2014年01月09日05時43分掲載  無料記事
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安倍政権を検証する

日本の‘女’は子供を何人産むべきか? 〜NHK経営委員になった学者の提言から〜 男女雇用機会均等法の是非

  安倍政権から推薦されてNHK経営委員となった長谷川三千子氏は日本の男女は<しかるべき年齢>で結婚して子供は2〜3人産むべきだと産経ニュースのウェブサイト(正論)で発言している。そうしないと今の出生率でいくと、1000年後に日本人がゼロになってしまうという計算からのようだ。だから、その元凶になった男女雇用機会均等法を廃止せよ、と主張しているのである。 
 
  筆者の祖母は父方は7人、母方は5人の子供を産んでいる。当時は戦争中で市民がどんどん死ぬから、子供をたくさん産むことが日本の’女’に奨励されていた。長谷川氏は2〜3人と書いているが、戦時になったら人が死んで少なくなるわけだから戦争の規模にもよるだろうが、3〜4人とか、4〜5人とか、産む数への期待も高まってくだろう。そうすれば1〜2人戦死しても人口が減らなくて済むだろう。 
 
  こうした思想の長谷川氏をNHK経営委員として送り込んだ安倍首相は改憲案を国会に出そうとしているのである。憲法9条を改変するだけでは戦争はできない。改憲の準備を着々と進めている自民党からすると、戦える国にするためには、’女’が子供をたくさん産む国に戻すことも必要だということになるだろう。何しろ、仮想敵国とされている中国には13億人もの国民が存在するのである。 
 
  著名なフランスの人口学者エマニュエル・トッドは歴史を振り返ると、教育水準が低い国の女性ほど子供をたくさん産むと分析している。実際、たくさん子供を産んだ私の祖母たちも高等教育は受けていない。トッドによると、教育水準が高くなると、神や宗教の価値判断ではなく、自分の価値判断で子供の数を調整したいと考えるようになる。だから、出生率にブレーキがかかるとしているのだ。トッドによれば教育水準と出生率こそ、その国の未来を握る鍵とされる。トッドはこうした分析上の手法により、ソ連崩壊やイランの革命などを予測している。 
 
  そこから、子どもをたくさん産ませようと思えば女性から(高等)教育を奪えばよい、という逆算も働くかもしれない。しかし、イスラム世界が戦争や貧困で低迷している理由は〜欧米諸国による簒奪を忘れれば〜イスラム諸国が女性たちを無学のままに据え置き、その巨大に秘めた力を有効に生かせていない、という説があるのだ。 
 
 さて長谷川氏の<しかるべき年齢>が何歳を指しているかは不明だが、発言の趣旨から出産に適した年齢ということになる。ここには長谷川氏の発言を単に保守的だから、と一蹴できない要素があるのである。 
 
  ある産婦人科の医師を取材していた時に「(40才前後の女性たちが)何とか子供を産みたいと駆けつけてくるんですよ」とその産婦人科医は話してくれた。「まるで買い物に来たみたいにとても安直なんです」と言う。結婚に適齢期はないとしても、出産に適齢期はある。一定の年齢を過ぎると流産や奇形のリスクが高まるからである。医師が怒っていた理由は自分の生物学的な条件を無視して若い頃に人生の計画を立て、それを謳歌した後、ぎりぎりになって<子供ができない>と人工的な受胎を希望してやってくるからだ。実際、<ぎりぎりの>女性たちの中には全国の安産に効くという神社を行脚した人もいる。プレッシャーと焦りで神や仏にもすがりたい、異常心理に追い込まれている人が少なくないようなのだ。 
 
  思想的に自由でありたいからと言って、自然の条件を無視することはできないのだ。それでも長谷川氏の説くように男女雇用機会均等法を見直すこととは別に、教育と仕事と子育てを両立させることができないのか、と問う道もあるのではなかろうか。人生は長いのである。これまで十分に安心して子育てができるシステムを日本の社会が築いてきたのか、そこをまず見る必要があるだろう。子育てに関する限り、男女雇用機会均等法があったとしても、子育てが安心して実現できる社会基盤がなければ絵に描いた餅に過ぎないからだ。 


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