2015年02月02日14時02分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201502021402231

みる・よむ・きく

『圧殺の海―沖縄・辺野古』 世界一生き物の多い海で…… 笠原真弓

 「圧殺の海」、それは全編闘争現場といっても過言ではない。 
まず、キャンプ・シュワブの工事用ゲートでの攻防で始まる。2014年の7月政府は、工事推進のため、公安警察と海上保安庁職員を多数投入してきた。海での測量や工事用浮き桟橋を作るなど、いわゆる辺野古の新基地建設に向けて、政府は工事を急いでいた。工事専用のゲートをつくり、資材の搬入を始めた。 
 
◆ゲート前のおじい、おばあたち 
 
 それを阻止しようと、沖縄の人々が集結する。声を涸らす山城博治(沖縄平和運動センター議長) さんは、県警や防衛庁職員に呼びかける。「なぜ君たちは我々の邪魔をするのか」「なぜ我々が工事を止めたいか」とトラメガ(トランジェスターメガホン)から呼びかける。防衛局の違法行為であるジャバラの門を取り外す間、「やめてください」という警察に対し「あなたたちがやってくれるか?やらないなら、下がっていてほしい。手を出さないでほしい」と頼み、作業終了後は、「黙って見ていてくれてありがとう」という。しかし、直ぐに元に戻さてはいるのだが。 
 
 大きく画像がゆれる。もみくちゃにされるほどカメラは、人々の中に入っている。トラックの前に座り込み、運転手に直に訴えたい島袋文子さん(85歳)たち。一人剥がされ一人加わり、また剥がされる。ウチナンチューの決死の覚悟がにじむ。本土からの人も加わっている。この闘争は、東京近辺のように、1ヶ月に1度とか週に1度、最近は多くなっているが、たかだか週数度という行動ではない。毎日、しかも24時間。だれも強制していない。休みなく続く。それほど本土への不信、本土の人々への失望がにじむ。 
 
◆世界一生き物の多い海で…… 
 
 空色の空に空色の海が光る。海中にはジュゴンの噛みあとのついた海藻が。キャサリン・ミュージック(海洋生物学者)さんは、「ここは、地球上で最も多様性豊かな生態系が残されています。ただただ壮観です」と。サンゴもカニも400種以上、魚に至っては1000種以上とか、ジュゴンの餌である海藻の噛み跡も確認さている。そんな海の沖合2キロまでが立ち入り禁止地区(米軍使用区域)となる。 
 
 ことの起こりは、1995年、20年前だった。3人の米兵の暴行事件に沖縄県民の怒りが爆発した。激しい基地返還運動が起こり、普天間飛行場の全面返還が決まった。しかし、それは市街地から県内移転であり、大浦湾(辺野古)に白羽の矢が立った。納得できない県民の阻止行動と民社党政権下で、一たんは県外移転もあり得るかという情勢になったが、自民党の返り咲きで結果的に、辺野古170haを埋め立て1800mのV字型2本の滑走路と輸送船が接岸できる軍港を造成ことになった。 
 
 1艘の抗議行動に対し、海上保安庁(海保)の7艘のゴムボートと、2艘の白い船がこちらに近づく。それらの船に向かって、そこはジュゴンの餌場だから、すぐに退去するようにと呼びかける。だが、彼らは動かない。トラメガはさらに声を張り上げる。「埋め立ての承認申請には、フロートや工事用浮き桟橋の設置については、書かれていなかった。だからそのことを取り締まるように」と。が、彼らは聞く耳を持たず、ひたすら海保の指示に従って、この海域から出て行くようにと警告する。 
 
 あなたは知っていましたか?いま、米軍用の基地新設の工事の一部が不法であることを。私は知らなかった。それなのに海保は、ここは立ち入り禁止だとか、危険区域だから入るなと言っている。 
カヌーで抗議をする若者たち。それを阻み、大きな魚を引っ掛けるような鈎竿で引き寄せ、海保のボートに引き上げる。「海中で何をしているのか」という抗議の声も聞こえる。 
 
 海保に捕まり暴行を受けたカヌー隊の一人は、むち打ち症用のギブスをはめ、「カメラのないところでは、やりたい放題。カメラが近づくと大丈夫か?という」と報告。そこで海保の行為を記録するため、ヘルメットに小型カメラを付けて海上行動に行く。一斉にオイルフェンスに向かう彼らに、海岸から声がかかる。「県民が付いているぞーッ」と。カヌー隊のほとんどが県外者だ。その声援がうれしいという彼らの顔には、責任感が滲む。そのカメラが、しっかりと海保の過剰警備を写す。 
 
◆両目を開けて見て知ることから共有と行動を 
 
 こうして大勢の人が「人殺しのための基地」をつくらせない行動をしている。この力が、翁長新知事を誕生させた。映画は、そこで終わっている。その後仲井真前知事は、任期を4日後に控えた2014年12月5日に、県庁にも出庁せず、埋め立て工事の変更3件のうち2件にサインした。12月の国政選挙でも、自民党の議員を排除した。年が開けて、海保の暴力はきつくなり、ゲート前での大型トラックの往来も激しくなっている。沖縄復興予算の減額もほぼ決まり、翁長知事が上京しても安倍首相はじめ菅義偉(沖縄担当大臣)も、会おうともしない。1月25日の「辺野古に基地はいらない 国会ヒューマンチェーン」に7000人が集った。これが民意でなくてなんなのだろう。 
 
 こうしている今も辺野古では、阻止行動が続く。彼らのこのままでは「遅らせることはできても、止めることはできない」という、悲痛な声に応えたい。そのためにも「いま辺野古の現場で何が行われているか、それを見て欲しい」との藤本監督の作品への思いを共有したい。 
 
※監督:藤本幸久/影山あさ子 2月14日よりポレポレ東中野での上映決定 上映企画歓迎 
※海上保安庁への意見:shitumon-x2mm@kaiho.milit.go.jp 
 
 
 海上保安庁とは、一体どういうところなのだろうか。 
海上における人命および財産の保護ならびに、法律違反の予防、捜査および鎮圧を目的とする、国土交通省の外局である。従って、治安の維持、海上交通の安全確保、海難の救助、海上防災・海洋環境保全、国内外関係機関との連携・協力を5つの使命としている 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。