2014年03月04日19時07分掲載  無料記事
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労働問題

日本政府はILO87号&98号条約に違反するな! 〜全厚生闘争団が旧社保庁職員分限免職問題でILO結社の自由委員会へ提訴〜  坂本正義

 第一次世界大戦終了から約2ヶ月後の1919(大正8)年1月、パリ講和会議が開催され、そこで国際連盟(国際連合の前身)とともにILO(国際労働機関)が設立された・・・と、ここまでは学生時代に歴史の授業で習った記憶があるけれども、ILOそのものについて習った記憶は無い。そもそも学校で労働問題を勉強する機会が無かったから、社会人になるころにはILOという単語さえすっかり忘れ去っていた。もしかすると、ここで労働問題について書く機会が無かったら、ILOについて勉強する機会など無いままだったかもしれない。 
 
 初めて読んだときに「随分昔にこんな素晴らしいことを考え出した人がいたんだなぁ」と感動したILO憲章と、1944(昭和19)年5月に開催されたILO第26回大会で採択されたフィラデルフィア宣言(国際労働機関の目的に関する宣言)を一部だけ紹介したい。 
 今を生きる者からすれば、当たり前のことを謳っているのかもしれないが、日本がアジア・太平洋地域で戦争に明け暮れていた時代に、海外で既にこのような立派な宣言が唱えられていたことを思うと、その先進性に感動を覚えずにはいられなかった。 
 
【ILO憲章・前文】 
世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる。そして、世界の平和及び協調が危くされるほど大きな社会不安を起こすような不正、困苦及び窮乏を多数の人民にもたらす労働条件が存在し、且つ、これらの労働条件を、・・・(中略)・・・改善することが急務であり、また、いずれかの国が人道的な労働条件を採用しないことは、自国における労働条件の改善を希望する他の国の障害となるから、締約国は、正義及び人道の感情と世界の恒久平和を確保する希望とに促されて、且つ、この前文に掲げた目的を達成するために、次の国際労働機関憲章に同意する。 
 
【フィラデルフィア宣言(ILOの目的に関する宣言)】 
総会は、この機関の基礎となっている根本原則、特に次のことを再確認する。 
(A)労働は商品ではない。 
(B)表現及び結社の自由は不断の進歩のために欠くことができない。 
(C)一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険である。 
(D)欠乏に対する戦は、各国内における不屈の勇気をもって、且つ労働者及び使用者の代表者が政府の代表者と同等の地位において、一般の福祉を増進するために自由な討議及び民主的な決定にともに参加する継続的且つ協調的な国際的努力によって、遂行することを要する。 
 
 さらにILOは、1998(平成10)年の第86回総会において、経済のグローバル化に対応する形で「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」(新宣言)を採択し、次の8条約をILO加盟国が最低限遵守すべき「中核的労働基準」に指定している。 
 峽觴劼亮由」関係 
・87号条約(結社の自由及び団結権の保護に関する条約) 
・98号条約(団結権及び団体交渉権についての原則の適用に関する条約) 
◆峩制労働」関係 
・29号条約(強制労働に関する条約) 
・105号条約(強制労働の廃止に関する条約) 
「児童労働」関係 
・138号条約(就業の最低年齢に関する条約) 
・182号条約(最悪の形態の児童労働の禁止及び廃絶のための即時行動に関する条約) 
ぁ峺柩僉職業における差別」関係 
・100号条約(同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約) 
・111号条約(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約) 
 
 なお、ILOへの分担金が約13%(2012年)と加盟国中第2位に位置する日本は、105号と111号の2つの条約に未批准のままである。 
 
<全厚生社保庁不当解雇撤回闘争団によるILO提訴> 
 
 2009年12月末に社会保険庁が廃止されたのを機に分限免職処分(民間の整理解雇に相当)を受けた元職員525人のうち、71人(うち全厚生組合員39人)からの不服申立てを受けた人事院は、2013年3月以降、順次判定を出し、その結果35%に当たる25人(うち全厚生組合員10人)について「処分は妥当でない」として分限免職処分の取消しを命じた。 
 そして現在、全厚生組合員28人が、それぞれ札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、高松の各地裁において、分限免職処分の取消しや国家賠償を求めて裁判闘争に臨んでいる。 
 なお、第一審の判決は、早くて今年の秋ころに札幌地裁で出るのではないかと見る向きもある。 
 
 裁判闘争のほか、国公労連(日本国家公務員労働組合連合会)と全厚生労組の代表各2名は昨年11月、スイス・ジュネーブのILO本部を訪問し、団結権・団体交渉権の侵害に関する問題を専門的に扱うILO結社の自由委員会に対し、「日本政府による社保庁職員に対する分限免職処分はILO87号及び98号条約に違反している」と訴えて日本政府への是正勧告を要請した。 
 要請団が提出したガイライダーILO事務局長宛ての申立書では、次のように訴えている。 
 )楫鑛限免職処分は、政府が社会保険庁職員で構成される労働組合を公然と敵視し、団結権を侵害する行為を繰り返す中で強行されたものである。すなわち、本件分限免職処分は、ILO87号条約第2条(※1)に違反する。 
◆〜塙膤萋阿鰺由とする懲戒処分歴のある職員は、組合活動を行ったことを理由として分限免職処分を受けるという不利益取扱いを受けた。また、懲戒処分歴のある職員の中には、年金記録の目的外閲覧を理由とする懲戒処分を受けた者が多数存在する。政府が懲戒処分歴のある職員を年金機構から一律に排除したのは、労働組合が大臣や議員の年金保険料の未納記録を野党に提供したためであると決め付け、逆恨みしたことが原因である。  したがって、目的外閲覧を理由とする処分歴のある職員もまた労働組合活動を理由として不利益な取扱いを受けたものということができる。この点で、本件分限免職処分は、ILO98号条約第1条第2項(※2)に違反する。 
(※1)87号条約2条 
 労働者及び使用者は、事前の許可を受けることなしに、自ら選択する団体を設立し、及びその団体の規約に従うことのみを条件としてこれに加入する権利をいかなる差別もなしに有する。 
(※2)98号条約1条 
1 労働者は、雇用に関する反組合的な差別待遇に対して充分な保護を受ける。 
2 前記の保護は、特に次のことを目的とする行為について適用する。 
(A)労働組合に加入せず、又は労働組合から脱退することを労働者の雇用条件とすること。 
(B)組合員であるという理由又は労働時間外に若しくは使用者の同意を得て労働時間内に組合活動に参加したという理由で労働者を解雇し、その他その者に対し不利益な取扱をすること。 
 
<ILO職員の反応> 
 
 全厚生闘争団を代表してILO結社の自由委員会に訴えた元全厚生労組京都支部長の川口博之さんは、政府・自民党の圧力により、それまで良好だった労使関係がおかしくなって労組役員への攻撃が行われた出したことや、時間内の組合活動を「無許可専従である」と突然指摘され、懲戒処分を受けた末に解雇されたことなどを報告したところ、応対したILO労働者活動局(主に労働組合活動を支援する部署)のアナ・ビヨンディ次長は、 
「川口さんの話は心を動かされる話でした。問題の本質は、結社の自由違反を犯している日本政府の姿勢に起因していることは明らかです」と語り、労働者活動局として強く日本政府に対応を求めていく旨回答するとともに、今後の運動の在り方について、次のようにアドバイスした。 
「社保庁職員解雇の問題は、労働組合敵視政策が重大であることですが、それにとどまらず、公的な社会保障システムを民営化していく流れの中に位置付けることが重要です。社会保障という公共財に対する攻撃である点で、幅広い運動が求められると理解しています」 
 
 また、結社の自由委員会のアルベルト・オデロ副部長は、 
「川口さんのケースは、団結権侵害の例として明確に結社の自由に違反していると思います」と述べ、川口さんや同僚の個別の活動歴や処分歴を記述した文書をできる限り早く追加的に提出するよう要請した。 
 
<今後の見通し> 
 
 ILO結社の自由委員会は今年1月、国公労連や全厚生労組に対し、「社保庁問題を『3051号案件』として審査する」と連絡してきたとのことである。 
 全厚生労組は今年1月末、オデロ副部長のアドバイスに基づき、社保庁問題に関する追加資料をILO結社の自由委員会に提出している。 
 ILO結社の自由委員会は今後、国公労連と全厚生労組の申立て内容に対する日本政府からの回答が届き次第、審査に入ることになるが、日本政府は回答書の提出を1年以上遅らせて提出するのが常だということなので、ILO結社の自由委員会が社保庁問題に関する勧告を出すのは、早くて来年3月のILO理事会直前に開催する会合(筆者注・ILO結社の自由委員会は、毎年3・6・11月の年3回開催されるILO理事会通常会合の直前に会合を開いている)ではないかと見られている。 
 ILO要請行動に同行した全労連関係者は、ILOが出すであろう勧告に対し、 
「私たちは、ILO結社の自由委員会が日本政府に対して『きちんと協議を尽くしなさい』とか、JR不採用問題の際に示された『解雇された労働者に対し、満足のいく解決策を示しなさい』という内容に近い形で勧告してくれる可能性は高いと見ています」と期待を寄せている。 
 問題は、日本政府が勧告を受けてどう動くかであるが、日本政府はILO勧告について、 
「国際労働基準には条約と勧告という2つの形式がある。条約は、労働条件等について一定の基準を定め、これを批准した国についてその実施義務が発生する文書であり、勧告は、一定の基準を目標として掲げている文書で、批准という行為を伴わず、法的拘束力は生じない」と述べ、強制力は無く、指針に過ぎないことを強調しており、社保庁問題で勧告が出ても、恐らく「聞き置く」という態度でスルーする可能性は否めない。 
 なお、ILOは、1994年の第81回総会で、ILO創設75周年、フィラデルフィア宣言50周年を記念して「1948年の結社の自由および団結権条約(87号)と1949年の団結権および団体交渉権条約(98号)に関する諸報告の一般調査」と題する報告を発表し、その中で結社の自由委員会の重要な役割を次のとおり謳っている。 
「加盟国は、ILO加盟によって、その憲章に含まれている根本原則、とくに結社の自由に関する原則を、この主題に関する条約を批准していない場合でさえも、尊重する義務を負っている」 
 日本政府には是非、ILO結社の自由委員会が社保庁問題で出すであろう勧告に対して、真摯な態度で臨んでほしいと思う。 


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