2013年11月26日15時11分掲載  無料記事
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政治

安倍政権、特定秘密保護法案成立に向け強行突破  抗議の声を上げ続けよう  根本進

 11月26日、特定秘密保護法案が衆院特別委員会で強行採決された。特定秘密保護法案という法律は、一度、成立してしまえば、もう、だれにも、乱用や暴走を止めることはできないという本当に恐ろしい法律だ。だれかが国の秘密を漏らしてはいないか、漏らしそうな人間かどうかを調査する権限を警察などに与えるものである。多くの人が自分は調査対象にはならないだろうとのんびりとしている。自分たちの暮しには関係ないことだと思い込んでいる。しかし、この法律が成立すれば特定秘密に関係しそうな民間人は家族まで調査対象になるのだ。国民全体が国家権力の監視の下に置かれ、人権は容易に侵害されるようになるのである。 
 
 この法律案に賛成する人の中には、わが国の刑事司法は令状主義であり、罪を犯した相当の理由や捜索の必要性を(裁判所に)示す必要がある、だから、この法律が成立しても危険はそうそうあるとは思われないという意見がある。 
 
 しかし、刑事訴訟法210条では長期3年以上の刑にあたる嫌疑の対象になるときは、裁判所の令状なくして、緊急逮捕ができる。捜索差し押えも令状なしで、逮捕ができるのだ。だから、報道機関が対象になった時には、取材のデータやテレビ局のマスターテープなど、どこから情報を入手したのかということが明らかになってしまうことは確実だ。情報の提供元を押さえられたらますます情報がでなくなってしまうだろう。報道に対して配慮をするとしているが、それは裁判での話であって、捜査機関が正当な報道でないと判断すれば、権力の乱用や暴走が起こることは確実だ。この法律はアクセルだけがあって、ブレーキもハンドルもない自動車のようなものだ。法律が成立してしまえば、もう、だれにも、乱用や暴走を止めることはできない。 
 
 森雅子特定秘密保護法案担当相の答弁は、この法案が問題だらけであることを露呈している。秘密指定が妥当かを判断する第三者機関の設置や報道機関への強制捜査をめぐる答弁は他の閣僚らと食い違っているし、「改善を法案成立後にも尽くしたい」と法案成立後の見直しに言及しているありさまだ。 
 
 この法案は何が秘密であるかが明確に規定されていないうえに、情報公開の明確なルールもない。そのうえ、国会や司法のチェックも及ばない。質疑を重ねるほど法案の構造的な問題を露呈している。とても恐ろしい法律なのだ。 
 
11月18日、自民党、公明党とみんなの党は、特定秘密保護法案を巡る修正で大筋合意した。 
 
 11月20日、自民、公明両党と日本維新の会は、国家機密を漏えいした公務員らに厳罰を科す特定秘密保護法案について、特定秘密の指定期間を「最長60年」とし7項目の例外を設ける、特定秘密を指定できる省庁を政令で絞り込める条項を加えるなどの修正案で合意した。 
 
 自民党と野党(公明党、みんなの党、日本維新の会など)の修正協議は、実質的な内容のない、たんなる茶番劇であり、ポーズでしかない。この法律が成立してしまえば、協議の場で確認されたさまざまな規制は実質的な効力のないものであることが誰の目にも明白になるだろう。 
 
 11月15日、日弁連の山岸会長は、特定秘密保護法案に反対し、ツワネ原則に則して秘密保全法制の在り方を全面的に再検討することを求める声明を発表した。 
 
 国が扱う情報は、本来、国民の財産であり、国民に公表・公開されるべきものである。「特定秘密の保護に関する法律案」は、行政機関が秘密指定できる情報の範囲を広くかつ曖昧に設定し、かつ、運用の実態は第三者がチェックできない一方で、このような情報にアクセスしようとする国民や国会議員、報道関係者などのアクセスを重罰規定によって牽制するもので、まさに行政機関による情報支配ともいうべき事態である。 
 
 11月20日、特定秘密保護法案の廃案を求めるメディア関係者の集会が東京・永田町で開かれた。鳥越俊太郎さんや岸井成格さんらテレビや新聞、雑誌、インターネットで発信しているジャーナリストが「国民の知る権利を大きく侵害する恐れがある危険きわまりない法案だ」と訴えた。 
 
 11月20日、世界102カ国の作家団体で構成する国際ペン(本部・ロンドン、ジョン・ラルストン・サウル会長)は、特定秘密保護法案について「秘密を保全したいという強迫観念は日本でも流行になっているようだ。政治家と官僚が市民の言論の自由を弱体化させ、権力を集中させようとしている」と批判する会長声明を発表した。 
 
 11月21日、大阪市北区の大阪弁護士会館では「STOP!『秘密保護法』11・21大集会」(大阪弁護士会主催)があり、約450人が集まった。 
 
11月21日、東京都千代田区の日比谷野外音楽堂では、市民団体などが主催し、日本弁護士連合会後援の集会があり、約1万人(主催者発表)が参加した。民主、共産、社民、無所属の国会議員約30人も加わった。集会後、国会などに向けデモ行進した。 
 
 このほかにも、広島、富山、北海道など、全国各地で反対の集会が行なわれている。 
 
 この特定秘密保護法案は、日本国憲法を改正しようとしていることと連動している。国民の生命財産を守るためには軍隊が必要であり、国防のためには国は一定の秘密を保護する必要があるという固定観念がある。国民の生命財産を守るということが人権を擁護することであるというのではなく、国民の生命財産を守るためには治安維持が必要であり、国家権力による支配が最優先であるという転倒した政治観が自民党をはじめとする連中の痼疾となっているのである。 
 
 現在、自民党はこんな問題だらけの法案を2週間ほどの審議で通過させようとしている。先の参議院選挙で国会の「ねじれ」が解消し、それからわずか4カ月ばかりで数にまかせての手段を行使しようとしているのである。これが政治だ、政治の力学だと言って、傍観者然として容認しているわけにはいかない。 
 
 バートランド・ラッセルは自伝の中で、第一次世界大戦に際して、「私の抗議がどんなに無益なものであろうとも、戦争に抗議することは私の役割(責務)であると理解した。」と述べている。とにかく、抗議の声をあげていこう。 


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