2015年06月09日13時44分掲載  無料記事
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反戦・平和

3人の憲法学者がそろって違憲だと主張した 丸山真男から考える憲法 根本行雄

 6月4日、衆院憲法審査会は与野党が推薦した憲法学者3人を招いて参考人質疑を行った。この日は立憲主義などをテーマに議論する予定だったが、民主党の中川正春元文部科学相が、集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案について質問したのに対し、全員が「憲法9条違反」と明言した。3人の参考人がそろって安保法制を批判したことに、自民党国対幹部は「自分たちが呼んだ参考人が違憲と言ったのだから、今後の審議に影響はある」と認めた。自民党政権の末路が見えてきた。 
 
 丸山真男は「戦後民主主義の『原点』」(1989年7月7日)において、次のように述べている。 
 
「60年安保の試練を経て、自民党は憲法改正をイッシューとするのはまずいという現実主義的配慮から具体的な日程に掲げることはなくなった。その代わり、いまの憲法をなしくずし的に、解釈の変化によってできるだけ自分たちの要求に沿わせるよう既成事実を積み重ねていく方向になってきた。支配層にとっての戦後の憲法問題は、三段階あると思います。第一期が、占領軍がいるから甚だ不本意であるが忍従するという、忍従期。第二に、改憲企図期、第三が、既成事実容認期、たとえば、第九条のように自衛隊の解釈を変えていく。実際、自民党政府は、これまで現憲法の精神を浸透させることはまったくしていない。逆に自民党は党の基本方針としては現在でもやはり改憲を明記しています。」 
 
 丸山の文章が現在でも正当な主張だというのは、わたしたちにとっては忸怩たるものがあると言わなければならない。しかし、これが戦後民主主義の現状なのだ。 
 
 次に、毎日新聞2015年6月4日の田中裕之、高橋克哉両記者の記事を引用す 
る。参考人は、自民党、公明党、次世代の党推薦の長谷部恭男氏、民主党推薦の小林節氏、維新の党推薦の笹田栄司氏。自民党の委員に続いて質問に立った中川氏は「先生方が裁判官なら安保法制をどう判断するか」と各氏の見解を聞いた。 
 
 長谷部氏は集団的自衛権の行使容認について「憲法違反だ。従来の政府見解の基本的枠組みでは説明がつかず、法的安定性を大きく揺るがす」と指摘。「外国軍隊の武力行使と一体化する恐れが極めて強い」と述べた。 
 
 小林氏も「憲法9条は海外で軍事活動する法的資格を与えていない。仲間の国を助けるために海外に戦争に行くのは憲法違反だ」と批判した。政府が集団的自衛権の行使例として想定するホルムズ海峡での機雷掃海や、朝鮮半島争乱の場合に日本人を輸送する米艦船への援護も「個別的自衛権で説明がつく」との見解を示した。 
 
 笹田氏は従来の安保法制を「内閣法制局と自民党が(憲法との整合性を)ガラス細工のようにぎりぎりで保ってきた。しかし今回、踏み越えてしまった」と述べた。 
 
 これに対し、安保法制に関する与党協議会で公明党の責任者だった北側一雄副代表は「9条でどこまで自衛の措置が許されるか、(憲法解釈を変更した)昨年7月の閣議決定に至るまで突き詰めて議論した」と反論。憲法上許される自衛の措置には集団的自衛権も一部含まれるという見解を示して、違憲ではないと強調した。 
 
 これに関連し、菅義偉官房長官は4日の記者会見で「憲法解釈として法的安定性や論理的整合性が確保されている」としたうえで、「まったく違憲でないという著名な憲法学者もたくさんいる」と述べた。 
 
 毎日新聞2015年6月7日、「立憲デモクラシーの会」(昨年4月に設立)主催の講演とシンポジュウムについての報告記事(林田七恵、太田誠一両記者)がある。 
 
 安全保障関連法案の衆院審議が続く中、京都大名誉教授で憲法学者の佐藤幸治氏が6日、東京都内で講演し、「憲法の個別的事柄に修正すべきことがあるのは否定しないが、根幹を変えてしまう発想は英米独にはない。日本ではいつまでぐだぐだ(根幹を揺るがすようなことを)言うのか、腹立たしくなる」と述べ、憲法を巡る現状へのいらだちをあらわにした。法案を巡っては4日の衆院憲法審査会で、自民党推薦の参考人・長谷部恭男氏を含む憲法学者3人全員が憲法9条違反だと批判。自民は当初佐藤氏に参考人を要請したが断られ、長谷部氏を選んでいた。 
 
 佐藤氏は「(憲法という)土台がどう変わるか分からないところで、政治と司法が立派な建物を築くことはできない」とも語り、憲法の解釈変更で安保法制の整備を進める安倍政権への不信感をにじませた。 
 
 講演は「立憲主義の危機」と題するシンポジウムで行われた。続く討論で安保法制について、樋口陽一・東京大名誉教授が「(関連法案の国会への)出され方そのものが(憲法を軽んじる)非立憲の典型だ」と、また石川健治・東京大教授が「憲法9条の論理的限界を超えている」と、憲法学の立場から政府のやり方を厳しく批判した。 
 
 
 自民党は今回の事態をまったく予想していなかったことはあきらかだ。解釈改憲路線の行き着いたところは、とにかく、議案さえ成立してしまえばいいのだという憲法と民主主義を無視した手法に、すっかり慣れ親しんでしまった自民党政治、暴挙と暴走をしている、陋劣な政権だ。 
 だれもがこの政権の未来にあるものに気がつきだしたのだ。「ゆでカエル」のままではいられない。 
 自民党政権は、末期的な症状だ。目があっても、見ることができない。耳があっても、聞くことができない。国民の声を理解することができない。リスクが高まることはないと、言い張っている。 
 
 安倍総理をはじめとする人々には、まず、日本国憲法をしっかりと読んでもらいたい。そして、第99条には、「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と書かれている。義務を負っているのは、自分たち自身だということに気づかなければならない。 
 そして、われわれは「不断の努力によって、これを保持しなければならない。」肝に銘じよう。 
 


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