2013年12月14日08時17分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

人権国家フランスで警察がフランス国民の通話・通信を令状なしで傍受できる法案を可決 〜米国の盗聴監視への対抗措置か〜

  アメリカの機関NSAの通信傍受に怒りの声をあげたフランスだが、12月10日、テロとの戦いという名目で国民の通話・通信を警察が傍受できる法案(Military Programming Law)が国会(上院)で可決された。問題になっているのはその第13条である。第13条によればテロ対策や組織的犯罪を抑止するためには裁判所の捜査令状を取らなくても警察が個人の通話・通信を傍受できる、というものだ。また通信者のリアルタイムの位置情報も請求できる。ル・モンドに以下の記事が出ている。 
http://www.lemonde.fr/international/article/2013/12/10/adoption-definitive-de-la-controverse-loi-de-programmation-militaire_3528927_3210.html 
  アメリカの通信傍受に怒りを上げたフランスだが、同国は今、国民監視の法案を自ら可決したのである。フランス緑の党の上院議員は人権抑圧のこの法案に疑問を呈していた。特にCNIL(The National Comission on Information Tchnology annd Freedom )のチェックがこの13条に関する限り意図的に行われなかったと指摘しているのだ。 
 
 フランス緑の党はこの悪法は違憲立法であるとして、違憲立法審査を行うべく、立ち上がった。フランスにおいては下院議員と上院議員を合わせて60人以上束ねて申請すれば憲法審査会に提訴できる仕組みがある。具体的な権利侵害行為がなければ違憲立法訴訟を起こせない日本との違いである。 
http://www.nytimes.com/2013/12/14/opinion/domestic-spying-french-style.html?hpw&rref=opinion&_r=0 
  そしてニューヨーク・タイムズの社説’Domestic Spying, French Style’(国民監視・フランス版)ではAOLやグーグル、スカイプなどの通信関連企業がこの法案に懸念を示している。ユーザーたちがインターネット通信の秘密が侵害される懸念を持つからだ。しかもこの法案は単なるテロ対策だけでなく、科学や経済の分野でフランスの国益を侵害する行為を抑止するという目的で、警察だけでなく、経済産業省と財務省にも裁判所の令状なしに、個人の通信データ取得の権限を与えるものである。 
 
  これは逆に見れば米国NSAの通信傍受に対する対抗措置の側面も持っているかもしれない。なぜなら、侵害されるのは個人の通信だけでなく、ビジネス上の情報がそこに含まれるからだ。欧州は米国NSAの通信傍受の動機にはテロ対策という表向きの名目の裏に、欧州のビジネス情報を得て、米関連企業に情報提供していると考えているのである。これは従来からエシュロンと呼ばれる通信傍受システムで行われていたものだ。そして、今回のNSAの通信傍受もまた産業スパイの側面を持つものと欧州が考えているのであれば、NSAの通信傍受スキャンダルがさらにフランスの通信傍受法案を促したのである。しかも米通信企業の多くが米当局に協力していたばかりか、情報提供として巨額の協力金を得ていたことも報じられた。 
 
  このようなテーマはすでに国境を越えて全世界の人々の共通の利害を持つテーマとなっている。世界で同時に起きている事態を見つめる必要があるだろう。 


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