2014年04月04日17時26分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201404041726265

検証・メディア

欧州メディアと国家機密をめぐる報道 −日本の秘密保護法成立によせて(上)

 昨年12月6日、安全保障に関する機密情報を漏洩した人への罰則を強化する特定秘密保護法が参院で可決され、成立した。野党側が審議の延長を求め、国会の外では法案に反対する多くの人が抗議デモに参加する中の可決となった。 
 
 年は変わったが、秘密保護法についての議論が一部の国民の間では続いているようだ。 
 
ー成立してしまった・・・ 
 
 私自身がもっとも衝撃を受けたのは、実際にこの法律が成立してしまったことだ。というのは、反対論がかなり強かったように認識しているからだ。 
 
 国民の大部分が関心を持っているような話題ではなかったかもしれないし、そういう意味では反対の声を上げた人は数的に言えば少なかったかもしれない。 
 
 しかし、抗議デモも含め、強い反対論が知識陣の間に出ている中での成立には割り切れないものを感じた。「今回は見送る」という選択肢はなかったのか。 
 
 それと、成立したこと以上に衝撃だったのは、最後の参院での投票の場面をどの大手テレビ局も生中継しなかったことだ。後で、ニコニコ動画でやっていた、衛星放送ではやっていたと聞いたのだけれども、普通の主要チャンネルで放送できなかったのだろうか? 
 
 私は、そのとき、東京にいた。家に衛星テレビはない。チャンネルを回して生中継がないと分かったとき、私はネットで見ようと思った。しかし、このとき、日本にはBBCテレビの24時間ニュース(放送局がネットで生放送、ネットにつながってさえいれば、視聴可能)に相当するものがないことに気づいた。突如、目隠しをされた感じがした。なんだか、絶句の思いだった。 
 
 前に、「アラブの春」を日本のテレビが生では中継せず、「情報が出ない」とネット上で不満を言っている発言をツイッターなどで見た。そのときはなぜそんなことに文句を言っているのか、ぴんとこなかった。 
 
 しかし、あの参院可決の日、生情報を同時に見れないことに気づいたとき、愕然とした。ああ、こういうことだったのかと初めて合点がいった。 
 
 ツイッターで聞いてみると、ヤフーがネットで生中継(投票の様子を映し出す)しているという。早速ヤフーのサイトに行き、見ることができた。 
 
 後から考えると、国会自身による生中継もあったかもしれないので、道はあったわけだけれども、「情報から遮断された」という思いは消えなかった。 
 
 それにしても、なぜ地上派大手チャンネルは可決の場面を生で放映しなかったのだろう?報道番組を作っている人が、自分自身で知りたいとは思わなかっただろうか。自分で知りたかったら、視聴者も知りたいだろうとは思わなかったのだろうか?自分が知りたいと思うかどうかが鍵を握る。 
 
 記者はツイッターでは「生中継」したのだろうか? 
 
 結局のところ、日本は「定時ニュースの国」なのだろうなあと思った。それでは遅すぎるのではないだろうかー?「定時」ではだめだろう・・・。・・そうか、だからヤフーニュースをみんなが見ているのだなあとも実感した。 
 
 特定秘密保護法、欧米の状況、国家機密と報道などについて、「新聞研究」(日本新聞協会の月刊誌)1月号、「メディア展望」(新聞通信調査会発行)1月号などに書き、マスコミ倫理懇談会全国協議会でこのテーマで昨年、話す機会があった。以下は複数の原稿とトークでの話をまとめたものである。 
 
ー欧州メディアの報道振り 
 
 欧州数紙は、言論の自由を脅かす動きとして秘密法の可決及び可決前夜を報じた。 
 
 見出しを拾ってみると、「日本の内部告発者たちが国家秘密法案によって取り締まりに直面」(英ガーディアン紙、昨年12月5日)、「国家の機密の流布:内部告発の口を封じる、賛否両論の法律を日本が決定」(独シュピーゲル誌、同日6日)、同月6日、「日本が報道の自由を制限:メディアは福島の原発事故を報道し続けられるだろうか」(独フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング紙、同日)、「日本の秘密保護法案がノーベル賞受賞者らに批判される」(仏AFP通信、7日)など。 
 
 それぞれの報道は法案が提出された理由(安倍首相が改憲を含む日本の国防体制の変更を視野に入れている、米国からの要請あるいは圧力、国家の機密保護に特定し法律がなかったなど)を説明し、法案の問題点として「秘密の定義があいまい=際限なく拡大解釈される可能性がある」、「秘密指定に第3者が入らないことで透欠く」、「必要な情報が公開されない傾向がますます強くなる」など、日本のメディアが指摘してきた点を挙げている。 
 
 ガーディアン紙は先の記事の中で、言論の自由の擁護を目的とする非営利組織「国境なき記者団」(本部パリ)の声明文から、法の実施により日本では「調査報道が違法になる」という部分を引用している。 
 
ー「弱々しい」メディア? 
 
 複数の欧州メディアの記事の中で何度か繰り返されたのが、「飼いならされた」あるいは「弱々しい」日本の組織メディア、という表現だ。 
 
 例えば、先のAFP通信の記事で、こういう個所がある。「政府は2011年、福島で発生した原発事故の重大さについてのニュースの公表を控えた。現在でも国家は大部分に置いて閉じられたドアの後ろで動いている」、「問題なのは、こうした状況が比較的弱い新聞組織によって悪化しているという点だ」。 
 
 英ニュース週刊誌「エコノミスト」のアジア部門のエディター、ドミニク・ジーグラー氏も同様のニュアンスで日本の大手メディアを論評していた。同氏は東京と北京での勤務経験がある。 
 
 2年半前の福島の原発事故発生後、間もなくしてジーグラー氏に取材し、日本のメディアをどう評価するかと聞たところ、「あまりにも政治エスタブリッシュメント(政治家や周囲にいる人々を指す)に対して、慇懃・丁寧すぎる」という。 
 
 大手報道機関が政治エスタブリッシュメントに「礼儀正しい態度をとる事で、本当の問題を国民のために報道しない」という。「これは日本のメディアの大きな弱点だ」。 
 
 特定秘密保護法は報道機関にとって仕事がしにくくなる法律と筆者は考えるが、法律を守る、つまりは「礼儀正しく」あることを最重要視した結果、大事な事柄を報道する努力を停止させることはないだろうか。 
 
ー欧州諸国の秘密守秘状況 
 
 国家機密の設定や情報公開について欧州各国の状況をざっと見てみる。 
 
 英国(正確には人口の5分の4が住むイングランド・ウェールズ地方での話だが、そのほかの地域の司法権もこれに概ね準じる)では、これまで数回に渡り改正が行われてきた公務秘密法によって国家の機密が保護されている。 
 
 国家の安全や国益に損害を生じさせるスパイ行為(進入禁止地域に足を踏み入れる、国家の敵に役立つ機密情報を記録する、敵に渡すなど)を行った人物には、最長で14年間の禁固刑が下る。 
 
 1990年施行の公務秘密法の下では、公務員として勤務する人物が「安全保障と諜報」、「防衛」、「国際関係」、「犯罪者に有益な情報」、「通信傍受・電話盗聴」、「他国に秘密裏に提供された情報」の6つに該当する情報を漏らした場合、刑法違反となり、最長で2年の禁固刑および(あるいは)無制限の罰金を科される可能性がある。 
 
 公務員ではない個人、あるいは報道機関が公務員から機密情報を受け取り、これを公開することも同法の侵害となる。 
 
 秘密文書であっても、一定期間の経過後には歴史的記録となることから、文書の発生の翌年から20年経過後に開示するようになっている。ただし、安全保障を担当する機関が提供した情報や国家の安全保障に関わる情報については例外として個別に公開年限を定めることがある。 
 
 ドイツでは国家機密を他国に漏えいした場合、刑法によって反逆罪となり一年以下の禁固刑か、特に重大な案件の場合は終身あるいは5年以下の禁固刑が科されることがある。国家機密を非認可の人物や国民一般に漏えい(英語版では「disclosure」)した場合、特に重大な場合は10年以内の禁固刑の対象となり得る(95条)。一方、97条による機密情報の「暴露」(revelation))では5年以内の禁固刑か罰金を科せられる可能性がある。 
 
 独連邦公文書館法の下、国民は作成から30年経過したすべての公的記録資料(機密資料はのぞく)にアクセスする権利を持つ。 
 
 フランスでは国家機密を刑法第413-9条で規定している。 
 
 公文書には自由閲覧原則が採用されているが、内容によって閲覧制限がつく。国防の秘密、外交上の国家の基本的利益、国家の安全保障、公的安全、個人の安全または私的生活の保護を侵害する文書は50年間の閲覧制限の対象となる。 
 
 ちなみに、1917年にスパイ防止法を制定した米国では、機密の指定範囲と期間を大統領命令13526号で定めている。現在、機密として指定されているのは軍事計画、外国の政府に関する情報、外交活動、諜報活動、大量破壊兵器の開発など8つの分野だ。機密情報は25年を過ぎると、自動的な指定解除の対象となる(例外もある)。(続く・次回は具体例) 
 
*** 
 
参考資料:「諸外国における国家秘密の指定と解除―特定秘密保護法案をめぐって 調査と情報―ISSUE BRIEF-NUMBER 806(2013.10.13) 国立国会図書館調査及び立法考査局行政法務課 今岡直子氏著」 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。