2014年08月09日13時27分掲載  無料記事
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反戦・平和

【編集長インタビュー 集団的自衛権を考える】 暴走する“時代錯誤”(2) 太平洋国家アメリカのジレンマ 前田哲男

 軍事ジャーナリスト前田哲男さんへのインタビューの第2回。前回は安全保障という考え方を第1次世界大戦までさかのぼって解明。その教訓の上に第2次大戦後の世界が築いてきた平和のための安全保障と比べ、安倍安全保障観がいかに時代錯誤に満ちたものかを語ってもらった。今回は、現代欧米やアジア、そして沖縄の現実を踏まえて、安倍安全保障がいかに異質かを見ていく。(聞き手・構成 大野和興) 
 
◆リンクする市場と戦場 
 
―集団的自衛権と表裏一体の関係にあるのが武器輸出三原則の緩和だともいえますが、いまアジアは中国の台頭もあって、巨大は武器市場にもなっていますね。その市場を取り込もうという意図が今回の集団的自衛権行使容認の経済的側面としてあるのではないかという気がします。 
 
前田 アメリカは1960年代半ばまでは貿易額、投資額、人事往来をみても大西洋国家だったですね。60年代末から70年代には統計上明確に太平洋国家になりました。その太平洋をどう支配するか、資本主義国家アメリカの安全保障政策の根幹にあるのは、アジア市場を制覇せよということであるにちがいない。軍事力はその手足のなのです。14億とも15億ともいわれる中国、13億のインドを含めたアジアマーケットをいかにアメリカの永続的な商品の供給先、資本の投資先として確保しておくか、が大戦略であり、それに基づいて軍事戦略を含めた安全保障政策が立案される。TPPはその一つのツールですね。アメリカのスタンダードを、アメリカ・アジアスタンダードにしようというわけですね。そこで中国との確執が生まれる。 
 
 それは対立だけでは解決できない関係です。冷戦時代の米ソ関係と現在の米中関係はどう違うかというと、米ソには経済関係がなかった。資本の持ち合いもなかった。純粋に軍事、核戦略の対話でやっていける関係でした。米中はそうではないですね。資本交流があるし、貿易ではアメリカにとっては最大のお得意先であるし、アメリカの国債を一番もっているのも中国です。弾丸を一発も撃たなくてもウォール街を破滅させることが中国にはできる。アメリカはそれを回避しつつアジア太平洋市場を確保するという複雑な多元方程式を解かなければならない。それが東西冷戦時代と違うところです。 
 
 そこでもう一度目を日本に戻すと、安倍さんがいう「戦後レジームからの脱却」は、アメリカにとって大変目障りです。いま韓国のパク・クネ大統領が中国に近づきつつあるというのもアメリカにとって目障りでしょうし。アメリカは韓国と日本の手綱をうまくさばいて、大きなところで中国と交渉し、競争的協調を作らなければならない、それがアメリカの立場ですね。 
 
 90年代にマレーシアのマハティール大統領が東南アジア経済グループ(EAEG)、後に東南アジア経済協力(EAAC)を提唱し、日本を軸とした東南アジアと東アジアの共同体的構想を出したとき、それを阻止し、マハティールを失脚させたのはアメリカでした。ベーカー国務長官の時代です。アジア太平洋をアメリカのテリトリーにするというのは、アメリカにとって譲れない線なのですね。アメリカのアジア復帰−リバランスがそうですし、TPPがそうですね。 
 
ーそれは共和党も民主党も同じですか。 
 
前田 変わらないですね。ただ、双方の支持層の中におけるアメリカ資本主義社会での利害が分かれますから、政権が変わることで個別問題で利害の対立が表面化することはありますが、全体的な戦略はペリー以来変わらないとみてよい。党派による基本的な対立・矛盾はないですね。 
 
◆安保・基地・沖縄 
 
―7月1日の閣議決定で安倍内閣は集団的自衛権だけでなく沖縄・辺野古の新基地建設についても一つの決定をしました。 
 
前田 なぜ沖縄に、そして厚木や横須賀や三沢などに米軍基地があるのか。基地が日本に存在する理由はいうまでもなく日米安保条約とそれに基づく日米地位協定で、米国による基地の自由使用が認められているからですね。安保条約がなぜ基地を認めたか。これが今回の集団的自衛権行使容認と密接に絡み合ってきます。安保条約は個別的自衛権の法理に基づいて結ばれています。どういうことかというと、安保条約は日本国憲法九条のもとで結ばれた国際条約であり、憲法の枠内でなければならない。つまり九条で説明できるものでなければならない。安保条約第五条は条約区域を定めている条文ですが、ここでは「日本の施政のもとにある領域に対する武力攻撃に共同して対処する」としている。これは法理としては個別的自衛権です。これだとアメリカはただ働きで、日本は丸儲けという解釈も成り立ちます。それでは国際条約として均衡を欠くということで、第6条に基地の許与という条項が加えられ、「極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と書いた。極東におけるアメリカの国益のために日本国内にアメリカの基地を置くことを許したのです。そして沖縄を含めて在日米軍基地が形成された。五条での日本の丸儲けを六条でアメリカの丸儲けで返したわけです。 
 
 これを他の条約、例えばNATO、米韓、アメリカ・フィリピン相互防衛条約、オーストラリア・ニュージーランド・アメリカの三国条約と比較すればすぐにわかるのですが、これらの条約には基地の許与という条項はありません(ただ、朝鮮戦争がまだ休戦状態にあるので、米韓条約には「基地の配置」という条項がある)。以上の条約では、条約区域が「太平洋における共通に危険に対し共同して対処する」となっていて、集団的自衛権が最初から組み込まれているからです。だから韓国はベトナム戦争で派兵され、三個師団五〇〇〇人くらいが死にました。オーストラリアもニュージーランドもベトナム戦争、湾岸戦争に行き、戦死者を出しています。これに対して日本は憲法で集団的自衛権が行使できないということで米軍基地を許与したわけです。 
 
 とすれば今回の集団的自衛権行使容認に伴って六条はなくそうというのが筋道なのですね。そのことに対し、安倍さんは一言も触れようとしないばかりは、同じ日に辺野古への新基地建設を推進する決定を行った。これはまるででたらめなことです。一貫性、整合性がまったくない。 
 
 沖縄にはさらに別の問題もあります。六〇年安保が結ばれたとき、すなわち基地の許与が決定されたとき、沖縄はアメリカの軍政下にあって日本への参政権を認められていなかった。六〇年安保を批准した国会に沖縄県選出議員は一人も出ておらず、沖縄の意志はなんら顧みられることもなかったのです。そういう状態のなかで祖国復帰運動が盛り上がり、「核も基地もない沖縄」を掲げ、七二年の返還協定に結びつく原動力となります。しかし沖縄県民は深い挫折感を抱くことになります。名目上は核はなくなったとしても、結果は基地付き返還だった。憲法九条のもとへの復帰がスローガンでしたが、安保条約のもとへの復帰でしかなかったのですね。実際返還協定は第一条が沖縄の返還、第二条が安保条約の適用、第三条が基地の使用となっています。そういう復帰の仕方の上に、いままた新たな基地の建設が押し付けられている。あれほど基地の多い沖縄ですが、これまで基地の新設というのはなかったのです。そもそも日米安保に何の責任もない沖縄の人たちが基地を押し付けられてだけでなく、今また新設を強要されている。これは大変なことです。めちゃくちゃな話です。 
(つづく) 
 
季刊『変革のアソシエ』17号より転載 
 
まえだ・てつお 1938年生まれ。1938年福岡県生まれ。長崎放送記者だった1961〜71年に原子力潜水艦、原子力空母の佐世保寄港に立ち会う。退職後、フリージャーナリストとして在日米軍・自衛隊の現場を取材、「ビキニ核実験」による住民の低線量被害や日本軍の「重慶爆撃」の歴史的意義を発掘した。また、自衛隊改編をふくむ武力によらない安全保障構築について『日本防衛新論』(現代の理論社1982年)から『自衛隊のジレンマ』(現代書館2011年)まで追求してきた。95〜2005年、東京国際大学国際関係学部教授、2011年まで沖縄大学客員教授。著書に『戦略爆撃の思想』(凱風社)、『検証 PKOと自衛隊』『自衛隊 変容のゆくえ』『ハンドブック 集団的自衛権』『ブックレット 何のための秘密保全法か』(以上岩波書店)、『9条で政治を変える 平和基本法』『「従属」から「自立」へ 日米安保を変える』(以上高文研)、『〈沖縄〉基地問題を知る事典』、『Q&Aで読む日本軍事入門』(以上吉川弘文館)など。 


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