2014年09月23日12時15分掲載  無料記事
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反戦・平和

沖縄の米軍基地問題におけるNDの活動意義とは ~民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND)猿田佐世事務局長インタビュー~

 日本政府は8月17日、沖縄の米軍海兵隊普天間飛行場の代替施設を名護市辺野古区の沖合に建設するべく、沿岸部の埋め立てに向けた海底ボーリング調査に着手した。調査期限の11月30日までに地盤の強度や地質等を調べ、調査結果を踏まえて代替施設の設計図を作成。来秋以降、埋め立て工事に着手するという。 
 
<沖縄県内世論の状況> 
 
 この政府の動きに対する沖縄県内の状況であるが、沖縄県関係の野党国会議員、沖縄県議会野党4会派、平和団体などで構成する「みんなで行こう辺野古へ。止めよう新基地建設!8・23県民大行動」実行委員会は8月23日、新基地建設の中止を訴えるべく、沖縄の市民ら約3,600人を辺野古の米軍海兵隊キャンプ・シュワブゲート前に集めて抗議集会を実施。沖縄の2大紙(琉球新報、沖縄タイムス)もこの集会を大々的に取り上げた。実行委員会は2日後の8月25日に会議を開き、年内に万人規模の集会を開くことを決定している。 
 
 また、8月23日から2日間、琉球新報と沖縄テレビ放送は合同で県内電話世論調査を実施。その結果、「辺野古沖への移設作業を中止すべき」との回答が80。2%、海底ボーリング調査の開始に対する仲井真弘多沖縄県知事の対応について「昨年12月の埋め立て承認の判断を取り消し、埋め立て計画そのものを止めさせるべき」との回答が53.8%、普天間飛行場の県内移設に反対する意見の合計が79.7%に達したことを発表した。 
 
 さらに、新基地建設の是非が焦点になった9月7日の名護市議会議員選挙(定数27議席)では、新基地建設に反対する稲嶺進名護市長を支える与党が14議席(改選前15)、野党が11議席(改選前10)、基地移設には反対するもののそれ以外は稲嶺市長に是々非々の立場を取る公明党が2議席(改選前2)をそれぞれ獲得し、基地移設反対派が過半数を維持して勝利している。 
 
 自民党は、今年1月の名護市長選挙から、9月7日の沖縄県内統一地方選挙を経て、11月16日の沖縄県知事選挙までの一連の選挙を「沖縄1年戦争」と位置付け、県内に基地移設推進派の首長や議員を増やすべく党の総力を上げており、3選を目指す移設推進派の仲井真知事を強力に支援している訳だが、先のような沖縄県内世論の状況から、9月10日に那覇市議会の中で知事選への出馬を表明した元自民党の翁長雄志那覇市長(移設反対派)が当選するのではないかと見る向きは根強くある。 
 
 筆者も8月25日、沖縄の有識者・経済関係者・市民団体などがオスプレイの配備撤回と普天間飛行場の閉鎖・県内移設断念を求めて今年7月に結成した「沖縄『建白書』を実現し未来を拓く島ぐるみ会議」が主催する「辺野古バスツアー」に参加し、キャンプ・シュワブゲート前に座り込んで抗議を続ける市民に合流したが、党派を超えて翁長氏を支持する状況を目の当たりにして、沖縄県民の根強い反基地感情を肌で感じたばかりである。 
 
<新外交イニシアティブ(ND)猿田佐世事務局長インタビュー> 
 
 筆者が参加した辺野古バスツアーと同じ日の夜、那覇市内の沖縄アーバンリゾート・ナハにおいて、名護市が団体会員として加入する民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND/New Diplomacy Initiative)の設立1周年を祝う記念シンポジウムが開かれた。 
 
 NDは、ジャーナリストの鳥越俊太郎氏、東京大学教授の藤原帰一氏、法政大学教授の山口次郎氏、ジョージ・ワシントン大学教授のマイク・モチヅキ氏、元防衛庁官房長の柳澤協二氏の5人が理事を務め、事務局長の猿田佐世弁護士を中心に、次のような活動に取り組んでいる。 
 
①安全保障や外交問題に関する政策提言 
②各国の政府・議会・大学・シンクタンク・NGO・マスメディアなどへの直接的な働き掛け 
③海外情報の日本国内での発信 
④日本の情報を海外に発信 
 
 とりわけ、NDは沖縄の米軍基地問題に力を入れており、稲嶺名護市長が米国政府関係者らに辺野古への基地移設反対を訴えようと今年5月に訪米した際には、猿田事務局長が稲嶺市長の面談相手を選定するなどコーディネートを行ったほか、今年8月には沖縄県内に新たに拠点を設けて活動の強化を図っているところである。 
 
 沖縄でもNDの知名度は徐々に上がりつつあるようだが、ここからNDの紹介と応援の意味を込めて、稲嶺名護市長訪米後の5月末に行った猿田事務局長へのインタビュー結果をご紹介したい。 
 
----NDを設立するに至った経緯を教えてください。 
 
(猿田)理事の方々や私がそれぞれに問題意識を持っている中でNDは生まれました。私自身は留学生としてワシントンで生活する中で、日本国内にある幅広い声が米国に全然届いていないと痛感する日々を過ごしており、何かできないかと考えていました。 
 ワシントンの知日派の中でリベラルな立場のマイク・モチヅキさんも、「より幅の広い外交チャンネルが必要だ」とお考えでした。そこで、私が何かをやりたいと相談したときに、同様の意見をお持ちであったことから話に乗ってくださいました。ちなみにモチヅキさんは年に3回くらい来日しますので、その度に研究会やシンポジウムを行ったりして、いろいろと情報交換を行っています。 
 藤原帰一さんは、日米外交にはアメリカの共和党と日本の自民党の間のパイプだけが存在しており、アメリカの民主党や、また自民党以外の日本の声は互いに伝わっていないという認識を持っていらっしゃいました。 
 鳥越俊太郎さんや山口二郎さんは、集団的自衛権の議論や特定秘密保護法の成立に見られるように、アメリカの影響を受けて動く日本政治に対して「どうしてアメリカの言いなりにばかりなっているのだろう」という問題意識を持っていらっしゃいました。 
 柳澤協二さんもND発足後に私たちの理念に賛同して理事に加わってくださいました。 
 
----理事の方々には、それぞれ役割分担があるのでしょうか。 
 
(猿田)NDは、その時々で社会的,政治的に問題になっているテーマで講演会やシンポジウムを開催しています。例えば、軍事や安全保障の分野については柳澤さん、国内政治に近いところでは山口さんといった感じで講演をお願いすることがあります。また、理事の方々は有名な方ばかりなので、指名の形でNDに講演依頼が来ることもあり、その場合には指名された理事に行っていただいたりしています。研究会は学者の方を中心に開催しています。 
 
----事務局の体制はどうなっていますか。 
 
(猿田)私は事務局長ですが、対外的な役割を担うことも多いです。内部事務を担当する事務局があり、インターンも常時6人程度活躍してくれていますので、東京での事務局会議では10人弱集まります。事務局専用のメーリングリストを使って常に議論しており、メーリングリストには30人以上が登録しています。 
 その他、翻訳作業や会場受付などのボランティア、海外のインターンまで含めると、NDの活動に関わっているのは80人くらいになるかと思います。 
 
----猿田さんは、ワシントンでの活動を軸に沖縄問題に関わっておられますが、沖縄に関心を持っているアメリカ人は多いのですか。 
 
(猿田)沖縄に関心を持っているアメリカ人はごく少数です。沖縄どころか日本に興味がある人自体がそんなに多くありません。また、アニメやお寿司、カラオケといった日本の文化に興味はあっても、日本の政治状況に関心がある人は本当に限られます。 
 もっとも、日本研究者など「知日派」といわれる人々は興味を持っています。また、平和運動や環境運動など様々な運動に取り組んでいる団体の中で、沖縄にも興味・関心を持っている方々もおり、そういう方たちが集まってできた「ネットワーク フォー 沖縄」というネットワークもあります。これは、鳩山政権が発足したころに誕生したグループで、沖縄が抱えている諸問題に対して様々な観点からサポートを行っています。 
 
----稲嶺進名護市長が今年5月中旬に訪米しました。この訪米、また2年前の稲嶺市長の訪米も、猿田さんがコーディネートされています。猿田さんは稲嶺市長とどうやって知り合ったのですか。 
 
(猿田)私は、この5年間、ワシントン在住も経ながら、米議会でロビーイングを自ら行ったり、日本の国会議員の方々の訪米活動をお手伝いしたりしてきました。私が以前お手伝いした国会議員の方が、稲嶺市長に「訪米するなら猿田に頼んだら良いんじゃないか」と話をしてくださったようで、稲嶺市長から連絡をいただきました。 
 
----今回の稲嶺市長の訪米に当たっては、猿田さんとモチヅキ理事が、それぞれの人脈を駆使して面談相手を選定したのですか。 
 
(猿田)モチヅキ理事には、そういった事務作業では頼り過ぎないようにしています。もちろん肝心な時にはアドバイスを受けることもありますが、モチヅキ理事に「誰々とのミーティングを設定してくれ」と頼むようなことは今のところはありません。今回の名護市長の面談等のセッティングは、NDのスタッフやインターン、その他日米のたくさんの方のサポートを得ながら、私が中心となって行いました。 
 
----稲嶺市長は、今回の訪米で何人の方とお会いされたのですか。 
 
(猿田)合計で48件の日程を設定し、ラウンドテーブル(円卓会議)や講演会、ワークショップなども入れ、直接意見交換する機会を持ったのは250人以上にのぼります。稲嶺市長も大変だったかと思いますが、私も大変でした(笑)。これだけの日程を設定するには、訪米の1ヶ月半ほど前から、時差と闘いながら、日本の昼も夜も使って膨大な電話とメールをやり取りします。寝るのは米国が夕方を迎える頃、つまり日本の朝4時や5時という日々も多かったのです。 
 
----沖縄に関心を持っているアメリカ人がほとんどいないという状況の中で、稲嶺市長を誰に引き合わせるかを選択することは大変だったでしょうが、選択のポイントは何だったのでしょうか。 
 
(猿田)稲嶺市長ご本人のいろいろなご要望を受けつつ、稲嶺市長からの要望が無くても、私が「この人たちには会っておいた方が良いだろう」と判断した人にはお会いいただきました。 
 アメリカ人の99%は日本政治に興味がありません。残り1%のうち、特にワシントンにいる人で日本政治に興味を持っているのは誰かというと、国務省を始めとする政府とシンクタンクの方々です。また、議会も重要ですが、アメリカ議会の議員のほとんどは日本のことに関心を寄せていません。 
 なお、なぜ日米外交においてシンクタンクが重要か、という点については、雑誌「世界」2013年6月号をご覧ください。 
 この、日米関係に影響を与える米国の政府・シンクタンク・議会という3層に対し、どう面談を入れていくかを考えることになります。アメリカ政府では国務省に面談依頼をしました。 
 そして、シンクタンクの「知日派」とも呼ばれる日本専門家については、その影響力の大きさからして、右の立場から左の立場の人まである程度面談をする必要があるかと思います。 
 最後の米議員に関しては、上下両院合わせて500人ほどいる中で、在沖米軍基地問題に関係する外務・軍事等の委員会の委員に面談依頼を出す場合もありますし、今まで沖縄のことについて発言や質問をしたことのある人に依頼をしていくこともあります。 
 また、日本のことに興味が無いとしても、環境問題や女性の権利の問題について関心を有している議員にも当たります。 
 日本に興味が無い議員がほとんどであることを前提に、どうすれば彼らの興味・関心に引っかかるか、様々な情報をヒントにしながら探り、人間関係を作っていきます。 
 
----稲嶺市長の訪問先に「海洋哺乳動物審議会」(MMC)が入っているのは、そうした戦略の1つなのですね。 
 
(猿田)海洋哺乳動物審議会は、海洋哺乳動物の保護のために活動しており、海洋生物の保護を求めて勧告を出すことができるアメリカ政府の1機関です。ジュゴンの問題に関心を有しているため、稲嶺市長の話にシンパシーを持って熱心に話を聞き、詳細な質問をしていました。 
 
----稲嶺市長の問題意識に理解を示しそうな人たちだけを対象に面談をセッティングしたわけではなく、バランスを考慮したのですね。 
 
(猿田)メディアなどは、有名議員や地位の高い方々に会えるかどうかということばかりに注目します。それらの方々も重要なので、アプローチはしますが、私としては、最も重要なのは、例え知名度が無かったとしても仲間として動いてくれる人々、その中でも特に連邦議会の議員が重要だと考えています。 
 
----米軍普天間基地の辺野古移設問題について、アメリカ政府は「それは日本の国内問題であり、私たちは日本が決めたことを受け止めるだけだ」などと主張しているようです。稲嶺市長は今後、日本国内、特に本土での世論作りをどうするかが重要になってくると思うのですが、そのあたりの戦略はどうですか。 
 
(猿田)おっしゃるように、日本本土、特に東京への対策はとても重要です。多くの米知日派が「日本政府がしっかり主張さえできれば、アメリカ政府は従う」と述べています。しかし、日本政府はそれをしないので稲嶺市長が訪米せざるを得ないというのが現実の状態です。稲嶺市長は今後、今までよりもっと強力に政策を東京にも訴えていくでしょう。それが何よりも重要であり、NDもそれを支えていきたいと思います。 
 もっとも、ワシントンでアクションすることの何が良い点かというと、ワシントンで発表したり行動したりしたことの反響が日本に跳ね返ってくる「拡声器効果」があることです。今回の訪米の成果はいろいろありましたが、例えばメディアです。日本のほぼ全ての大メディアが囲み取材やインタビュー、講演会の取材などを訪米行程を通じて重要箇所でしてくださいましたし、沖縄の地元紙のみならずNHKも稲嶺市長が名護を出てから名護に戻るまでずっと同行取材をしてくれました。 
 また、海外メディアも、例えばニューヨーク・タイムズやAFP、ブルームバーグといった国際的な大メディアが、稲嶺市長の訪米やこの問題について、かなりのスペースを割いて掲載しました。アメリカの現地メディアだけでなく、韓国やイランなどの海外メディアも含め、計13件の個別取材を受けました。記者会見や講演会の取材も合わせれば相当なメディア露出です。そうした結果は、稲嶺市長が名護市で尽力されているだけでは、なかなか起こりえないことです。 
 「外圧に弱い日本」という事実を考えると、例えばアメリカの「知日派」に、アメリカ政府の公式見解とと異なる意見を言ってもらうことは、東京の姿勢を変えたり、動かしたりする上で凄く効果がありますし、その方が費用対効果、時間対効果の点でも絶対良いと考えています。 
 なお、私は沖縄問題に関して、いつもこのように「NDの活動意義、NDを利用していただくことの意義」を述べてきたのですが、先日沖縄で「いつも本土で沖縄問題を取り上げてくれてありがとう。本土の人に沖縄のことを思い出してもらうためにNDは本当に大きな仕事をしている」との言葉をいただきました。なるほど、と思いました。NDは常にシンポを開催したりネット発信したり、様々な方法で沖縄問題を取り上げています。この7月末には書籍(末尾参照)も出します。NDは東京が中心で沖縄には数人のスタッフしかいませんが、東京にいながら日本・沖縄とワシントンをつなごうとする活動の中で、東京を含む本土で沖縄の基地問題を取り上げることに、少しは役に立っているのかもしれないと思いました。 
 
----猿田さんは、フェイスブックの中で「沖縄の出先事務所をアメリカに構えたほうが良い」とコメントされていましたが、沖縄では真剣に検討されているのでしょうか。 
 
(猿田)沖縄県の中にそのような動きがあったこともあると聞いていますが、実際には実現していないのではないかと思います。本当にワシントンの姿勢を変えていきたいのであれば、沖縄から誰か1人でもワシントンに常駐させ、予算の仕組みや法案の審議の流れなどアメリカ政府・議会のことを理解しつつ、仲間になりそうな人たちとの人間関係を構築していき、沖縄の声をワシントンに常時伝えていくことが必要でしょう。 
 現在ワシントンにいる日本の方々で、沖縄の声を代弁しようとし、またそれが出来る方はまずいません。NDは沖縄の声を米国に直接伝え、またそれ以外にも、現在の外交において自らの声を運ぶことの出来ていない人々の声の窓口として、これからも直接国境を越えて声を伝える取り組みを進めていきたいと思います。 
 なお、NDは会員の皆さまに支えられて活動しています。是非皆さまには会員にご登録いただければ幸いです。 
(筆者注:「http://www.nd-initiative.org/about-nd/nd-onegai/」も参照されたい) 
 
【書籍のご案内】 
 
 新外交イニシアティブ編 「虚像の抑止力 沖縄・東京・ワシントン発 安保政策の新機軸」(旬報社) 
 
〔執筆者〕 
○ 柳澤協二(元内閣官房副長官補) 
○ マイク・モチヅキ(ジョージ・ワシントン大学教授) 
○ 半田滋(東京新聞論説兼編集委員) 
○ 屋良朝博(元・沖縄タイムス論説委員/フリージャーナリスト) 
○ 猿田佐世(ND事務局長/弁護士) 


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