2015年04月29日12時26分掲載  無料記事
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国際

【北沢洋子の世界の底流】IMF・世銀の春季総会は何を決定したか 黄昏のブレトンウッズ体制

 中央銀行総裁と蔵相が集まるIMF・世銀の春季総会は、今年4月17〜19日、ワシントンで開かれた。通常、この会議はグローバル経済について重要な決定がなされるのだが、今年の総会は何ら内容のある議論も決定もなく終わった。とくに世銀は人権侵害と環境破壊の非難に答えておらず、またIMFもガバナンスの改革を打ち出さすことが出来なかった。 
 
 
 今日、世界経済は憂慮すべき状態にある。例えば、新興国の経済成長の鈍化、一次産品の値下がり、途上国の通貨政策の不安定などが現実のものになっている。しかし、その回答を出すべきIMFの「国際通貨金融委員会(IMFC)」は、これらについてどう対処するかは述べず、たた「注意すべき」と言っただけだった。 
 
 総会が唯一強調したのは、とくにインフラへの民間投資の促進であった。 
 世銀のキム総裁は、世銀の「貧困に優しい成長(Pro-Poor Growth)」の結果、「ミレニアム開発ゴール(MDG)」を達成することが出来た、と報告したが、実際には、その大半は中国であった。そして、中国の成長は、IMF・世銀の構造改革プログラムを完全に拒否したために達成出来たのであった。 
 
◆IMF・世銀に対する批判 
 
 秋の年次総会と並んで、春季総会にも、民間企業のCEOや銀行の頭取なども参加するので、1万人を超える一大イベントとなる。しかし、実質的な討議と決定の場はIMFCと世銀の開発委員会である。これは、24人に理事国がメンバーに限られる。企業や銀行家たちは、会議の中身に参加するのではなく、万博並に、あちこちでレセプションを開いて、商談に忙しい。 
 
 IMF・世銀はブレトンウッズ体制と呼ばれ、米国のグローバルなヘゲモニーを実現する重要な道具である。市民社会やNGOがIMF・世銀を批判する最大の点は、国際民主主義が欠如していることだ。それは国連のように1国1票制でなく、出資額によって投票権が決まる。実際には、米、英、仏、独、日の5カ国の独裁であった。これがこれまでNGOによって、強く批判されてきた点である。 
 
 中国、ブラジル、インドなど新興国が出現するとともに、IMFのガバナンスの改革という形で、出資枠の拡大を求める圧力が高まった。しかし、これこそ、米国のヘゲモニーにたいする挑戦であった。そのため、新興国が最初に要求した時からすでに20年近く経っているが、米国は「イエス」と言わない。米議会が妨害しているからだ。 
 
◆チェンマイ・イニシアティブと中国のAIIB提案 
 
 また、97年のアジア通貨危機の経験から、2000年8月、タイのチェンマイで、ASEANプラス3(日、韓、中)の中央銀行総裁・蔵相が集まって、危機の際に2国間で外貨を融通するスワップ制度の結成に合意した。これは「チェンマイ・イニシアティブ」と呼ばれる「アジア版 IMF」構想であった。このスワップ協定のデッドラインは2015年であったが、「+3」の間が反目しているので、「イニシアティブ」そのものの存在が危なくなった。 
 
 世界第2の経済大国となった中国は、もはやブレトンウッズ体制内で努力するのではなく、自らのイニシアティブで対抗組織を立ち上げるという方法をとった。それが、「アジア・インフラストラクチャー投資銀行(AIIB)」である。AIIBへの参加締め切りの3月末までに、韓国、インドを含むアジア各国をはじめ、EU、とくに英、仏、独などのIMF・世銀のリーダーたちが雪崩を打って参加した。 
 
 不参加を決めたのは、米国と日本だけだった。AIIBは、中国の予想を超える成功であった。しかし市民社会にとっては、その本拠である中国がNGOを敵視しており、これまでのように世銀のプロジェクトに対して自由なアドボカシイ活動が出来なくなるという危惧がある。 
 
◆春季総会が議論しなかった諸問題 
 
 今年のIMF・世銀の春季総会が注目されていたのは、今年7月に、アジズアババで開催される第3回「国連開発資金会議(FfD)」について、どのような議論がなされるかということであった。しかし、総会は、これに全く触れず、ただ、FfDを世銀が担当する、と書いてあった。これは、世銀の典型的なやり口で、国連気候変動基金と同じく、国連の「持続可能な開発資金」を世銀の担当事業に刷りかえるというのである。結果として、世銀は生き残る仕事を増やすことになる。 
 
 FfDについて重要な点は、2003年、メキシコのモンテレイで開かれた第1回FfDサミットの草案にあった「新しい国際通貨課税機関」、の創設であった。これは、今年の総会のIMFCの決議には全く触れていない。また、世銀の開発委員会の議論には、「経済構造の改革」という重要な問題があったが、これは簡単に「G24(G7の途上国版)」に押し付けている。 
 
 国連は、「債務の再構造改革プロセス」についてのアドホック委員会の創設を決議したが、IMF・世銀による多国間債務危機に対して「早く、正しく」解決するメカニズムを創設すべきだったが、これもなかった。 
 
 また春季総会では、世銀の開発プロジェクトによって、過去10年間で340万人にのぼる強制移住、気候変動をもたらす化石燃料に対する融資、といったこれまでの批判に対しても答えていない。この世銀融資は、WTOが禁止している「補助金」と同じである。 
 
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国際問題評論家 
Yoko Kitazawa 
http://www.jca.apc.org/~kitazawa/ 


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