2015年01月15日13時50分掲載  無料記事
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人権/反差別/司法

「名張毒ぶどう酒事件」 奥西勝死刑囚を即時釈放せよ 根本行雄

 1月9日、名古屋高裁刑事2部(木口信之裁判長)は三重県名張市で1961年3月、女性5人が死亡した「名張毒ぶどう酒事件」の第8次再審請求の異議申し立てを棄却した。この決定は、弁護団を通じて八王子医療刑務所(東京都八王子市)に収容されている奥西勝死刑囚(88)にも伝えられた。面会した伊藤和子弁護士によると、奥西死刑囚は人工呼吸器を装着しており、声が出せない状態が続いているが、特別抗告をする旨を伝えると、右手で伊藤弁護士の手を力強く握り、大きくうなずいたという。 
 
 毎日新聞 2016年1月9日付 金寿英、駒木智一記者 から引用する。 
 
 記者会見は午前と午後の2回行われ、鈴木泉弁護団長は「裁判所は無辜(むこ)の救済として設けられた再審制度の本質を全く理解せず、それに反した審理、姿勢だった」と高裁を厳しく批判した。 
 
 8次請求では、事件に使われたとされる毒物が農薬「ニッカリンT」ではないことを示す「重大な新証拠」を提出する予定だったが、その前に棄却決定が出され、異議も退けられた。鈴木弁護団長は「証拠を調べ尽くすことなく、命を奪うというのは正義に反する」と強い口調で非難し、「特別抗告せずに第9次再審請求を始める選択肢もあるが、問題のある8次請求の決定を容認するわけにはいかない」と説明した。 
 
 名古屋高裁の木口裁判長は、なぜ、「重大な新証拠」を調べることをせずに、この時期に棄却の決定をしたのだろうか。あせらなければならない必要があったのか。この日の決定で木口信之裁判長は「無罪を言い渡すべき明白性や新規性はない」と判断したと述べているが、このように主張するのであれば、弁護団が『重大な新証拠』としているものを調べるべきであっただろう。 
 
 悪意を持って、勘ぐれば、裁判所は奥西さんの獄中死を狙っているのだということになる。獄中での病死は、合法的な「死刑」である。波崎事件の冨山さんも、同じく、獄中において、十分な医療をうけることなく、獄中死をしたことを思い出さずにはいられない。 
 
 日本の再審制度は依然として「狭き門」である。極端な言い方をすれば、再審とは、再審請求者に無罪の証明をしろとしている制度だからである。しかし、現行では、検察には証拠の全面開示の義務はないので、それが大きな障害になっている。これまでの冤罪事件をみれば、検察の隠し持っていた証拠が無罪の証明に大きく役立っている。一般市民には強制的な捜査権、尋問権などもないので、警察や検察のもっている捜査能力を超えることは例外的なことである。捜査は税金によって営まれている行政行為である。そこで手に入れられた証拠類は警察や検察の独占すべきものではない。何度も、言っていることだが、検察には証拠の全面開示を義務付けるべきだ。検察官には被告人の有罪を立証する義務はあるが、証拠類を隠蔽してもよいということにはならない。 
 
 日本では、検察官だけが、政府の代弁者として、訴追することができる制度になっている。(検察官の起訴独占、国家訴追主義)沢登佳人先生によれば、「フランスの司法組織法に言う『公益の代表者』という検察官の定義を、『国家利益の代表者』という意味に誤解して導入した結果です。フランス語では公益とは公衆の利益のことであって、政府によって代表される国家利益のことではないのです」『陪審裁判の基礎知識』より。 
 
 だからこそ、再審請求人の筆頭に、検察官があげられているのである。 
 
 検察には証拠の全面開示を義務付けること。検察には上訴権をなくすこと。これが裁判を公正にするために不可欠のことである。 
 
 奥西さんを獄中で死なせてはならない。今こそ、奥西さんを即時釈放すべきときである。検察官、裁判官は公益の代表者である自覚を持て。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


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