2015年06月23日21時29分掲載  無料記事
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反戦・平和

【6月22日(月)の「安保法制」特別委員会 参考人質疑】集団的自衛権問題研究会ニュースから

6月22日に開かれた衆議院「安保法制」特別委員会での参考人質疑の詳報を、【集団的自衛権問題研究会 News&Review :特別版 第8号】から紹介します。新聞などでも報道されていますが、こうしたまとめを読むと、安保法制の問題が実によくわかります。参考人の一人、小林節さん慶應義塾大学名誉教授・弁護士)は「この戦争法案は違憲であり、政策としても愚かであり、廃案にすべき」と明確の述べているのが印象的です。その一方で、9月27日までの95日間という史上最長の国会延長が決定されてしまいました。何が何でも法案を通そうということです。維新の党は23日に予定していた「対案」の正式決定を来週以降に先送りすることを決めました。(大野和興) 
 
 
【6月22日(月)の「安保法制」特別委員会 参考人質疑】 
 
<参考人の意見陳述> 
 
◆小林節(慶應義塾大学名誉教授・弁護士) 
 この戦争法案は違憲であり、政策としても愚かであり、廃案にすべき。憲法9条2項は軍隊の保持と交戦権を否定しており、76条2項は軍法会議を持たないとしている。自衛隊は第二警察として作られ、警察法体系のもとにあり、警察比例の原則という諸国にない縛りがある。 
 だからと言って、「憲法守って国滅ぶ」ではいけない。領域警備法の制定、武器使用基準(防衛大臣訓令)の変更、専守防衛とODA、国連支援とPKO、災害支援を徹底するのが、信用されより安全にする方法だ。海外派兵し「後方支援」の名で後方から戦争参加するのは、日本へのテロを招き、戦費破産状態のアメリカの二の舞になる。 
 首相の口癖は「ていねいに説明」だが、一度もていねいに説明された記憶がない。紋切り型の返事か「レッテル貼り」との逆ギレばかりだ。これは法案自体に無理があるからだ。首相は「従来の解釈に固執するのは政治家としての責任放棄だ」と言い、やみくもに憲法を踏み越え、違憲の海外派兵をしようとしている。これは首相がよく国際社会でおっしゃる法治主義とか法の支配に反する人治主義であり、独裁政治に向かう宣言をしてい 
るに等しい。 
 
 
◆阪田雅裕(弁護士) 
 「存立危機事態」とは具体的にはっきりしないが、善意に解釈すると、「我が国への武力攻撃」との要件を多少緩和しようとしようとすものと考えられる。今攻撃を受けている国が負けたら、次は日本が攻撃されることが必至の場合、日本が武力攻撃されるまで自衛隊が手をこまねいて見ていろ、でなくてもいいのではないか。そう理解すれば、集団的自衛権の限定的な行使がこれまでの政府の解釈と論理的に整合しないわけではない。 
 一般論として言えば、政府はいかなる時でも解釈を変えてはいけないわけではない。ただ許容されるには、二つの条件がある。一つは、新しい解釈が法論理的に成り立つものであること。自由自在に解釈できないこと。二つ目は、なぜ解釈変更が必要か、立法事実をきちんと説明できること。朝鮮半島や中国など周辺情勢や在日米軍の現状を見ると、何が今大きく変わったか、理解できない。 
 集団的自衛権の行使は進んで戦争に参加すること。相手国に日本を攻撃する大義名分を与えることであり、進んで国民を危険にさらす結果しかもたらさない。法案は本当に集団的自衛権を限定しているのか、政府にその気があるのか。ホルムズ海峡の機雷封鎖はどう考えても我が国の存立を脅かし、国民の生命、自由及び幸福追求の権利を根底から覆す事態に至りようがない。中東有事にまで集団的自衛権の出番があるのなら、限定的でも何でもない。 
 従来の政府解釈の枠内に収めるには、法案にある「存立危機事態」の定義を改めて、ただ単に、例えば「他国に対する武力攻撃が発生したことにより、我が国に対する外部からの武力攻撃が行われる明白な危険が生じた場合」とでもすれば簡単にできること。妙な解釈の余地が残る「国民の生命、自由云々」という表現をやめて、スッキリとしたわかりやすい表現に改めてほしい。 
 
 
◆西修(駒澤大学名誉教授) 
 この法案は「戦争法案」ではなく「戦争抑止法案」だ。憲法の平和条項と安全保障体制(集団的自衛権を含む)は矛盾しないどころか、両輪だ。 
 枝野民主党幹事長は「そもそも、個別的自衛権か集団的自衛権かという二元論で語ること自体、おかしな話です。そんな議論を行っているのは、日本の政治家や学者くらいでしょう」(『文藝春秋』2013年10月号)と。これを強く重く感じる。 
 集団的自衛権の目的は「抑止効果」であり、その本質は「抑止効果に基づく自国防衛」である。我が国は、国連に加盟するにあたり、何らの留保も付さなかった。国連憲章第51条を受け入れたとみるのが常識的だ。個別的自衛権にしろ、集団的自衛権にしろ、その行使は政策判断上の問題。今回の安全保障関連法案は、「新3要件」など、限定的な集団的自衛権の行使容認であり、明白に憲法の許容範囲である。 
 188の成文憲法典を調べたが、平和条項を持つのは158ヵ国。一方で平和を謳い、一方で国防をきちんとやるのが世界の大勢。1990年代以降に制定された102ヵ国の憲法中、国家緊急事態条項を入れていない憲法は皆無。これが世界の現状だ。政府学説は国連に入った原点に帰るべきだが、それは不可能だ。そうであれば、究極の、二者択一の憲法改正の国民投票をやろうではありませんか。 
 
 
◆宮崎礼壹(法政大学法科大学院教授) 
 集団的自衛権の本質は他国防衛であり、自国への直接の侵略の排除という意味の自衛の権利とは異質な概念。集団的自衛権は各国間の評価が対立している状況でも、「同盟国」と自称する国家による介入的武力行使を容認し、恣意的で過剰な武力行使の危険をはらむ。 
 政府の憲法解釈は単なる説ではなく、それに基づいて国会も法律制定や予算承認などを積み重ねてきた。それを政府自身が覆す法案を提出するのは、法的安定性を壊すものだ。 
 砂川判決は、領土防衛の不足を補うために友好国の軍隊に駐留してもらうことも一見明白に憲法に違反するとは言えないとの主旨内容であり、他国防衛たる集団的自衛権の話が入り込む余地はない。昭和47年意見書(見解)にある「外国の武力攻撃」とは、「外国の我が国に対する武力攻撃」と読むしかない。ところが、現在の政府答弁は「「我が国に対する」と明白には書いていないから、密接な関係にある外国に対する武力攻撃も含むと読める」と強弁している。これは言わば、黒を白と言いくるめる類いと言うしかない。当時の状況のみに応じた臨時的当てはめの結果などと解する余地は全くない。 
 「自国防衛」と称して、攻撃を受けていないのに武力行使をするのは、違法とされる先制攻撃そのものだ。自国の利益と関わりない集団的自衛権などがかつて主張されたことがあったか。どの国も「死活的利益」と称して、集団的自衛権で軍を出している。集団的自衛権の行使容認は、限定的と称するものも含めて従来の政府見解とは相いれない。これを内容とする法案部分は憲法9条に違反し、速やかに撤回すべきだ。また、他国の治安維持に自衛隊を投入し、駆けつけ警護と任務遂行のための武器使用を追加するのは、停戦合意が崩れればたちまち深刻な混乱を招き、違憲の武力行使に至る恐れが大きいと憂慮する。 
 改正自衛隊法95条の2の米軍等の武器等防護も、「我が国の防衛力を構成する重要な物的手段だ」との評価に重大な疑問があり、事前の回避義務、事後追撃禁止の条件を米軍自体に約束させることが前提でなければ、武器防護は容易に違憲の武力行使に至る恐れがある。 
 
 
◆森本敏(拓殖大学特任教授) 
 2006年頃から東アジアに構造的な変化が起きている。北朝鮮は3回の核実験を行い、数回ミサイル発射をしてきた。核兵器がどの程度ミサイルの弾頭部分に搭載可能か、定かではない。安全保障は最悪の事態に備えて抑止をどう効かせるかというもの。中国は2008年、アメリカに太平洋2分割を提案し、毎年外洋に出てくる範囲を拡大している。 
 こうした安保環境の変容だけではなく、もう一つの要請により、日本は役割・機能分担を決断した。日米安保のもとで、日本は米国が攻撃されても防衛義務を負わない。この片務性の解消が大きなテーマとなってきた。現行で完全でなくとも、役割分担できないかというのがガイドライン見直しの理由であり、日本がリーダーシップを発揮するため、今までにない役割を担おうとしたことが安保法制の大きな背後要因だった。 
 しかし、法律を作るためにできた新しい用語や定義が国民の間に浸透しておらず、国会審議でどうわかりやすく説明していただけるかが審議の大きな課題だ。 
 今の法体系では周辺諸国の脅威に対応する体制ができていない。従来の法解釈の下で日本がやれたことでは、もはやアメリカと一緒になって抑止力を有効に発揮できないような実態が現に生まれているし、今後もっとこれが深刻になる。アメリカのリバランス政策をどう補完し、この地域の抑止と対応の能力をつけることができるかが安保法制の最も重要な命題だ。 
 
 
<参考人に対する質疑> 
 
◆柿沢未途(維新) 
 この参考人質疑は採決の前提や一里塚としての位置づけとは全く違う。共同通信の世論調査では、政府が「十分説明していると思わない」が84%、法案に「反対」が58%、聞けば聞くほどわからない。数で押し切り、形式的に採決することは許されない。2回、3回と参考人質疑を積み上げていきたいがそれでいいか。 
 
◆浜田靖一委員長(自民) 
 法案の議論を深めるための参考人質疑であり、当然のごとく、必要があればさせていただく。 
 
◆柿沢未途(維新) 
 朝鮮有事の際の米艦船の防護やどこに向かうかわからない弾道ミサイルを撃ち落とすことは必要だが、集団的自衛権を根拠にする必要はない。維新の党は昨年9月の結党時の見解で「自衛権の再定義」とのコンセプトを打ち出した。今回の安保法制に対しては独自案として、「日本の防衛に資する活動を行っている他国の軍・部隊が武力攻撃を受けた場合であって、これを排除しないと我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫すると認められるに至った時」に我が国防衛のための事態対処として武力行使が可能になる、という厳格な要件づけを検討している。こういう整理であれば、新3要件のような拡大解釈の余地や憲法適合性への深刻な疑義はなくなる。こうした整理が妥当かと思うがどうか。 
 
◆小林節 
 私自身も元々そういう整理をしてきており、全く同感です。 
 
◆阪田雅裕 
 大変大事なポイントだが、我が国への武力攻撃がない状態での武力行使は、宣戦布告であり、敵になること。それをやらないと本当に守れないのか、やったことでむしろ相手が我が国本土を攻撃できることになる。そうしたリスクを十分考えるべき。そのうえで、今までやらなくてよかったことをなぜやるのか、きちんと説明されることが大前提だ。 
 
◆遠山清彦(公明) 
 新3要件では「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」のあとに、「これにより」我が国の存立が脅かされ、とある。因果関係を明確にしており、現行憲法下でとり得る自衛の措置の限界を明らかにした。これは今までの憲法解釈と論理的整合性があると思うがどうか。 
 
◆阪田雅裕 
 他国への攻撃によって何が侵害されるかがポイント。「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される」というのは、我が国自身への武力攻撃が起きない限り起こり得ない。そこをはっきりさせていただきたい。油が入りにくくなった、備蓄が少なくなった、そんな話まで入るなら、満州事変の時の「自衛」と同じになる。どうしても必要なら、それができる憲法に変えるのが政治の王道だ。 
 
◆赤嶺政賢(共産) 
 3人の憲法学者の違憲発言や学者、知識人、旧自民党、自衛隊OBなどから、立場の違いを超えて反対の声が大きくなっている。そのことをどう思われるか。 
 
◆小林節 
 宅急便のおじさんやタクシー運転手から声をかけられたり、街で高齢の女性が寄ってきて握手を求められたり、色紙を書いてくれと言われるなど、生活感覚で「異常」なことが起きている。 
 
◆赤嶺政賢(共産) 
 今回、日本への武力攻撃がなくても武力行使ができるようになるが、これは従来の憲法解釈からは導き出せないと思うがどうか。 
 
◆阪田雅裕 
 私は宮崎参考人とは少し違って、本当に限定的で十分に説明ができるなら、従来の憲法解釈の論理から導き出せないものではないと思う。しかし、憲法には「交戦権がない」と明確に書いてある。だから、攻められても敵の侵略を排除するための必要最小限の実力行使しかできない。今回の集団的自衛権の行使は、外国で戦うことを意味する。武力攻撃事態法を見ると、存立危機事態で「政府は速やかに集結させなければならない」とある。それは戦争に勝つことであり、最大限の武力行使をしなければならなくなるのではないか。 
 
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<特別版 第7号(6月19日の審議録など)はこちら> 
http://www.sjmk.org/?page_id=247 
 
<特別版 第6号(6月15日の審議録など)はこちら> 
http://www.sjmk.org/?page_id=241 
 
<特別版 第5号(6月12日の審議録など)はこちら> 
http://www.sjmk.org/?page_id=239 
 
<2つの政府見解に関するコメント> 
 6月10日 川崎哲(集団的自衛権問題研究会代表) 
http://www.sjmk.org/?page_id=217 
 
<特別版 第4号(6月10日の審議録など)はこちら> 
http://www.sjmk.org/?page_id=226 
 
<特別版 第3号(政府見解等を掲載)はこちら> 
http://www.sjmk.org/?page_id=207 
 
<特別版 第2号(6月5日の審議録)はこちら> 
http://www.sjmk.org/?page_id=187 
 
<特別版 第1号(6月1日の審議録)はこちら> 
http://www.sjmk.org/?page_id=136 
 
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発行:集団的自衛権問題研究会 
  代表・発行人:川崎哲 
  News&Review特別版 編集長:杉原浩司 
http://www.sjmk.org/ 
ツイッター https://twitter.com/shumonken/ 
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 <本研究会のご紹介> 
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◇『世界』7月号、6月号に当研究会の論考が掲載されました。 
 http://www.sjmk.org/?p=194 
 http://www.sjmk.org/?p=118 


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