2014年10月27日21時48分掲載  無料記事
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国際

インドのマオイストが国土に40%に展開 背後に新自由主義が生みだした貧困 北沢洋子抄訳

  2013年5月25日、マオイスト・ゲリラの急襲によって、インド中央部のチャチィースガル州(Chattisgarh)の会議派議員28人が殺された。これによって同州の会議派指導部は崩壊した。この州ではヒンズー右派のBharatiya Janata Party(BJP)が政権をとっており、会議派は野党であった。マオイスト(毛派)の蜂起がインドの国土の40%に及んだのは、民衆の貧困とニューデリーの政府のネオリベラリズムのせいだ―Asad Ismi (『The Red Phoenix』 2013年12月20日号掲載) 
 
◆インドのマオイストの攻撃 
 
 チャチィースガル州では、10年4月にマオイスト・ゲリラによる大規模な戦闘が起こっており、政府軍76人が戦死した。ソニア・ガンジー会議派党首はマオイストの攻撃に激怒し、一方、シン首相は「マオイストは国内最大の治安問題」だと語った。 
 
 インドのマオイストの反乱は40年に及ぶ。その蜂起は、1967年、西ベンガル州のナクサルバリで始まった。その時の彼らは「ナクサライト(Naxalites)」と呼ばれた。当時、この蜂起は政府軍によって鎮圧されたが、完全に一掃されたわけではなかった。 
 2004年に、それまで2派が合同して、「インド共産党(マオイスト派)」が誕生した。 
 
 以後、反乱は野火のように広がり、全28州の中で20州、640県の中で223県、面積にすると国土の40%で活動している。ちなみに、2003年には55県にすぎなかった。 
 
◆マオイストの活動地域 
 
 最もマオイスト・ゲルラが強いところは、チャティースガル、ジャールカンド、西ベンガル、マハラシュトラ、オリッサ、ビハール、アンドラ・プラデシュなど7州である。これらの地域は「赤い回廊」と呼ばれる。 
 
 1980年以来、内戦で10,000人が犠牲になっている。マオイスト・ゲリラの戦闘員は20,000人、支持者は50,000人に上ると見られる。インド政府は、マオイストの蜂起が、インド中部、東部の経済活動を阻害していると、言っている。 
 
 マオイストの長期的な目標は、中央政府を打倒して、社会主義・共産主義の政府を設立することにある。マオイストはこれを、「帝国主義、封建主義、買弁官僚資本主義などに対する闘争、つまり民主主義革命」だと言っている。マオイストは、インドの政府や選挙制度が、民主的であると見なしておらず、むしろ地主や資本家階級の利益を擁護する道具だと考えている。 
 
◆新自由主義と貧困 
 
 マオイストの反乱は、1991年、政府が新自由主義に転換し、とくに、農民、先住民・山岳民に大量の貧困と格差を生み出した、という背景がある。政府の経済政策は、タタ、アンバニ、ジンダルなど、少数の家族を富ませた。西側メディアは、インドを経済的超大国、グロバリゼーションの広告塔、成功した資本主義などと呼んでいる。 
 
 バンダナ・シバ博士によると、インドの人口の75%に上る7億5,000万人が貧困の中にあり、わずか5%の人口がインドの資産の38%を握っている。インドは米国、中国に次いで億万長者が多い国である。 
 
 インドの資本家たちは、多国籍企業と組んで、かつて、インドを200年支配した英国帝国主義者と同じく、土地と天然資源を強奪している。その結果、人びとを強制移住させた。シバ博士によると彼らは私兵を持っており、しばしば、腐敗しきった無能な政府軍を凌いでいる。 
 
◆先住民・山岳民と鉱山開発 
 
 政府は、タタ、ミタルなど鉄鋼企業のために、人口の8%にあたる8,400万人の先住民・山岳民(Adivasi)が住む地下資源が豊富な土地の強奪を進めている。土地を追われた彼らは、彼らの利益を守ると称するマオイスト・ゲリラに参加する。 
 
 先住民・山岳民は、最も貧しい階層である。1947年独立以来、インド憲法が先住民・山岳民の土地の権利を保証しているにもかかわらず、土地は奪われ、さらに基本的なサービスを受けてこなかった。 
 先住民・山岳民は、自給自足の農業と森からの採取でもって生活している。しかし、このような、細々とした生活も、1991年以来、特に強まった土地収奪によって、脅かされてきた。したがって、マオイスト・ゲリラの戦いは、土地とその下に眠る鉱物資源をめぐる資源戦争であり、先住民・山岳民の生存のための戦いである。リーダーをのぞいては、マオイスト・ゲリラの多くは先住民・山岳民である。 
 
 インド政府はこのマオイストの挑戦に対して、81,000人の民兵を送り込み、「グリーン・ハント」作戦を展開しているが、これは先住民・山岳民を、益々、マオイストの側に追いやるだけだ。 
インドには、良質な開発プロジェクトがないわけではない。しかし、中央・州政府の腐敗のために、有効に使われるのはわずか10%でしかない。先住民・山岳民の目に映る政府は、腐敗と暴力である。 
 
◆ジャールカンド州の戦い 
 
 インド東部のジャールカンド州は、マオイストの活動が最も盛んな地域である。この州では腐敗が蔓延しており、選挙制度は崩壊している。その結果、人びとはマオイストを支持するようになる。その腐敗ぶりは、同州では過去12年間に8つの政府が生まれ、そのいずれもが任期を全うしていない、という有様である。 
 
 インドの電力は、ほとんどが火力発電である。ジャールカンド州をはじめ、マオイストの活動が活発な4つの州は、インドの石炭埋蔵の85%が眠っている。またジャールカンド州には、世界最大の鉄鉱石の埋蔵がある。 
 
 ジャールカンド州政府は、タタ、ジンダル、ミッタル、エサールなど巨大ンな鉄鋼会社と、48の「覚書(MOUs)」を結んでいる。インド連邦捜査局(CBI)は、ジャールカンド州政府がジンダル鉄鋼電力会社などと炭鉱開発の契約について、調査を開始した。入札をしないというジャールカンド州政府の政策によって、ジンダル社は巨額の利益を受けている。2012年のCBIのレポートによると、このことによって、州政府は300億ドルの損失をこうむった、という。CBIは。今年6月11日、ジンダル本社とNaveen Jindal社長のニューデリーの住居を捜査した。 
 
 ジャールカンド州では、先住民・山岳民は、人口の26%を占めている。彼らは、生計の糧を森に依存している。石炭や鉄鉱石などの大規模開発は、森を破壊する。同州にあるサランダ森林は、アジア最大の沙羅の木の保護森である。ここに州政府は、19社に開発許可を与えた。ちなみにサランダ森林にはインド最大の鉄鉱石の埋蔵がある。ここでは、サンジャイ州営鉱山会社が稼働している。 
ジャールカンド鉱山地域調整委員会(JMACC)という闘争組織がある。これは、先住民・山岳民のインド最大の組織である。そのスポークスパーソンであり、ニュースの編集長でもあるXavier Diasは、「これは、先住民・山岳民の大量虐殺である」と語った。彼は、30年間、コミュニティのために闘ってきた。彼は、2012年11月、州政府に逮捕されたが、長い法廷闘争の末、昨年6月、釈放された。 
 
 インド東部にとってサランダ森林は、世界にとってのアマゾンの熱帯雨林に匹敵する。 
 春になると、カロ、バイタラニなどの川に生命を与える。サンジャイ鉱山会社の操業が川の流れを妨げている。その上、鉱山採掘から出る廃棄物が川や地下水を汚染している。サランダ鉱山周辺の鉱山労働者や住民が、肝臓病で死んでいる。 
 
 すでに州治安部隊は、マオイストの一掃を目指して、サランダ森林地区で、2011年6,7,8月と3回、それぞれ「モンスーン」「ブラボーボーイ」「アナコンダ」と名付けた大規模作戦を行った。彼らは、先住民・山岳民2人を殺し、数人の女性をレイプし、500人以上を拷問した。彼らの食糧、家畜を奪った。そればかりでなく、配給カード、投票証明書、土地の権利書などの身分証明書を焼いた。彼らは一連の作戦が終わるまで、避難を余儀なくされた。この作戦の結果は、19の鉱山会社に開発許可が下ったのであった。 
 
 ジャールカンド州は、非常に軍事化された州である。100ヵ所以上の州政府の軍事基地があり、5,000人の民兵が駐留している。この他に州政府は、浄化作戦と呼ばれる「Salwa Judumu(SJ)」と言う「死の暗殺部隊」を雇っている。また鉱山会社が雇っている警備員もいる。中央政府のインド軍が配備されているが、彼らは直接作戦に参加していない。 
 
 これら弾圧部隊は、「マオイストと闘っている」と言うが、実際には、土地取り上げや警察の弾圧と闘っている民主主義運動をターゲットにしている。 
 
◆アルジャジーラとRoy女史の訪問 
 
 2010年、中東のケーブルテレビ『アルジャジーラ』の特派員がジャールカンド州のマオイスト支配地域であるTholkobad村を訪ねた。そこでは「農地改革」が行われており、マオイストは農民に農業技術を支援していた、と報じた。この村の村長は、「マオイストがしばしば村を訪問し、すべての人を平等に扱う」と述べたと言う。 
 
 また、同じく2010年、インド人作家Arundhati Roy女史が、マオイストが支配しているチャーチスガル州の村を訪問した。彼女は、世界中で600万冊売れた『小さきものたちの神』の作者である。彼女もまた、先住民・山岳民とマオイストに会い、Dandakarannya地区の森林省との戦いの模様を聞いた。その結果、彼らは、森林の土地を占拠し、耕した。 
 
 森林省は、これに怒り、反撃に出た。新しく出来た村を焼き、村人を追放した。再び村人は、森林を占拠した。このような農民と森林省との攻防線は、どこでも続いている。Roy女史は、Dandakarannya地区では300,000エーカーの土地が解放され、土地なき農民はいない、と語った。 
 
(著者Asad Ismiは、オタワにある「カナダ・オルターナティブ政策センター(CCPA)」のメンバーで、インド、パキスタン、アフガニスタンを専門にしている。彼の最近のラジオ番組『資本主義の危機』はカナダ、米国、ヨーロッパで放送され、3,300万人が視聴した) 
 
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国際問題評論家 
Yoko Kitazawa 
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