2014年08月16日05時18分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201408160518146

みる・よむ・きく

タラ・ハント著 「ツイッターノミクス」

  ツイッターをこの春始めてみた。もともと140字の短さに加えて、瞬時に膨大な声が飛び交うツイッターにはあまり乗り気ではなかった。冷静に論理を積み上げて議論する姿勢に乏しいと思えたからだ。しかし、その一方でツイッターを通して実際に興味深い情報に出会うことも増えた。そこでためしに自分もやってみることにしたわけだ。 
 
  やってみてわかったのはこれまで記事でしか触れることがなかった外国紙、外国誌の記者たちの顔がよく見えるようになったことだった。誰が何をカバーしていて、どんな顔と声を持ち、どこに行ったのかよくわかる。これはジャーナリズムに直接関わらない人にはどうでもいいことかもしれないが、関わる者にとっては面白いものだ。どの国のどの都市を旅しても、ジャーナリストが最後にバーで話し込むのはジャーナリストだ、という名言があるくらいだ。ツイッターには情報発信者とコンタクトが出来、対話も可能なのだ。かつては考えられなかった機能である。 
 
  しかし、その一方で、ツイッターのリツイートという機能を使っていると、いくらでも情報をリツイートできてしまう。つまり他人が発信した短い情報の真偽を確かめることもなく、ひとたび共感したらどんどん複写して広めていける。時にはこれがひどい中傷とか個人攻撃を伴うこともある。つまり、ツイッターには危険さもある。扇動とか、パニックの原因にもなりうる媒体だ。だから、ツイッターをどう使うかがとても重要だ。 
 
  タラ・ハント著「ツイッターノミクス」はツイッターの特徴を解説した本だ。著者はカナダ生まれで、ウェブを使ったマーケティングの第一人者だそうだ。彼女によると、ツイッターの特徴は究極のところ、「ウッフィー」なるものを増やすことにあると言う。 
 
  ウッフィーとはその人に対する人々の評価のようなものだという。だから、他人を支援したり、善行を行ったりするとウッフィーは増える。ウッフィーはソーシャルメディアが主流となった情報化社会においては金以上の力を持ちえる資本でもあると説く。何か行動を起こそうとしたとき、旧来の場合は資金力が問われたが、今後はウッフィーの力、つまりその人の人徳に由来する動員力の方が力を発揮しうると言うのだ。タラ・ハントはこのことを贈与経済を引き合いに出して説明する。ツイッターでよいことを発信した人にはウッフィーが蓄積される。つまり、その人の評価が高まり、社会に影響力を持てるようになる。お金がなくても、その意見によって行動を起こすことも可能となる。だから、彼女はどうすればウッフィーを増やせるかについても筆を進めている。 
 
  「ツイッターノミクス」を読むと、ツイッターの基本原理が高度経済成長期の営業とはまったく異なる価値観に立っていることがわかる。自分の製品をいかに売り込んで利益を最大化するか、こういう志向の人にはウッフィーはたまらない。人々からその動機を見透かされるからだ。自分の利益最大化ではなく、他人のために何かをする人は〜たとえ論説とか論評であれ〜ウッフィーがたまるのだという。しかし、自分のひとりよがりな主張ばかりしていると、ウッフィーは下がっていくという。ソーシャルメディアの世界では贈与経済の原理が主流であり、相手の声に耳を傾け、共感することが大切だという。 
 
  思い返してみると、インターネットが90年代の半ばに大衆の前に登場してから、ネットで一攫千金を夢見る人が多かった。ヒルズ族という言葉はその象徴である。ネットを使って巨万の富を築こう、という発想が多くの人にとっては不毛な夢であったことがその後、次第に明らかになっていった。むしろ、そういう金儲けとは違った、理想の社会の形を地道に目指す運動にネットを使おうという人々の方が増えてきた。ツイッターもその方向性の中にあるようだ。 
 
  しかし、実際には先述の通り、ツイッターの中には相当の罵声とか、恫喝といったものが入っているようだ。これはブログと同様である。試行錯誤の上で次第にそのルールとか、モラルが確立されるのを待つしかないだろう。 
 
 
■タラ・ハント著「ツイッターノミクス」(文藝春秋より、2010年に出版された) 
 
■タラ・ハント氏のホームページ 
http://tarahunt.com/ 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。