2014年08月17日12時29分掲載  無料記事
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反戦・平和

【編集長インタビュー 集団的自衛権を考える】 国際協力NGOの現場から(1) 地元社会の信頼こそが究極の安全対策 谷山博史

 安倍首相はなぜ集団的自衛権が必要なのかと問われ、大きな理由として在外邦人の安全確保をあげている。そのために自衛隊の海外出動が本当に必要なのか。かつては内乱のカンボジアで、エチオピアで、アフリカの難民キャンプで、そして今もパレスチナで、スーダンで、アフガニスタンで、イラクで人道支援に活動する国際協力NGO日本国際ボランティアセンター(JVC)の代表理事谷山博史さんに聞いた。谷山さんは「僕たちはそもそも自衛隊に守ってもらうなんてことは想定していません。武力に頼ることは逆にNGOスタッフも企業の社員も危険に陥れることになる」と語り、安倍政権の、日本人救出に武装した自衛隊員が活躍する“美し物語”を批判する。(聞き手 大野和興) 
 
 
◆美しい物語と戦争への道 
 
−日本国際ボランティアセンター(以下JVC)は二〇一四年6月一〇日に「集団的自衛権をめぐる協議」についての国際協力NGOとしての提言をだされました。 
 
谷山 JVCは長くアジア、アフリカ、中東の紛争地でさまざまの人道支援活動をしてきました。その経験から、いま安倍政権が進めている集団的自衛権の論議にとても危うさを覚えています。提言の内容については、JVCのホームページでご覧いただきたいのですが、閣議決定の前にあった与党協議やその後の国会の論議を聞いていても、余りにも紛争の現場を知らない、リアリティのなさに愕然とします。 
 こうした論議のまま今後法制化が進むとすれば、寒気がしますね。安倍首相は記者会見などで繰り返し、海外で汗を流して活動しているNGOの若者が危険に陥ったとき自衛隊は助けなくてよいのかといっていますが、そこにあるのは美しいストーリーにすぎない。テロリストが心優しいNGOの活動者を拘束して武器を突きつけて殺そうとしているときに自衛隊がさっそうと武器を持って乗り込んで救出するというストーリーを描いているのですね。 
 
−昔、アメリカの西部劇でネイティブの人たち(当時はインディアンといいました)の土地に入り込んで反撃にあい、危機に陥った白人開拓農民を騎兵隊がラッパを鳴らして駆けつけてインディアンを殺しまくって救出、観客は拍手喝さい、というのがありました。 
 
谷山 現実にそんなストーリーがあり得るのか。スーダンの例でいいますと、いまのスーダンと南スーダンに分かれる前からJVCはずっとスーダンで活動してきています。スーダンは二〇一一年、南スーダンは二〇一三年から一四年にかけて内戦・内乱で大混乱がありました。JVCの事務所が武装勢力に襲われ、駐在していた日本人の代表が銃を突きつけられてホールドダウン(床に伏せられ)されて、事務所が略奪されたことがあります。その時、最終的に助けてくれたのは白いランドクルーザーでやってきてくれた国連の非武装のメンバーでした。 
 当時のスーダンの状況を考えても、略奪しているのは誰かわからないです。これは南スーダンの例ですが、政府軍が大統領派と反対派に分かれて抗争し、反政府武装勢力がおり、住民による武装グループもあった。これらが入り乱れていた。住民なのか、反政府武装勢力なのか、政府系の民兵なのか、わからない状況のなかで日本の自衛隊が駆けつけ武力を行使するということは、場合によっては紛争の当事者になることでもあり、場合によっては相手国政府との関係が悪化することになる。たまたまこの事例はうまく解決しても、他の地域にいる日本人が狙われることになるかもしれない。だから現実に、PKOは住民なり外国人を救出することはしなかったのですね。実はそれをやった国もあったのです。隣国のウガンダです。スーダンにはウガンダ人が沢山いますので、自分の国も国民を守るということで軍隊を派遣したのいですが、本当のねらいは政府支援でした。反大統領派の住民がこれに反発してウガンダ人を襲撃するようになったのです。そのウガンダ人を誰が守ったかというと、非武装の国連です。国連の施設にかくまって、帰国させました。 
 
◆安全の基本は「地元社会に受け入れられること」 
 
谷山 僕たちはそもそも自衛隊に守ってもらうなんてことは想定していません。だから、自衛隊がいないところでも活動します。その分、安全対策にはかなりの気を使います。徹底した情報の収集をます。この情報収集でもっとも大事なのは地元社会からの情報です。そのためには地元に受け入れられているということが大切になります。そうでないと本当の話は聞けませんし、ガサネタをつかまされることになる。地元社会に受け入れられるために大事なことは、中立を守ることです。アフガニスタンの場合、住民の中にタリバンの側に立っている人もいますが、そういうことも飲み込んで中立の立場で接する。中立を守るというのは、軍と関係しないということです。 
 まとめますと、軍に対しては一線を画して中立を確保する、そして地元民に受け入れられて、情報収集を徹底して、危険な兆候があったら動かない、あるいは直ちに待避する。軍による警護で行動することはしない、万が一拘束されたり誘拐されたりした場合は交渉しかないです。地元の有力者を立てた交渉か、赤十字国際委員会(ICRC)など、タリバン側にも政府側にもパイプがあるところを通しての交渉になります。これが基本中の基本です。コンサル会社の社員だったイギリス人の女性がタリバンに拉致されたとき、アメリカ軍の特殊部隊を投入して救出しようとしたのですが、死んでしまいました。失敗の確率が極めて高いのです。 
 
ーアメリカの特殊部隊でさえそうなのですね。自衛隊習志野のレンジャー部隊ではおっかない。 
 
谷山 安倍首相は本当にレアなケースを針小棒大に語って、あたかも日本人を救出するために集団的自衛権の行使が必要だ、国連の集団安全保障措置の元で武力行使することが必要だといっている。論の立て方そのものが間違っています。人を惑わせるやりかたです。そのことにぼくたちは憤りを感じて声明を出したのです。声明では、自分たちが集団的自衛権容認のだしにされていることを批判しているだけでなく、戦争・紛争のリアリティを知らないところでされている議論が余りにも危険であり、かつひとたび武力を行使することによって、日本がこれまで築いてきた平和国家という信頼は一朝のうちに崩壊する、それは企業の事業活動もNGO人道支援活動も危険にさらされることになる、ということを述べました。 
(つづく) 
季刊『変革のアソシエ』17号から転載 
 
たにやま・ひろし 1958年東京生まれ。中央大学大学院法律研究科修士課程修了。在学中からJVCにボランティアとして参加。1986年からJVCのスタッフとして、タイ・カンボジア国境の難民キャンプに入り、その後タイ、ラオス、カンボジア、アフガニスタンなどで活動。2006年11月よりJVC代表。 


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