2013年12月01日15時57分掲載  無料記事
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検証・メディア

ツワネ原則   〜国家秘密と国民が知る権利および内部告発者の保護に関する国際原則〜ウィキリークス以後の世界を考える

  国家の秘密と国民の知る権利をどう調整するか、その基本原則を国際的な会議の場で決めたのがツワネ原則(Tshwane Principles)である。安倍政権が国会で今可決を急いでいる特定秘密保護法案だが、日本の海渡雄一弁護士など多くの識者・市民から「ツワネ原則」に反する欠陥法案との批判が強い。ツワネ原則とは国家の秘密と国民の知る権利について国際会議が開かれ、今年6月に南アフリカのツワネで合意に達したのでそう呼ばれている。ツワネ原則は8つの見地から、50の基本原則が設けられた。 
 
  様々な団体がこのツワネ原則の原文をウェブサイトで紹介している。ここにリンクを張るのは米国のACLU(American Civil Liberties Union) のウェブサイトである。 
https://www.aclu.org/human-rights/global-principles-national-security-and-right-information-tshwane-principles 
  以下は冒頭に掲げられた説明である。 
 
'The Global Principles on National 
Security and the Right to Information 
(Tshwane Principles) 
These Global Principles on National Security and the Right 
to Information, launched on June 12, 2013, were drafted 
by 22 groups over a two year period, in a process that 
involved consulting more than 500 experts from over 
70 countries around the world. The drafting process 
culminated at a meeting in Tshwane, South Africa, which 
gave them their name. ' 
 
「●国家の安全保障と国民が知る権利に関する国際ルール(ツワネ原則) 
 国家の安全保障と国民が知る権利に関する、これら複数の国際原則は22の団体によって2年間を費やして起草され、2013年6月12日に採択された。その審議においては世界70カ国以上から500人を超える専門家の意見を取り入れている。これらの審議は南アフリカのツワネにおいて結実したがゆえにその地の名前を冠してツワネ原則とも呼ばれることとなった」 
 
■あの投資家(投機家)ジョージ・ソロスが創設したオープンソサイアティ財団でもツワネ原則を紹介している。興味深いことは今年6月という時期に鑑み、米国のデビッド・マニング元兵士と、元CIA職員のエドワード・スノーデン氏らによる内部告発の例に触れていることである。マニング氏もスノーデン氏も国による重大な違法行為が国家秘密に指定されて国民の目から隠されてきたことを情報漏洩行為によって明らかにした。 
http://www.opensocietyfoundations.org/voices/national-security-whistleblowers-us-response-manning-and-snowden-examined 
  ソロスはハンガリー生まれで、祖国がソ連によって衛星国にされ自由を奪われた体験から、こうした政治団体を立ち上げたようだ。以下はオープンソサイアティ財団のブログから。 
 
  ツワネ原則によると、内部告発者を守ることができるのは次の4つのケースであるという。これはツワネ原則の中の内部告発に関する部分で、8つの章立ての中の<第6章>で触れられている。以下はその要旨を短くまとめたものである。 
 
’The Global Principles on National Security and the Right to Information (called the Tshwane Principles, after the municipality in South Africa where they were finalized), assert that laws should protect public servants―including members of the military and contractors working for intelligence agencies―who disclose information to the public so long as four conditions are met: 
 
(1) The information concerns wrongdoing by government or government contractors (defined in some detail); 
 
(2) The person attempted to report the wrongdoing, unless there was no functioning body that was likely to undertake an effective investigation or if reporting would have posed a significant risk of destruction of evidence or retaliation against the whistleblower or a third party; 
 
(3) The disclosure was limited to the amount of information reasonably necessary to bring to light the wrongdoing; and 
 
(4) The whistleblower reasonably believed that the public interest in having the information revealed outweighed any harm to the public interest that would result from disclosure. 
 
 「ツワネ原則ではたとえ国家秘密を漏洩したとしても、次の4つの原則に当てはまる場合は内部告発をした公務員(軍人や軍に契約している民間業者も含む)は保護されるべきであるとした。 
 
1)漏洩した国家秘密が、政府や政府との契約者が犯している間違った行為(wrong doing)に関する場合 
 
2)政府やその契約者の過ちを適正に調査する機関がない場合や、内部告発によって過ちを犯した政府やその契約者が証拠隠滅を図る可能性がある場合、さらに告発された者らが内部告発者や第三者に対して報復手段を講じる可能性があるとき 
 
3)漏洩された秘密が、政府やその契約者が犯した誤りを立証するために適切な量と内容であった場合(筆者注:つまり、必要以上の膨大な情報の漏洩、あるいは内部告発の内容に関係しない情報の漏洩については原則的には認めないということのようだ) 
 
4)内部告発者が国家秘密を漏洩することによって得られる公共の利益の方が、公共に与える害よりも大きいと信じるにいたる合理的な理由があった場合」 
 
  2011年に専門家を交えたこの国際会議が始まり、50の基本原則が今年6月に採択された。時期的にはウィキリークスによる国家秘密の大量漏洩事件が世界にインパクトを与えた時期と重なっている。彼らを国がどう処罰するのか、しないのか、について世界の注目が集まっている時期だった。背景には大量秘密の暴露を可能とした情報のデジタル化、インターネット社会化がある。 
 
  オープンソサイアティ財団によると、ツワネ原則においては上記のように内部告発者を守るための4つの原則を掲げた。ウィキリークスとの関わりで言えば特筆すべきは3つめの項目の、漏洩する量・内容が適切かどうか、ということだろう。必要以上に莫大な量のデータを公開して、その中から、マスメディアが興味深い情報をつまみ食い的に抜き出して報じる、という手法が問われているのである。この意味で漏洩された情報を入手したメディアもまたツワネ原則を無視することができないはずである。メディアも内部告発者による情報漏洩が何を目的にしたもので、つまり、そこに(漏洩による損害を上回る)どんな公益があるかを判断する責務がある。報じられる内容もそこから外れることは許されないだろう。 
 
  ただし、オープンソサイアティ財団はこう続けている。 
 
Even if the disclosure does not meet the above four criteria, the Principles recommend that the whistleblower should not be punished so long as the public interest in disclosure outweighs the public interest in keeping the information secret. To the extent that a country does have laws that criminalize disclosure to the public of classified information, any punishment should be proportionate to the harm actually caused.’ 
 
  「ただし、情報漏洩が4つの範疇に当てはまらなかったとしても、内部告発のよって公衆が得られる利益が秘密にされた場合の損失よりも大きかった場合はツワネ原則の精神に照らして内部告発者を守るべきである。国が国家秘密の情報漏洩を処罰する法律を有する場合のおいては、実際に生じた損害に応じた適切な処罰であるべきである」 
 
  つまり、先ほどの4つの範疇に適合しなくても、内部告発による公衆の利益と損失を計りにかけて、利益が大きい場合は内部告発者は守られるべきであるとしているのである。これはウィキリークスの場合でも、先ほどの量・中身の問題のように実際にどれだけの量・中身が適切かは内部告発者自身も正確に把握するのが難しいであろうからだ。このあたりは具体的にケースバイケースで考えるしかないだろう。 
 
  ウィキリークスによる内部告発が話題になって以来、その手法が必ずや秘密を守ろうとする側の反動を生むだろうと筆者は考えてきた。暴露する情報が何十万件という大量であることと、底引き網のような情報公開の手法からである。これはインターネット時代に顕著になってきた新たな状況である。その反動は最も告発の対象とされた米国においてのみでなく、その刃が米国の同盟国である日本にも飛んできたのだ。それが安倍政権の特定秘密保護法案だと筆者は考える。 
 
  しかし、安倍政権は内部告発者だけでなく、それを報じる市民・メディアも重罰に処することや、国家秘密の対象を軍事だけでなく、外交など幅広い分野に広げていることが注目に値する。しかも、そこには秘密が適正かどうかを厳密に審査する政府・国家から独立した監視機関もないためチェック機能がまったく期待できないことだ。政府の誤りを監視するためのチェック機関であるのに、政府や首相がチェックすればいいといった見当違いの主張すら出ているのである。さらに日本ではこれまででも司法の行政や立法に対するチェック機能が弱く、三権分立すら十分に達成できていなかった。また第四の権力であるマスメディアの1つ、日本最大の公共放送局にも安倍政権はその経営委員会の人事を通して強力に政治介入している。つまり、特定秘密保護法案はこれまでも多くの方々から指摘されてきたように1945年以来初めて迎える、日本の民主主義の最大の危機を起こしているのだ。 
 
 
■ウィキリークスの理想は?(2010年12月の筆者のブログから) 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201012020048214 
 「非合法で入手した外交公電を大量に公表することは本当によいことなのだろうか。今回は米政府の外交情報だが、中国や日本、あるいは韓国や北朝鮮の外交公電がリークされた場合も、我々は肯定できるのだろうか。政治的な右とか左とかはこの際関係なく、である。 
  ウィキリークスの大量の情報公開を肯定する論理は一体どこにあるのだろうか。政府が秘密を一切持たないようになることが理想なのか。それならば日本政府も外交上の秘密を持たない事がよいことなのだろうか。」 
 
■ツワネ原則 (日本語訳)日本弁護士連合会のHPから 
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/statement/data/2013/tshwane.pdf 


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