2015年02月01日01時02分掲載  無料記事
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国際

「これ以上負債を減額できないわよ」 浮かれるギリシアにメルケル首相がくぎを刺す

  日曜日の選挙で定数300議席中、149議席を得て今週発足したギリシアの急進左派連合のチプラス新政権。チプラス氏は財政再建の為にギリシアがのまされた緊縮政策の変更を国民に公約として掲げている。 
 
  緊縮政策の為に公務員の職も減らされ、経済も縮小。ギリシア国民の中にはドイツなど外国に出稼ぎを余儀なくされる人も少なくなかった。失業率は25%、若者の場合は50%近くに上る。そこで政策の変更を約束する新政権の誕生は大きな反響を呼んでいる。 
 
  しかし、欧州委員会、欧州中央銀行、そしてIMF(国際通貨基金)の3者はギリシア経済の救済の為にすでにサマラス前政権(新民主主義党)の時代に2400億ユーロ(約32兆円)の金融支援を決めていた。緊縮財政を継続することはその時の条件に盛り込まれていた。 
 
  欧州連合のリーダー、ドイツのメルケル首相はこれ以上ギリシアが欧米諸機関に返済する負債額の減額は認められない考えを示した。すでにこれまでにも金融機関や投資家は相当額の負債を帳消しにしてきたからだ。BBCによると、現存するギリシアの総負債額は3150億ユーロで1年の国内総生産の2倍近い175%に上る。 
 
  2012年の総選挙ではユーロ圏に残留するかどうかがテーマとなり、緊縮政策に同意する新民主主義党が与党となり、ギリギリのところで欧州連合残留となった経緯がある。しかし、ここに来て、再び欧州連合との亀裂が生まれつつある。とはいえ、メルケル首相はギリシアのユーロ残留を求めている。いずれにしても、帳簿をごまかして欧州連合入りしたギリシア経済は未だ欧州のくびきとなっている。 
 
http://www.bbc.com/news/world-europe-31072321 
 
 
  以下はギリシア通貨危機が起きた直後の本紙に寄稿されたパスカル・バレジカ氏の一文。 
 
 
■フランスからの手紙5 ギリシアと欧州連合〜その異常さと冷笑主義〜La Grece et l’Union Europeenne : aberrations et cynisme  パスカル・バレジカ 
 
 
  IMFと欧州連合はギリシア救済計画を採択し、ギリシア政府は厳しい再建策を発表した。ところでギリシアは欧州連合の中で脱税が最も盛んな国のひとつである。だがその異常さの最たるものは、莫大な富を持つギリシア正教会(ギリシアでも稀な大土地所有者である)が今まで課税されなかったことだ。 
 
  その上、ギリシアの年間予算のうち、3億ユーロは司祭たちの給料として公務員並みに支払われている。ギリシア政府がついに教会の財産に対し、穏健な額の課税を行う旨を発表すると、司教たちはすぐにその決定を批難した。明らかに司教達は生活水準の低下を余儀なくされるその他のギリシアの人々と連帯する気はないのだ。 
 
  ギリシアの軍事費もまた異常である。国内総生産との比率で見ればギリシアの軍事費は世界で最も比率の高い国の中に入る。NATOの中ではアメリカに次いで第2位だ。ギリシア人たちは隣国トルコから常に国を守る体勢を作っておかないといけない、と主張する。だが、トルコは同じNATOの同盟国ではないのか? 
 
  IMFと欧州委員会はギリシアの軍事費に関しては軽い削減幅に留めた。軽さの理由こそフランス、イタリア、ドイツが潜水艦、戦闘機、ヘリコプター、フリゲート艦などをギリシアに売る契約を結んでいたことにある。これら3国はギリシアの救済に関して、冷笑主義で臨んでいるのである。ギリシア人の生活水準を守る手助けをするどころか、これらの国々がこれからギリシアに貸し付ける資金は自分たちの国の銀行を救い、ギリシアに売却した兵器代の支払いを受けるためのものなのだ... 
 
  時間をかけ、しぶしぶギリシア救済計画を採択した後、欧州の政治経済の指導者達はグローバルな枠組みで問題を分析したり、解決を考えたりすることができていない。ギリシアの次には恐らく、ポルトガル、スペイン、アイルランド、英国へと財政危機が広がっていくだろう。アナリスト達によれば、統一通貨ユーロが廃止となり、それぞれ独自の通貨に戻る可能性がある。さらに欧州連合が単なる自由交易圏以上のものではなくなる可能性も高い。 
 
  もしギリシアの危機に積極介入を行い、大胆な手を打つなら、その延長線上に欧州連合の政治的統合も夢ではなかろう。しかし、現在の欧州にはその選択をする準備がない。というのも欧州では今、ナショナリズムや過激主義者たちが台頭しているからだ。たとえばハンガリーでは親ナチスの極右政党が国会に議席を確保したばかりだ。 
 
  20世紀末に旧ユーゴスラビアで繰り広げられた血なまぐさい紛争はそれぞれの国の政治指導者達に、ナショナリズムの台頭を避けるためにはどんな手でも打たなくてはならないことを思い出させたに違いない。しかし、国々のエゴイズムが優位に立つ傾向はこの先も続くだろう。大統領を頂くフランスの与党UMPのある議員はこんなことさえ言った。「ギリシアは遅かれ早かれユーロから離脱する。早ければ早いほど良い」。 
 
  こうした事態に、スペインの巨匠ゴヤ(1746―1828)が晩年にマドリード郊外の有名な「聾者の家」で描いた暗い絵の中の1枚を思い出す。二人の男が砂の中に膝までつかりながら互いに棒で打ち合っているのだ。この絵は現在、プラド美術館で見ることができるが、まさに今の欧州人を象徴しているように思えてならない。 
 
  欧州人はその歴史の中で常に数え切れないほどの部族紛争に熱狂してたずさわり、多分、今再び新たな自殺行為を始めようとしているのだ。 
 
寄稿:パスカル・バレジカ(Pascal Varejka) 
メールアドレス(言語は英仏伊) 
pascal.varejka@gmail.com 
翻訳:村上良太 


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