2014年11月19日06時32分掲載  無料記事
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社会

風俗で働くということ(下)

 2014年1月27日に放送されたNHKクローズアップ現代では、20代のシングルマザーの約80%が年収114万円未満の貧困状態に置かれている現状を指摘し、「託児所付きの風俗店がシングルマザーのセーフティーネットとなっているケース」を紹介して社会に衝撃を与えた。実際はどうなのか、シングルマザーで数年前まで寮付きの風俗店で働いていた女性に、働いていた頃の店や寮での様子、どのように風俗を辞めたのかをインタビューした。インタビューするAさんは、シングルマザーで、数年前まで首都圏にあるピンサロ(フェラチオを提供する店)やファッションヘルス(個室でSex以外の性的サービスを提供する店)で働き、現在は医療事務の職に就いています。今回は、Aさんに、働いていた頃のファッションヘルスや寮での様子や、どのように風俗を辞めたのかを話してもらいます。(能村哲郎) 
 
■ピンサロを辞めて、寮付きのファッションヘルスで働いてどうでしたか? 
 
 それまでのピンサロとは違い、裸になって素股(男性器を股にはさみ、圧迫・摩擦する性行為)やデイープキスなどの厳しい目の性的サービスをしなければならず、指入れ(女性器に客が指を入れる性行為)も嫌でしたし、性感染症に感染しないのか心配でした。それでも、1日4〜6時間の勤務をすると2万5千〜4万8千円(客数やサービス内容による)、月10日程度の勤務で35万円強の収入となりました。それに、月2万円で入居できる寮もあります(都内でこの額は格安)。娘と2人で普通に生活すれば、十分な貯蓄ができる額をもらえました。 
 
 また、指名をしてもらったり、オプションサービスを客が希望してくれたら、貰えるお金が増えます。私は、客に良いサービスをして、いっぱい喜んでもらい、もらえるお金が増えるように頑張りました。 
 
■性感染症は大丈夫でした? 
 
 性器や喉の粘膜に感染する性病であるクラミジアや淋病は、感染するリスクが高いです。エイズや肝炎ウィルスにも感染するかもしれません。しかし、感染していることが分かれば、即日、仕事はできなくなります。クラミジアや淋病の特効薬(1回の服薬で治癒する)である「ジスロマック250mg錠」を個人輸入で購入し、検査の前には必ず服薬していました。検査は郵送なので、検査キットで粘膜を故意に採取しなかったり、子どもの粘膜で検査を受ける人も中にはいました。店に秘密という前提で「指名獲得」のためにSEXをやらせる人もいましたが、ピルなどの経口避妊薬で避妊をしているようでした。 
 
■寮ではどうでしたか? 
 
 寮は、20戸程度のワンルームマンションでした。6帖でユニットバス、ガスコンロ付きの部屋で、フローリングの綺麗な部屋でした。ワンルームマンションの住民はすべて風俗店で働く女性で、同じ店の人だけでなく他の風俗店で働いている人もいました。普通の物件では風俗関係者に貸したがらないので、貸してくれるこの物件に集まっている様子でした。シングルマザーが4割、目的があって風俗で働いている人が3割、あとは風俗のプロの人でした。ワンルームマンションでは、多くのことを助けられましたし、辛いこともありました。 
 
■助けられたというと、具体的にどういったことですか? 
 
 風俗嬢をしていると社会から白目で見られがちで、家族との関係が上手くいっていない人も多く、困った事があってもなかなか相談することができません。だから、風俗嬢同士が助けあう関係が、自然と出来上がっていました。 
 
 例えば、シングルマザー同士、出勤する時間が違うと、お互いに子育てを手伝い合ったり、子育て情報の交換をしました。学費を稼ぐために風俗で働いている人には、勉強を教えてもらったり、逆に家事を手伝ったり料理を教えてあげました。お局的な人は、店や客と揉めた時の対処方法にとても詳しく、たくさん教えてもらいました。本当にいろいろなことを助け合っていました。今も、何人かとは、連絡をとっています。 
 
■「辛いこと」というと? 
 
 性風俗は、お金が短期間にたくさん手に入る仕事です。他者にたかられて借金まみれになる人が多くいて、借金返済のために違法行為の片棒を担がされ逮捕される人や、子どもを残し夜逃げする人もいました。風俗店で働く人は、仕事の辛さや寂しさ等から自分を頼ってほしいと思っている人が多いので、たかられやすいんだと感じます。他にも、性感染症が発覚し部屋を追い出される人や、望まぬ妊娠をして堕胎する人、心を病んで自殺してしまう人等がいました。特に、望まぬ妊娠と同時に肝炎ウィルスへの感染が発覚し、部屋を追い出された女性は、多額の借金をしていたらしく、家財道具を全て借金のカタに持っていかれ、泣き叫んでいて本当に悲壮でした。近くに住んでいる人の人生が破滅していく様は、みていて悲しかったです。それでも多くの人は、どこにも相談しません。 
 
■「どこにも相談しません」とはどういうことですか? 
 
 風俗嬢の法制度に対する無知や不信もありますが、それ以上に性風俗で働いているというだけで、警察などの行政も弁護士などの民間も、信用してくれず動いてくれません。例えば、電車で痴漢されたので警察に相談しても、被害届を書く際に「風俗のお客さんじゃないの?」「誘ったんじゃないの?」等と警察官に言われたことがある人もいました。弁護士に訴えても、追い返されることすらあるようです。性風俗で働いていると誰も助けてくれないのです。まぁ、風俗で働いている人の中には暴力団などの反社会的勢力と関係がある人もいるし、性風俗自体が蔑まされることなので仕方がないのかもしれませんが。 
 
■子育てはどうでしたか? 
 
 ファッションヘルスの運営会社に販売員として働いているという証明を出してもらい、保育園に娘を通わせました。それ以外の時間は、娘との時間を大切にするとともに、社会のマナーをしっかり身に着けほしいと思ったので、しつけも厳しくしました。娘が可愛くて、子育ての時間をたくさん取れて幸せでした。 
 
 しかし、ファッションヘルスで働いているなんて、娘に絶対に言えません。娘が小学校に入学する時期には転職できるように、ビジネスマナーやパソコンの講座を受けたり、日商簿記2級や医療事務の資格を取り、就職活動をしました。子育てをしながらファッションヘルスで働き、資格を取ったり就職活動をするのは大変でした。それでも娘に「ママ頑張って!」と言われ頑張れました。 
 
■転職はどうでしたか? 
 
 なかなか転職するのは大変でした。20才台後半で事務職や医療事務の経験がなかったので、なかなか就職できませんでした。半年ぐらい就職活動をして、娘が小学校に入学する2カ月前に、小さなクリニックで雇ってもらえました。8:30〜18:30と倍ほどの勤務時間だし、手取りで13万ほどでファッションヘルスの1/3〜1/2です。でも、娘と散歩をしていて「ママは、ここで働いているだ」と娘に言えたので、後悔はありません。娘にも社会にもウソをつかなくてもいい仕事につけて、本当にうれしかったです。 
 
 また、クリニックの先生や奥様が、とてもいい人で人生を助けられました。娘のことを気にかけて子育てを手伝ってくれたり、就職1年ほどして私の両親との間を持って下さり、私の両親に娘を合わせることができました。今、転職して3年たちました。これからも、娘が幸せに育ってくれるように、私は娘と頑張って行こうと思っています。 
 
(おわり) 


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