2015年05月18日00時24分掲載  無料記事
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反戦・平和

現代の若者から見た慰安婦問題(3)〜挺対協の活動を聞いて感じたこと〜

 平成生まれの私は、これまでに「慰安婦」問題を扱った書籍を読んだことはありましたが、あまりに昔のことで、どこか遠い世界の話のように感じていました。でも、今年4月23日に参議院議員会館で開催された「『慰安婦』問題、解決は可能だ!」(主催:日本軍「慰安婦」問題解決全国行動、日本の戦争責任資料センター)という院内集会に参加し、生まれて初めて元「慰安婦」女性の話を生で聞いたことで、自分が生まれる前に起こった重大な人権問題を自分の身に引き寄せて考えることが出来たと同時に、今なお未解決のままでいることに憤りを感じました。 
 
 私の印象に残ったのは、集会後に同じ場所で行われた記者会見で、記者からの「朴裕河さんの議論は日本社会で結構受け入れられていますが(その場にいた市民の中から「受け入れられていないよ」との声が挙がる)、どこに問題があるのかを説明していただきたい」という質問に答える韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)常任代表の尹美香(ユン・ミヒャン)さんの姿でした。 
 尹美香さんは「朴裕河教授の本を読んだことがありません。また、私は読むべき本を机に山積みしていますが、その中に朴裕河教授の本はありません」と答えつつ、ソウル近郊の「ナヌムの家」(韓国京畿道広州市)で共同生活を送る元「慰安婦」ら9名が2014年6月、前年8月に韓国で出版された『帝国の慰安婦−植民地支配と記憶の闘争』の内容をめぐり、著者である世宗大学の朴裕河(パク・ユハ)教授を名誉棄損で訴えた件について触れ、 
「皆様方には誤解されている方がいらっしゃると思いますが、朴裕河さんに対して訴訟を起こしているのは、私ども挺対協ではありません。元『慰安婦』のハルモニ数人、ナヌムの家に住まわれている方が訴訟を起こしたものです。私たちは、安倍政権との戦いに力を要して疲れていますし、韓国政府や戦争を起こしている国際社会と闘うだけで手一杯でして、とても朴裕河さんに対して訴訟を起こす余力はありません。ある方は、ナヌムの家が挺対協の操作の下に訴訟を起こしたという話をなさいますが、ナヌムの家は主体性・独立性を持って活動している団体なので、提訴したハルモニたちにとって『挺対協に操作されている』と言われることは決して良い気がしないと思います。こうした独立性を持った闘いが、各方面で行われていると申し上げたいです」 
 その記者の態度が偉そうだったので、私には「日本のメディアは、多くが挺対協のことを悪玉のように見ているのかな」という疑問と共に、怒りを露わにすることなく冷静に受け答えしている尹美香さんの姿が「さすが組織を率いている人だな」と頼もしく見えました。 
 
 その後、集会で司会を務めた日本軍「慰安婦」問題解決全国行動共同代表の渡辺美奈さん(「女たちの戦争と平和資料館」事務局長)が「私たちの認識では、日本のメディアに挺対協に対する誤解があるように思います。挺対協の活動を知っていただくためにも、是非今晩の金福童(キム・ボクトン)ハルモニ来日記念集会『ナビ基金を知っていますか?』(主催:「戦争と女性の人権博物館」日本後援会)に来てください」と呼び掛けていたので、日本社会にマイナスイメージが根強くある感じの挺対協の真の姿を知りたく思い、院内集会終了後、その足で会場の在日本韓国YMCA国際ホールに向かいました。 
 
 集会でもらった資料によると、「ナビ基金」とは、戦時性暴力問題の解決と再発防止活動を目的に活動する挺対協が、「私たちはお金のために今までたたかって来たわけじゃないので、法的賠償が実現したら、その賠償金全額を戦時性暴力被害者への支援に使いたい」という日本軍「慰安婦」被害者のハルモニたちの強い思いを実現させるために、2012年3月に創設した基金で、日本語で「蝶々」という意味の「ナビ」を基金の名称に使っているのは、日本軍「慰安婦」被害者を始め、すべての女性が差別や抑圧、暴力から解放され、蝶のように自由に空を飛んでいくことを願うという意味が込められているのだそうです。 
 そして、基金の活動は、アフリカ中部のコンゴ地域で起こった内戦の中で性暴力の被害に遭った女性たちに対する支援に始まり、現在はベトナム戦争時に性暴力を受けたベトナム女性への支援も行っているとのことでした。 
 
 集会では、金福童ハルモニが、ナビ基金に寄せる思いを語っていました。 
「私たちは、挺対協など支援者の方々が助けてくれているおかげで、何の心配もなく生活が出来ています。しかし、海外に目を向けてみますと、戦時性暴力被害で苦しんでいる女性は私たちだけではありませんでした。被害者たちは、私に会うと、私の手を取って泣くのです。そのときの気持ちは言葉に表すことができません。そこで、被害者たちの痛みが分かる私たちに出来ることはないかと思い、ナビ基金を作りました」 
「被害に遭った女性たちは、自分1人だけではなく、その子供も大変な苦労を強いられていますが、私たちは全てを助けられるほどの力はありません。だから私は毎年、彼らが飢え死にしない程度にお金を集めようと募金活動を行っています。『自分のことも解決出来ていないのに、他人の心配をしている』と思うかもしれません。しかし、これは同じ被害者である私にとって他人事ではないのです。『塵も積もれば山となる』という言葉があります。毎日コーヒー一杯を節約して、この基金に支援してもらえないでしょうか。そして、1人でも多くの被害者たちがナビになってくれることを願っています」 
 
 また、挺対協常任代表の尹美香さんが、ナビ基金の活動の一部を紹介しました。 
「ナビ基金は、2013年からベトナム戦争時に韓国兵から性暴力を受けたベトナム女性とその子どもへの支援も始めました。なぜ、日本軍『慰安婦』問題も解決していないのにベトナム女性を支援するのかと聞かれることがあります。それは、被害者の痛みが分かる挺対協だからこそ、やらなければいけないと思っているからです。金福童ハルモニは『韓国国民の1人として本当に申し訳なく思っています』と仰っている。金ハルモニの思いを韓国政府や韓国社会は持たなければいけません。私たち韓国国民は、日本政府の対応を反面教師にして、加害者としての責任を果たしていかなければなりません」 
「戦時性暴力被害の事実を後世に、そして世界に伝えていくことがナビ基金の夢です。この夢は今、若者たちによるナビ運動や海外各地のナビ運動として広がっています」 
 
 2人の話が終わった後の質疑応答では、参加者から「ベトナム戦争での戦時性暴力被害者を支援することに対して、韓国政府や社会の反応、そしてベトナム政府の対応はどうか」という質問が出ていましたが、これに対して尹美香さんは次のように答えていました。 
「まず韓国については、ベトナム戦争に参加した韓国軍兵士たちから『我々は世界平和のために戦った』『この戦争によって韓国経済は発展したではないか』といった脅迫電話がかかってくるようになりました。また、韓国女性家族省からは『ナビ基金は現在、何人のベトナム人被害女性を支援しているのか』という問合せがありましたが、これは私たちが大統領府、外交省などの官僚たちと会う際に必ずベトナムの話をしているからです。この問題に関しては、韓国国防省が自国の兵士による性暴力を認めなければ解決できません」 
「ベトナム政府は『過去に蓋をして未来へ』というスローガンを掲げていますが、韓国政府に対して謝罪を求めるべきです。私は、いずれベトナム社会が謝罪を求めてくると思っています。そのときに被害女性たちが韓国政府に対して訴訟出来るように助けることが挺対協の役目だと思っています。しかし、まずは韓国政府が、訴訟が提起される前に自発的に実態調査を行い、謝罪と賠償を実行するための法律を作るべきです」 
 
 挺対協が世界に目を向けて活動していることも素晴らしいと思いましたが、自らが抱える問題を解決しようと活動するだけでも大変なのに、他国にいる性暴力被害者のことまで気に掛けて活動する金ハルモニの姿を見て、「同じ女性の私がハルモニと同じ立場に立たされたとして、果たしてハルモニたちと同じように振る舞えるだろうか」と考えさせられるとともに、金ハルモニに気高さを感じました。 
 当事者の声を直接聞くことの大切さを改めて感じた集会でした。(高木あずさ) 


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