2014年03月05日16時48分掲載  無料記事
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国際

ウクライナ問題解決の鍵を握るドイツ

  今、国際的問題になっているウクライナの政変とロシア軍介入の可能性。米紙ニューヨークタイムズでは問題解決の鍵はドイツが握るかも・・・という示唆を掲載した。’Germany may hold solution for Ucraine crisis'と題する記事であり、この中でドイツとロシアの関係の深さを伝えている。それによると、ロシアの輸出先のトップ3は以下。2012年の統計では以下のようになる。 
 
1位 オランダ  768億ドル 
2位 中国    357億ドル 
3位 ドイツ   356億ドル 
 
  確かにドイツのウエイトは高い。(もっとも、それ以上に発見なのはオランダが首位であったことだ。) 
 
  ロシアの輸入先ベスト3では以下。 
 
1位 中国   518億ドル 
2位 ドイツ  383億ドル 
3位 日本   157億ドル 
 
  輸出入双方で総合すると確かにドイツはロシアと深いかかわりを持っていることがわかる。しかも、ロシアの天然ガスの最大の買い手はダントツでドイツだという。さらにドイツ側から見ると、ドイツが輸入している石油とガスの4分の3近くはロシア産だとされる。これはドイツにとってロシアとの関係に配慮しなくてはならない要因だろう。しかも、メルケル政権のドイツは福島原発事故以来、原子力発電から撤退を表明しているからだ。とはいえ、ロシア側の出方次第ではドイツの方針に変化もあるかもしれない、と示唆している。米国が開発したシェールガスやシェールオイルなどの掘削技術の進化により、エネルギー環境も変化しつつある。 
 
  ニューヨークタイムズの示唆はここまでだが、その他にも今、米ロ間のくびきになっている原因の1つ、元CIA職員エドワード・スノーデン氏の亡命事件がある。これについてドイツのメルケル首相は自身の携帯電話が長年盗聴されていたことでオバマ大統領に苦情を言ったばかり。ドイツはNATOの一国でありながらもロシアの立場を理解しやすい位置にある。 
 
  これまで筆者が目にした欧米紙の記事や分析ではいずれもウクライナが分裂することはよくないと述べている。以下は推測である。 
 
  欧州連合加盟国では今年5月欧州議員選挙を行うが、右派政党の伸長が見込まれている。というのは欧州の経済危機が深刻になっていて、先進諸国はこれ以上、経済難の国々への資金支援を負担したくないと思っているからだ。しかも、域内での人の移動の自由を認めるシェンゲン協定によって経済発展の遅れた欧州国から貧困な人々が働く場を求めて欧州連合内の先進国へ移動する現象が起きており、これについては各国の右派政党が厳しく批判しているところである。 
*参考:欧州連合各国の失業率一覧 〜際立つばらつき〜http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201402282008195 
  つまり、ウクライナを欧州連合入りさせる動きとは反対の思潮が欧州連合では力を持ってきていることである。だから、ウクライナを東西に分裂させて欧州連合入りさせる案やあるいはウクライナ全土を欧州連合入りさせる案は欧州連合から見るとハードルが高いのではあるまいか。リーマンショック前ならありえたかもしれないが、経済危機の今、新たな負担を欧州連合諸国は受け入れる力がないのではないか。それ以前にギリシアやスペインやポルトガルをどうするか、と言ったことで頭を悩ましているのだ。これらの国々は15%〜30%くらいの極めて高い失業率を抱えている。 
 
  欧州連合域内の格差問題は深刻化してきている。先進国・英国のキャメロン首相は欧州連合に留まるかどうか国民投票を行うと言って欧州連合の中核であるドイツとフランスを脅している。欧州連合のあり方を変えない限りは欧州連合を継続する利益はない、と言っているのだ。だから、今不和が目立ってきている欧州連合が今のままで火中の栗を拾うのかどうか。ウクライナに積みあがった債務を今の欧州連合が丸のみできるかどうか、ということである。さらにその背後にいる米国のオバマ政権に至っては自ら財政破綻の淵にある。 
 
  ところでオバマ政権時代に米国には大きな変化が生まれた。その波及は今後数十年もしくは100年続くと見られている。それは米国内でシェールガスとシェールオイルの巨大な埋蔵量が確認され実際に生産が増大していることだ。これによって米国はサウジアラビアを抜いて世界最大の資源大国になると見られている。サウジアメリカと呼ばれるようになっているが、冷やかしでもなんでもない。アメリカのエネルギー関係者と話をすると、米国は他国のエネルギーから独立するのだ、という思いが強いことがわかる。これまでアフガニスタンやイラクなど中東地域に米軍を派兵して米国民の血を流してきたのはそこに石油やガスがあったからだ。しかし、米国内に潤沢な埋蔵量があり、石油輸出国になろうとしている今、中東はおろか、わざわざロシアのお膝元、ウクライナに派兵して超大国間の戦争のリスクを負う覚悟があるだろうか。「金持ち喧嘩せず」ということわざがある。すでに米国発エネルギー革命が世界政治に影響を及ぼし始めているのだ。シリア戦争への逡巡も、米国自身がこの2〜3年の間に急速にエネルギー大国化したため、(イスラエルとの関係を度外視すると)米国にとっての中東の地政学的重要性が大幅に低下している事情が背後に潜んでいるのではないか。このことは将来、中南米の大産油国ベネズエラの政治にも関係してくるだろう。 
 
  こういった事情からウクライナを一国のまま分裂させず、欧州連合とロシアの間でうまく力の均衡を保って、経済危機を軟着陸させる方向が望ましいと考える人が少なくないようだ。 
 
 
■ウクライナの債務 
 
  日経新聞によるとウクライナは対外債務が国内総生産(GDP)の約80%に相当する1400億ドル(2013年末現在、約14兆円)に達したと発表した。約150億ドルまで減少した外貨準備高の10倍近い額だという。 
 
■ウクライナの経済危機 〜「マネードクター」のS.ハンケ教授は Currency Board 制を即導入せよと示唆〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201402280615515 
■欧州連合 〜英国と独仏の確執〜2013年のキャメロン首相の国民投票宣言の波紋〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201401030842295 
 
■ウクライナ事情(外務省のウェブを参照した) 
 
 面積は日本の約1.6倍。人口4543万人。ウクライナ人が77.8%、ロシア人が17.3%。議会は一院制で定数450人。為替レートは1米ドル=7.99フリヴニャ(2013年1月22日現在:ウクライナ中央銀行) 


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