ女性)、出稼ぎ農民、少数民族などに押し付けられおり、内部矛盾は極限にまで来ている。今回の事件ばかりでなく、中国各地でさまざまの抗争、事件、闘争が起きており、とどまるところを知らない様相を呈している。昨年選出された新指導部は、スケープゴートとして腐敗容疑で起訴された同じ仲間内のトップ官僚に対する無期懲役の判決を確定させ、この半年近くにわたって続けられてきた「大衆路線」「反腐敗」キャンペーンを掲げながら、11月の3中全会を契機にして、さらなるグローバル資本主義と民主化への弾圧の全面化という「中国の特色ある社会主義」のステップアップを目指そうとしていた矢先に、今回の事件が起きた。その背後に何があるのか。主として労働運動の側面からみた中国からの便りを紹介する。(日刊ベリタ編集部) 
 
 11月に開かれる中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(3中全会)は、新指導部体制の1周年の節目であり、よりいっそうのグローバル経済への開放を中心とした方針が打ち出されます。 
 
 この1年間、習体制のもとで、薄熙来裁判、整風運動、上海自由貿易特区などが展開されてきました。その間、シャドーバンク騒ぎなど、経済危機対応の後遺症も報道されています。整風運動でいえば、今年初めの習総書記の整風講話からはじまり、「蝿もトラも捕まえる」ということで小物だけでなく大物の腐敗官僚に対してつぎつぎと党規処分がだされ、また5月から8月にかけて全国10の省や国家機関にたいして、党中央規律委員会の査察団が派遣され、人民に奉仕する、人民の期待にこたえる党中央、という反腐敗のキャンペーンが展開されています。 
 
 ひとつには習新体制への絶対的忠誠を確固たるものにすることが目的ですが、もうひとつは腐敗と不公平に対する人民の怨嗟に対する危機感です。しかし、党は腐敗に対して断固としてたたかう、という昔からのスローガンを掲げていますが、腐敗の原因はほかでもない一党独裁体制(グローバル資本主義の発展に結びついた)にあるだから、そのトップの党中央がどれだけ腐敗撲滅を掲げたとしても根本的な解決にはほどとおい。もっとも簡単な方法は一党独裁を終わらせることです。 
 
 この10月18日から21日までの間、政府公認のナショナルセンター、総工会の16回大会が開かれました。この5年は比較的調和ある安定した労使関係であった、という総括です。そして労組は労働者の要求解決のために会社と交渉しなければならない、という建前を掲げ、実際には労働者の怒りを簒奪・抑圧することを正当化しています。総工会大会には党のトップ7人の祝辞、ナンバー2である李克強首相による経済講演(中国の発展は労働者のおかげなどと持ち上げつつ、厳しい経済情勢でも解雇はしない明言した経営者を紹介して持ち上げる)など、党あげての熱烈ぶりです。 
 
 党は、経済発展およびその曲がり角において労働者階級が占める役割(価値を生み出すのは労働だけであり、それから搾取することで発展する)をよく分かっているからです。もちろん極端な経済的不平等に対する怒りのパワーへの恐れが根底にあります。大会では、新指導部の旗の下に結集しよう、中国の特色ある社会主義の労働組合を発展させよう、民族の復興というチャイナドリームを実現しよう、億万労働者大衆の願いをかなえよう、というきらびやかなスローガンがならんでいます。 
 
 この数年来、中国政府や総工会は、賃金の団体交渉の実施に力を注いできました。とりわけ中国資本主義のトップランナーである広東省・深センでは、総工会が日系企業のリコーやオムロンなどの組合で賃金をめぐる団体交渉を実現しており、それは「リコー経験」などと省のトップ官僚らに持ち上げられてきました。その広東省で、この10月に入って「広東省団体交渉条例」の法案を議会に提示しました。しかしわずか10日間のパブコメ期間だけで意見募集を打ち切りました。パブコメ募集終了はくしくも総工会16回大会の閉幕日と同じ日でした。わずかの期間でしたが広東省で活動するいくつかの労働NGOや労働弁護士事務所が意見書や修正案を出しています。 
 
 この「広東省団体交渉条例」法案では、違法なストや生産妨害に対しては治安防止条例を適用して弾圧するということがはっきりと書かれるなど、「アメとムチ」の条例となっており、多発するストライキに対する罰則・弾圧条項が盛り込まれるなど、その階級的狙いははっきりとしています。これに対して広東省総工会の幹部はある大学の研究会で、いくつかの課題もあるが、これまでは団体交渉を促進させるような条例がなかったことなどをあげ、一定の進歩だと評価していました。総工会はこの間一貫して「労働法制作成の当初から関与する」ことを掲げてきたことから、法案の作成にも一定の関与はあるだろうと思います。 
 
 工場移転にともなうスト争議行為の過程ででっちあげ逮捕されてすでに140日以上も拘束されている労働者の件などから見ても、中国最大のGDPを誇り、労働争議も最多となり、グローバル資本主義の最先端(資本主義の原始蓄積時期をも含んでいる)を進んでいる広東省での階級戦争の現状にも関心を持たざるを得ません。 


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