2015年01月17日12時12分掲載  無料記事
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アジア

現代韓国戯曲は面白い ドラマリーディングを見る

  東京の三軒茶屋駅前のシアター・トラムで1月15日から「韓国現代戯曲ドラマリーディング」が行われている。韓国の優れた現代劇作家の作品をいくつか選んで、日本の舞台で「ドラマリーディング」を行うもの。戯曲を舞台で朗読するだけならいささか退屈なんじゃないか、と思って出かけたらかなり面白く、スリリングな体験だった。18日まで行われる。 
 
  今回、舞台に取り上げられる戯曲は3人の劇作家による3作品。キム・ユンミ作「五重奏」、キム・ウンソン作「木蘭姉さん」、キム・ジェヨプ作「アリバイ年代記」。60年代から70年代に生まれた劇作家たちが現代の韓国を見つめた作品群である。 
 
  筆者が見たのは「アリバイ年代記」。韓国の劇作家志望の青年ジェヨブが老いて病気で亡くなっていく英語教師をしていた父親の人生をたどる。父親は大阪で生まれた在日韓国人。日本の敗戦とともに韓国の大邱に「帰った」。間もなく朝鮮戦争が起き、独裁政治が始まる。父親が残したのは4000冊に上る本だった。その多くは英語や日本語、さらにはフランス語やスペイン語の本まであった。 
 
  政治と直接形で向き合わなかった温厚な父親だが、心の中では民主化闘争を支持していたことがわかってくる。朴正煕の時代、全斗煥の時代、盧泰愚の時代・・・。その時々の出来事と家族の騒動。大阪生まれの父は韓国社会に完全に同化することもできなかったらしい。ここではないどこか、それを外国の書籍の中に求めていたのかもしれない・・・終幕間際、がんで余命わずかな時、父親は今までずっと隠してきた真実を息子に語ってからこう言う。 
 
  「ジェヨブ。韓国という国はな、父さんが生きてみて思うに、真実に根付いた指導者は一人もいなかった気がする。真実に土台を置かない権力は、程度や方向の差はあるかもしれないが、みな独裁と同じだ。独裁は、真実とは相容れないから偽りを隠そうとしきりにアリバイを取り繕うものだ。」 
 
  日本の敗戦の後に韓国に渡った在日韓国人の人々はその後も朝鮮戦争や独裁と言う不幸を続けていたのだ。日本が朝鮮戦争を期に軍需特需で高度経済成長の波に乗っていくのと対照的である。劇作家のキム・ジェヨブさんは今回のドラマ・リーディングのために来日して自分の作品が日本でどのように「読まれる」のかを興味深く見つめていた。5〜6年前に来日した時は亡き父親が生まれた住所をメモを手掛かりに訪ね歩いたそうだ。 
 
  ドラマリーディングは1人か2人で読むのか、と思えばそうではなく、10人近くの俳優が実際の舞台の配役にほぼ沿って読んでいく。それもただ読むだけではなく、表情や身振り手振り、舞台上の移動や動作などを伴う。さらにプロジェクターで背後に写真などの効果が生かされるから、相当見やすく、理解しやすく演出が施されており、韓国現代史に詳しくなくてもリーディングが楽しめるようになっている。それは今回が韓国現代戯曲ドラマリーディングの7回目ということにもあるようだ。これまでに様々な試行錯誤が重ねられ、実際の舞台ではないものの、比較的少額の予算でできる限り、戯曲の世界を伝えようというものであり、それは成功していた。 


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