2014年10月14日15時06分掲載  無料記事
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北朝鮮

“北朝鮮” 訪問で考えさせられたこと(1) 隣人/隣国の実情、思い、考え方を、まず知るために 池住義憲

 10月1〜7日、中国・北京経由で朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国)へ行ってきました。タイトルで括弧つきの「”北朝鮮”」と表記していますが、これには意味があります。従来、日本の政府・マスコミは、「朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)」と表記していました。しかし、拉致被害者支援法が成立・施行された2002年あたりから、「北朝鮮」のみの表記に変わっています。共和国の人たちは、この呼称を嫌っています。なぜか。 
 
 ”北朝鮮”は国名でなく、地域呼称だから、です。日本は共和国を「国」として認めず、朝鮮半島の北に位置する「一地域」を示す用語を国名として使っているからです。日本政府は、1965年の日韓条約で、「朝鮮半島に存在する唯一合法的な国家は大韓民国(韓国)である」としました。共和国を国家として承認していません。日朝平壌宣言以降も、です。 
 
 日朝平壌宣言は、2002年9月17日、小泉純一郎首相と金正日(キムジョンイル)総書記が平壌で署名したものです。国交のない両国首脳が平壌で直接会い、「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなる」、という共通の認識を確認しました。 
 
 また、戦後50年の節目である1995年に表明された村山首相談話の一部、すなわち、日本の過去の植民地支配によって朝鮮の人々に与えた多大な損害と苦痛に対する「痛切な反省」と「心からのお詫び」の気持ちも記されています。私は、この宣言を高く評価しています。 
 
 略称であっても、その国をどう呼ぶか、どう表記するかは大切です。国と国との話し合い(外交)、国交回復、国交正常化は、どのような国であっても国を国として認め合い、自国の考え方と違いがあっても尊重し合うことからのみ、始まるのです。国名呼称問題は、その第一歩、基本姿勢そのものだと思います。 
 
 現在、共和国と国交のある国は、国連加盟194ヵ国中、162ヵ国。世界の8割以上の国々が、共和国と韓国双方を国として承認する南北等距離外交政策をとっています。一方、韓国、日本、米国、フランス、イスラエルなど32ヵ国は共和国を国際法上、国家として承認をしていないので、国交を結んでいません。 
 
 日本は、どうするのでしょう。いや、どうすべきでしょうか。今回、私は初めて平壌を訪問して、日本政府は日朝平壌宣言の基本精神に立ち返り、適切な対応と外交努力を進めることが求められている、と痛感しました。 
 
■平壌(ピョンヤン)の人々のくらし 
 
 ”ようこそ、共和国へ! 共和国は、世界で唯一の社会主義国 
 です。資本主義国である米国や日本と同じ「人間の住む国」です” 
 
 これは、平壌空港到着直後、今回訪問の受け入れ担当となってくれた共和国「朝鮮対外文化連絡協会(対文協)」課長の桂成勲さんの第一声です。思わず、微笑みました。流暢な日本語もそうですが、共和国も「人間の住む国です」、の表現に。同時に、ハッとさせられました。これまで日本のマスコミ報道から私が得ていた情報から、共和国は”特別な国”、”特異な国”という印象、思い込みが私の心のどこかにもあったからです。 
 
 共和国の総人口は、24,051,218人(2008年10月国連人口基金)。そのうち首都平壌は、3,255,388 人。金日成(キムイルスン)生誕百周年の2012年から「強盛大国の大門を開く」というスローガンを掲げ、人民生活向上のため、経済の活性化に重点を置いています。 
 
 中国との関係情況変化もあって当初の勢いは失せたものの、平壌に関する限り、労働者とくに教員用住宅建設や大規模工事が進められているように見受けられました。教育重視政策のもとで教員は、「革命指導者」と位置づけられ、優遇されています。 
 
 中国との合弁経営もあるようですが、基本的にすべてが国営であるため、働いている者はみな「公務員」となります。国のために働くことが自分のためであり、自分のために働くことが国のためになる、という考え方です。 
 
 税金は一切なし。国営会社や国営工場が上げる収入はすべて国へ。労働者(公務員)は、仕事の内容、年齢、経験等々によって国が定める基準で一定の給料支給されます。教育、住居、医療に関わる経費はすべて無料。お米は配給制。世界で唯一、徹底した社会主義政策を実行しています。 
 
 労働者は、原則として朝9時から夕方6時までの8時間労働。金曜日は「金曜労働」と呼んで、都市部のとくに事務系業務に携わっている労働者は、農村へ行って農作業や道路建設などに従事します。現実から学ぶ、現実を学ぶ、労働者と農民の距離を縮めるなど、いろいろな意味を持っています。 
 
 土曜日は「土曜学習」とよんで、共和国の「主体(チュチェ)思想」を学習したり様々な文化活動を行います。対文協の研究員であり今回訪問の案内と通訳をしてくれた金春実さんは眼を爛々と輝かせて説明してくれました。 
 
 主体(チュチェ)思想とは、労働者、農民、知識人の人民三者がすべて自己の運命の主人/主体であり、国家開発/発展の主人/主体であるとする考え方です。自主独立と自立精神を重んじ、共和国政治思想の中核をなす思想となっています。 
 
 朝鮮労働党のロゴマークは、中央縦に「筆」、左上から右下に「鎚(ハンマー)」、それに交差して右上から左下に「鎌」が描かれています。鎌は農民を、ハンマーは労働者を、筆は知識人を表しています。 
 
 平壌市内のいたるところにこのロゴマークとその下に人民軍兵士数名が描かれている大きなポスターが掲げられています。このポスターが意味するのは、「国の主人/主体である農民・労働者・知識人! それを人民軍が命をもって護り支える!」ということです。「軍隊」と呼ばず「朝鮮人民軍」と呼んでいる意味がわかりました。 
 
 意見/考え方の好き嫌い、賛成するか排除するかの論議・論評の繰り返しでなく、隣人/隣国の実情、思い、考え方を、まず知る、まず受け止める、まず理解する。そして初めて、隣人/隣国とのこれからの関係づくり、関係回復、国交正常化が可能になる・・・。当たり前のことを改めて学び、痛感しました。 
 
(つづく) 
 
■ 日本の軍事侵略・・・ 
■ 被害者遺族キムさんの証言 
■ 板門店(ハンムンジョム)に佇んで 
■ おわりに 


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