2015年02月05日21時54分掲載  無料記事
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欧州

フランス:新たなテロ対策導入で懸念される人権の危機

 フランスのマニュエル・ヴァルス首相はテロ撲滅のため新たな対策を導入すると発表した。1月に発表された対策は、具体的には「名誉棄損」と「侮辱行為」を刑法犯罪とする、テロ関連で有罪となったり捜査されたことのある人物をデータベース化する、テロを煽ったり擁護していると思われるインターネットサイトは司法判断がなくても遮断できるなどの措置だ。(アムネスティ国際ニュース) 
 
 アムネスティはこうした措置のいくつかは、フランスが遵守義務を課されている人権に関する国際基準や欧州基準の違反行為を招きかねないと懸念している。特に気がかりなのは表現の自由と個人の生活の侵害だ。 
 
 パリでの恐ろしい襲撃事件の余波の中、フランスには慎重な対策が求められる。苦難の末に勝ち取ってきた人権が脅かされることがあってはならない。自由の保障と安全保障のバランスを見出すことが肝要だ。 
 
 襲撃事件は、表現の自由の重要性をフランスのみならず世界中にあらためて示した。襲撃は、まさに表現の自由への攻撃であり、その対策でこの権利を踏みにじっては本末転倒である。 
 
≪アムネスティの懸念点≫ 
 
◆名誉棄損の刑法犯罪化 
 
 「新聞の自由に関する法律」の扱いであった名誉棄損と侮辱行為を、刑法事案に変えるべきではない。新聞法のもとでは、被害者の申し立てが必要で、差し止め命令には限度があり、時効は3カ月である。刑法犯罪になれば、表現の自由を守るこうしたセーフガードが失われる。 
 
 アムネスティは、対象が公人であろうと私人であろうと、名誉棄損は民事で取り扱われるべきであり、これを犯罪とする法律にはすべて反対している。このところフランスでは「テロ擁護」で逮捕されるケースが続出しているが、こうした行為を刑法で禁じれば、表現の自由を侵害するような職権起訴が増えるであろう。 
 
 名誉棄損や侮辱に関する提案には、人種や民族に対する憎悪を背景に行為に及んで状況を悪化させた場合の規定も含まれている。フランスの刑法では、憎悪や差別の扇動はすでに処罰対象である。 
 
 自由権規約も、差別や敵意や暴力を扇動する国民的な憎悪、人種憎悪、宗教憎悪の唱道を法で禁じるよう締約国に義務づけている。しかし憎悪の唱道や扇動に至らない差別表現は、刑罰の対象とすべきではない。 
 
 今回の提案にある表現の自由への制限は不必要なものもあり、目的とされる「テロ撲滅」の達成への貢献度は失うものと釣り合わないと、アムネスティは考える。 
 
◆インターネットの遮断 
 
 提案対策によれば、2014年11月に制定されたテロ対策強化法をこの2週間以内に施行するという。この法の下内務大臣は、テロを煽ったり擁護していると思われるウェブサイトを遮断するよう、インターネット・プロバイダーに要請できる。こうした決定に対し司法判断が必須であることは示されておらず、決定に対し不服申し立てができる手続きについても明示されていない。「テロリズム擁護」の定義もあいまいで、不法な規制が科されかねない。サイト遮断が表現の自由を侵害しないよう、司法による厳格なセーフガードが必要である。 
 
◆「テロリスト・データベース」 
 
 政府は過去にテロ関連で有罪となったり、捜査を受けたことのある人物のデータベースを構築すると発表している。リストに載った者は、転居や国外旅行の際には当局への報告義務が課されるとのことだ。 
 
 どういう者が該当するのか、リストの除外にはどのような手続きが必要なのかなど、詳細はまだ不明である。しかし、データベースそのものの存在と、報告義務により、個人の生活の権利、移動の自由、無罪推定の原則が脅かされる恐れがある。 


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