2015年02月16日23時20分掲載  無料記事
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エドワード・サイード著 「オリエンタリズム」

  私は今、日刊ベリタで「アラブの眼」というペンネームを持った日本の方の寄稿した「Charlie Hebdo」に関する文章の中の事実関係について、自分なりにリサーチした文章をいくつか書いてきた。その動機は自分がフランスに関心を持っており、日刊ベリタにもフランスのことをしばしば書いてきたということによる。 
 
  その作業をしていて思い出されてきた本がある。20代の半ばに読んだエドワード・サイード著「オリエンタリズム」である。この本はたしか平凡社の文庫の二巻組で読んだ。それまでオリエント=東洋と思っていた私は、ここで書かれているオリエントが中近東やエジプトであることを知った。サイードはこの本の中で何をしたかというと、フランスの近代文学の中で中近東がどのように描かれてきたかを、こまめに記述を蓄えて分析批判していたのである。それまでそのような視点の本を読んだことがなかった私は非常に興味深く、また新鮮に思ったことを記憶している。サイードの粘り強い努力に、私は差別や偏見と闘う一人の人間のみなぎる情熱を感じた。そして、サイードがよりアクチュアルな現代の西欧ジャーナリズム批判を展開した「イスラム報道」も続けて読んだ。 
 
   西欧人自身に気がつかない偏見を、外部の眼で検証する作業である。その営みはやはり非西欧に生きる私たちにも無縁ではないと思われた。しかし、そうした作業をするために、パレスチナ人であるサイードはできる限り憎しみを昇華しようとしたのではないかと思う。もし憎しみがその作業に入り込んでしまったら、欧州人が手にして読むものを書けなかっただろう。サイードはそのような方法を取らず、コツコツ西欧人の書くものを拾い上げ、それを元に西欧人たち自身が否定することができないような寛容かつ執拗な方法で検証していったのだ。 


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