2014年01月19日07時49分掲載  無料記事
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コラム

フランスの食事

  フランスで3週間仕事をした人がこんなことを筆者に言った。 
 
  「フランスの飯は最低ですよ。レストランにも行きましたけど。ギョーザの方がよっぽどうまかったですね」 
 
  彼がどんなレストランに入ったのかわからないが、日本人として理解できるところもある一方、彼の体験から零れ落ちている可能性のある事柄も推察せざるを得なかった。それは飯を食う場のことなのである。 
 
  昔、フランス人は昼食に2時間かける、と言われていた。比較的早食いの日本人からすると、クレージーな人々に思える。いったい何で飯に2時間もかけないといけないんだ、と。筆者もそう思った。そして筆者も早食いのタイプである。 
 
  過去20年間の日本を振り返ると、この国で確実に変化しているのは飯を食う場であろう。それはチェーンのファーストフード店が全国的に増えたことに代表されるものである。そこでの平均滞留時間は何分だろうか。とにかく、店側は回転率を競う必要があるし、客も後ろに待っている人がいると思うと急いで食べないと・・・と心が急き立てられるのである。店員さんは「ごゆっくりどうぞ」と言ってくれるのだが、たとえ後ろに待ち人がいなくても、そこで長居することは心理的にできないものである。自分もファーストフード店はよく利用する人間だから、ファーストフード店を否定するつもりはないし、メニューも低価格の割によく工夫していると思うけれども、一番悲しいのはその「急き立てられる」感じなのである。しかも目の前でチャップリンの映画「モダンタイムス」に出てくる工場のような労働が繰り広げられている。 
 
  さて、フランス人の友達ができると、彼らから飯に誘われる機会も出てくる。そこで出かけてみると、実際に彼らが飯に2時間はかけていることがわかるのである。いや、もっとかけることがしばしばあるのである。もちろん、人を招待しなければもっと簡素なのかもしれないが。ただ確かなことは飯の流れに定石があるのである。 
 
,泙査能蕕縫錺ぅ鵑筌轡礇鵐僖鵑函△舛腓辰箸靴燭弔泙澆里茲Δ覆發里出てくる。その手間の掛け方は人それぞれ、状況次第なのだが、クラッカーとか、切り刻んだ生のニンジンを調味料につける、というくらいの簡単なものもある。これで20〜30分は時間を取る。これは仲間が集まってくるのを待つ時間でもある。 
 
⊆,頬楹陛な飯になり、前菜が出てくる。スープだったり、生野菜だったり、様々。ここでもワインやビールを飲みながら話し続ける。 
 
メインディッシュが出てくる。魚料理のこともあれば肉料理のこともある。ポトフのような鍋料理のこともある。穀類はライスだったり、フランスパンだったり、パスタだったりする。 
 
な△満たされてきたところでチーズか、甘い菓子が出てくる。チーズも何種類か必ずある。最低でも2種類から選択することになる。最後に紅茶か、コーヒーが出てくる。 
 
  この流れはレストランのコースでもほぼ同じなのではないだろうか。こうしてみると、最初のものを含めるかどうかにもよるのだが、3つから4つの順番が構造化されているため、そこで仮に20分ずつ時間をかければ80分、30分ずつかけると2時間となるである。そしてフランスの飯のうまさはこの友人たちとのゆったりとした流れの中にあると言っても過言ではないのである。黙々と食うだけの孤食だとこの間が保てないのではなかろうか。仲間がいても家族がいても、何も語らず黙々と胃に栄養を流し込むだけなら<孤食>の集合体であると考えておこう。ここで注意したいのは<フランスの食事>におけるワインの値段や食材の質や料理の腕は人それぞれ、と言う事なのである。それよりも、こうした手順自体に大きな意味があるように感じられるのだ。 
 
  だから僕は前で紹介した話を聞いて、それが即物的な話だと思ったのである。もちろん、ファーストフード店と家庭のコース料理を比較するのは無理がある、と言われればそうだと思う。しかし、フランス人の中には常に飯に時間をかけようとする傾向があるように思えるのだ。コースの定石もそのために構造化された生活上の仕組みのように見えるのである。それは<一度に全部を出さない>ということなのである。 
 
  こうしたフランス人を否定的に見る人もいる。「フランス人は飲んで、食べて、無駄話をすることしか能がないよ」憤慨を込めてこう語ったのはインド洋に浮かぶ島からパリに移り住んだ商人である。近年のフランス政治の低迷ぶりに怒っているのである。 


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