2013年12月02日03時12分掲載  無料記事
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「現代政治学の基礎知識」(有斐閣) 〜政治の再構築に向けて〜

   有斐閣から1975年に出された「現代政治学の基礎知識〜基礎概念・理論の整理と検証〜」という本がある。当時、政治学の教鞭を取っていた53人の教授・准教授が310の問題に対して、それぞれ担当した問いの模範解答を記している。世界政治から国内政治、地方自治まで様々なレベルの事項が問題・解答形式で読める本である。編集代表は内田満、内山秀夫、河中二講、武者小路公秀。 
 
  この1冊を読むだけでも、政治を考えるためのかなりの基本的な視点が得られるはずである。だが、本書の価値は試験や就職のために限定されない。むしろ、労働者や市民がこの本で政治学の概略図をつかんで、原典に触れるためのものだ。原典とは近代政治思想の先駆者であるロックやルソー、ホッブズ、モンテスキューに始まり、現代へと脈々と続く政治思想書である。 
 
  こんな無味乾燥な古典など関係ない、と考える人がいたとしたら大きな間違いである。今問われている民主主義がどう生まれたのか、それをもう一度たどっていく過程なのだから。日本で1945年以後に生まれた人にとって民主主義は当たり前に与えられていた。だが今それが失われようとしている。だからこそ、一見当たり前に思っていた1つ1つの概念が歴史的にどのように形成され、発展してきたのかを考え直す作業が必要なのだ。その作業は自民党の政治家が本当にこれらの近代政治思想を理解しているのかどうかをこれから次期衆院選までの3年間に検証することにつながる。 
 
  本書に出てくる質問をいくつかピックアップしてみよう。質問の後ろの2つの数字は章とその章におけるナンバリングである。基本的に1ページに質問と答えがまとめられており、読みやすい。 
 
・「公共とは何か。また、それと政治との関係について述べよ」(1−24) 
 
・「政治において理論が果たす現実的役割について述べよ」(1−25) 
 
・「ボダンの主権国家概念について論ぜよ」(2−2) 
 
・「ホッブズとロックの社会契約説を比較せよ」(2−3) 
 
・「ルソーの政治思想の現代的意義を論ぜよ」(2−4) 
 
・「ファシズム台頭の政治思想史的意義を論ぜよ」(2−11) 
 
・「アメリカ統一に果たしたフェデラリストの政治思想の役割を説明せよ」(2−19) 
 
・「多数決原理は現代デモクラシーにおいていかなる機能を果たしているか、また多数決原理が機能しうる条件をあげよ」(3−12) 
 
・「19世紀までの近代国家が、夜警国家あるいは立法国家と呼ばれる理由を説明せよ」(3−13) 
 
・「行政国家とは何か。また行政国家の出現はデモクラシーに対していかなる影響を及ぼしたか」(3−18) 
 
・「「現代は議会主義の危機の時代にある」といわれるが、その理由を述べよ」(3−19) 
 
・「絶対的権力は絶対的に腐敗する」といわれるが、これを防ぐために近代の政治制度の上にどのような工夫がなされているか。(4−1) 
 
・「リップマンは、かつて新聞を民主政治のバイブルになぞらえた。これを論評せよ」(5−36) 
 
・「日本と欧米とで、自治の発達とその果たす役割について、共通点および相違点を述べよ」(6−3) 
 
・「圧力団体の変容とその地方政治に果たす役割を論ぜよ」(6−32) 
 
・「国際組織と国家利益との関係について述べよ」(7−35) 
 
・「ナショナリズムの諸類型について比較し、国際関係の近代化過程におけるそれぞれの類型の役割について述べよ」(7−41) 
 
・「第三世界におけるナショナリズムの一般的特殊性について説明せよ」(8−6) 
 
・「現在、価値体系の崩壊が問題になっているが、それが表面化した契機と問題の所在を述べよ」(8−26) 
 
・「ポスト・スターリン時代の共産圏諸国の政治体制は、どのような変化をみせつつあるのか」(8−31) 
 
  多岐にわたる310の政治学の質問と答え(模範)が収録されているが、残念ながら出版元である有斐閣のウェブサイトによると今日、品切れになっているようだ。本書は1975年に初版が発行され、1997年に新装版第30刷が発行されている(筆者が持っているのはこの版である)。その後、何年まで継続されたのか知りえないが、少なくとも22年間出版され続けてきたのだから、ロングセラーであった。ここに書かれた問いは基本概念であり、決して古びることはないと思われる。それだけにぜひ、有斐閣に復刊していただきたいものである。 
 
  また願わくば将来、日本の政治学者の分析と判断が正しかったケースと読みを誤ったケースをまとめた本も出版してもらいたいものだ。たとえばアーネスト・メイ著「歴史の教訓―アメリカ外交はどう作られたか 」(岩波現代文庫)は米外交の失敗例を的確に分析・紹介した名著である。いま、日本の政治が危機に陥っているとしたら、政治学がそれとどう関係しているのか、その理論が国民や政治家をミスリードしたことはなかったかを検証することは必要だろう。政治を他人事にしておいてよい時代は2013年11月26日をもって終わったのだ。 


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