2014年01月15日02時26分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201401150226203

中東

シャロン元首相の追悼記事 2 〜領土問題〜 1949年の線をどうするか

  ニューヨークタイムズではシャロン元首相の追悼記事が続く。オピニオンの欄ではイスラエルの新聞ハーレッツ(Haaretz)の元編集長デービッド・ランダウ(David Landau)氏が寄稿している。タイトルは’What if Sharon still lived?'(もしシャロンが今、生きていたら?)というもの。 
 
  この寄稿では2005年当時首相だったシャロン氏によるガザ地区からの一方的disengagement(撤退)から、稿を起こしている。シャロン氏の展望にはイスラエルを2つの国家に分けることがあったのだ、と。 
 
  しかし、このif(もし〜だったら)を考えた時、イスラエル人にとって沸き起こる障壁が<1949年の第一次中東戦争の休戦協定で合意された線>のようだ。この時の領土分割図に比べると、現在のイスラエルはずっと広い領土を保持しているのである。特に1949年の「線」ではパレスチナ側の領土となったガザ地区とヨルダン川西岸地区がつながっているのである。しかも、レバノンと接するイスラエル北部にもパレスチナ側の領土がある。 
 
  ランダウ氏は寄稿の中で、シャロン首相(当時)の政策のおかげで、仲介役の米国は1949年の線に従う方針をブッシュ政権時代に放棄し、これが現在のオバマ政権、ひいてはケリー外相の方針になっているとしている。その根拠は2004年にブッシュ大統領がシャロン首相にあてた書簡にあるようだ。その中でブッシュ大統領はイスラエル人入植地であるJudea や Samariaが1949年の線ではパレスチナ側の領土内に位置するにもかかわらず、イスラエルの領土と認めることにした、というのである。これについては当時のイスラエルのニュースを見ると、興味深い。 
http://www.israelnationalnews.com/News/News.aspx/82861#.UtVnz55_uSo 
  2005年5月にAruz Sheva NewsにUPされた以下の分析記事である。 タイトルは’Analysis: Bush Policy Pushes Israel Back to 1949 Armistice’(ブッシュ大統領はイスラエルを1949年の休戦ラインまで撤退させる方針だ)である。この記事ではブッシュ政権は頑なに1949年の休戦協定を維持する考えだから、シャロン首相が言っているようなJudea や Samariaがイスラエルのものとされるというのは妄想である、としているのである。この文章では領土を一歩でも譲るまじ、という執念が感じられる。しかも、1949年の線に戻すと、現在人口が集中しているテルアビブなどの地中海沿岸部がパレスチナ側からわずか9〜11マイル(約14〜17キロ)と間近になり、セキュリティ上問題があるとしているのだ。さらに、もし1949年に戻すことになり、同時にパレスチナ国家を認めれば現在設営されているハイウェイなども、パレスチナのアッバス大統領から改めて使用許可を得る必要が生まれることになると警告している。これらはイスラエル人が感じている本音でもあろう。 
 
  しかし、このAruz Shevaの警告とは裏腹に、ニューヨークタイムズに寄稿した元ハーレッツ紙のランダウ氏によると、1949年の線を逸脱して、現在の入植状況に米国が理解を示していることになる。つまり、この時シャロン首相にブッシュ大統領が書簡で述べた見解がオバマ政権にも継続されているらしい。オバマ政権は何も尖閣問題だけやっているわけでなく、世界のあちこちにある幾多の領土紛争に関わっているのだ。 
 
  いずれにしても、これらはイスラエル人側からの見方であるに過ぎない。これらの議論を読んでいると、どうしても南アフリカのアパルトヘイト時代末期が思い起こされてしまう。つまり現在享有している人種的な権益をどこまで他の人種に譲歩するか、どこまで返還するか。戦争で勝って獲得するのは易しいが、「与える」のは難しい。だが、軍人だったシャロン首相にとって、その政策上の原点はイスラエルのセキュリティと防衛ということだったに違いない。その結果、イスラエルとパレスチナによる二国家の平和的共存という考えにたどり着いたようである。 
 
 
■第一次中東戦争の休戦協定 
http://en.wikipedia.org/wiki/1949_Armistice_Agreements 
  1949年の停戦で合意された時のそれぞれの領土が記されている。パレスチナの領土は北部、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区ともにわずかながら接点を持っており、分断されていない。 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。