2014年04月02日19時51分掲載  無料記事
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検証・メディア

17年ぶりの消費増税と新聞社説 批判の視点を失わない東京新聞 安原和雄

 17年ぶりの消費増税である。これを大手紙社説はどう受け止めているのか。残念ながら増税容認の姿勢が多数である。明確な批判の姿勢を堅持しているのは東京新聞のみである。讀賣と日経は以前から国家権力の側に身を寄せてきたので、いまさら驚かないが、わが目を疑うほかないのは、朝日の変質ぶりである。かつての批判精神はどこへ消え失せたのか。残念というほかない。 
 安倍政権の対米従属と軍事力増強、つまり右傾化路線を支えるのが増税にほかならない。だから日本の今後の針路を左右するのは増税を容認するかどうかにかかっている。財政難という国家権力側の言い訳に誤魔化されないようにしたい。 
 
 社説掲載日は2014年3月末から4月初めまでで、一様ではない。掲載日順に社説の見出しを以下、紹介する。 
*毎日新聞(3月30日)=消費税8%へ 増税の原点、再確認せよ 
*讀賣新聞(3月31日)=あす消費税8% 社会保障安定への大きな一歩 
*日経新聞(同上)=17年ぶり消費増税、転嫁着実に乗り切れ 
*朝日新聞(4月1日)=17年ぶり消費増税 改革の原点に立ち返れ 
*東京新聞(同上)=国民の痛みに心を砕け きょうから消費税8% 
 
 以下では東京新聞の社説(大意)を 紹介し、私(安原)の感想を述べる。。 
 
 消費税率が8%に引き上げられた。物価が上昇する中、社会保険料などの負担増も相次ぐ。景気対策ばかりでなく、弱者対策にもっと目配りすべきだ。 
 目いっぱい詰まったレジ袋を三つ四つ抱えるお年寄りも目についた。高額の家電製品やブランド品ばかりでなく、こうした十円単位の節約につなげる生活品のまとめ買いは、十七年ぶりの消費税引き上げに身構え、わずかでも生活防衛をとの切実な思いが伝わってくる。 
 
◆本格的な負担増時代 
 消費税率3%の引き上げで国民負担は約八兆円増える。これまでの税制改正は増税と減税をセットで行い、痛みを和らげるのが基本であった。しかし、今回は所得税などの減税はなく、増税のみだ。 
 それだけではない。厚生年金の保険料率は毎年上昇し、国民年金の保険料も上がる。復興増税として十年間、住民税に年一千円の上乗せも始まる。一方で、公的年金の支給額が0・7%引き下げられる。円安で広く物価が上がってきたところに追い打ちをかける負担増の数々である。 
 
 消費税は所得が低い人ほど負担が重くなる逆進性が特に問題だ。みずほ総合研究所の試算で、年収三百万円未満世帯は今回の増税で年間の消費税負担は約五万七千五百円増え約十五万三千円となる。 
 収入に対する負担率は6・5%に上昇、年収六百万〜七百万円未満世帯の3・9%、年収一千万円以上世帯の2・7%を大きく上回る。負担率の格差は、税率が上がるほど拡大する。 
 低所得者の増税負担を和らげるため、住民税がかからない人に現金一万〜一万五千円を配るが、この程度の給付一度きりでは「焼け石に水」である。 
 
◆でたらめの景気対策 
 政府の対応を見るかぎり、重視するのは弱者への配慮よりも、もっぱら景気の先行きであり、いかに消費税率10%へ再増税する環境をつくるかだと思ってしまう。 
 
 政府は、増税前の駆け込み需要の反動減で景気の落ち込みは避けられないとして、二〇一三年度補正予算で五・五兆円もの景気対策を決めた。いわば「増税のために巨額の財政出動をする」という泥縄対応の愚かさもさることながら、許せないのはその中身である。政府の行政改革推進会議が一四年度当初予算の概算要求から「無駄」と判定した事業の多くを補正予算で復活させていた。 
 
 こんなでたらめな予算の使い方をするのは、消費税収で財源に余裕が生まれると判断したためだ。これでは何のための増税かというのが国民の率直な思いであろう。 
 
 そもそもが大義のない増税であった。天下りするシロアリ官僚の排除や国会議員の定数大幅削減など国民に増税を強いる前提だった「身を切る」約束も実行していない。増税の目的であった社会保障制度改革は、所得など負担能力に応じて給付削減といった抜本的見直しが必要なのは明らかなのに議論の先行きは不透明なままだ。 
 
 「先に増税ありき」の財務省の論理にのるから次々と齟齬(そご)を来す。今また、来年十月に消費税率を10%に引き上げる「次なる増税」を確かなものにしようと財務省は躍起である。 
 
 前回一九九七年の3%から5%への引き上げでは、景気が大失速し、今に続く「十五年デフレ」のきっかけとなった。 
 景気の腰折れを防ぎ、デフレ脱却を急ぐことに異論はないが、増税でかえって財政規律が緩む現政権の経済政策をみせられると、景気対策の名の下に公共事業の大盤振る舞いや政官業癒着で予算を食いものにする「何でもあり」がまかり通りそうだ。これは納税者への裏切り行為以外の何ものでもない。 
 
 アベノミクスは勢いを失いつつあり、景気の失速懸念が強まると日銀の追加金融緩和が予想される。その時、財政規律に疑念が生じれば、意図せぬ金利上昇を招きかねないし、無理に増税を断行すれば、消費不況から景気腰折れ、デフレ悪化のリスクに直面する。でたらめの財政運営が許される状況ではない。 
 
◆10%の判断は慎重に 
 安倍政権は企業活動を活性化させることで経済成長を目指すが、格差や貧困などへの目配りがなさすぎる。消費税増税の対応には、それが如実に表れている。 
 10%への引き上げは慎重にすべきだ。今回の増税後の経済情勢を踏まえ、時期や税率の引き上げ幅、低所得者や年金生活者への配慮を十分に検討する。GDP(国内総生産)の数値だけでなく、声なき声に耳を傾け、国民の痛みに心を砕いてほしい。 
 
<安原の感想>朝日新聞と対照的な東京新聞の批判的姿勢 
 「きょうから消費税8% 国民の痛みに心を砕け」という東京新聞社説の見出しは分かりやすい。民衆に寄り添い、国家権力を批判するのが本来のジャーナリズム精神であるだろう。東京新聞社説はそういう批判的視点を見失っていない。これと対照的なのが朝日新聞社説とはいえないか。国民は苦難に耐えなければならない、と言いたいらしい。「忍耐と我慢」を強いるお説教である。 
 
 朝日社説はつぎのように指摘している。 
・消費税率が、5%から8%に引き上げられた。国民にとっては、つらい負担増である。だが、借金漬けの日本の現状を考えればやむを得ない選択だ。 
・先進国の中で最悪の水準に落ち込んだわが国の財政難を考えれば、増税と予算改革を同時並行で進めるしか道はない。 
・膨れあがった予算を抜本的に見直し、削減につなげる。それが消費税率を10%に上げる前提である。 
 
 ほんのちょっぴり政府への批判的視点をのぞかせながら、要するに増税やむなし、を説いている。以前の朝日社説は批判的姿勢を失っていなかったように想うが、国家権力への批判精神を衰微させる新聞メディアに未来はない。朝日新聞に限らない。マスメディアにとって深刻な試練の時である。 
 
*「安原和雄の仏教経済塾」からの転載です 
http://baseball.yahoo.co.jp/npb/ 


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