2015年07月18日11時14分掲載  無料記事
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沖縄/日米安保

新外交イニシアティブ(ND)訪米報告会(1)〜辺野古移設反対要請に対する米国会議員らの反応〜

 沖縄県の翁長雄志知事は7月16日、世界一危険な基地と呼ばれる在日米軍海兵隊「普天間飛行場」(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古区に県内移設する計画をめぐり、仲井眞弘多前沖縄県知事による辺野古沿岸部の埋め立て承認の妥当性を検証していた第三者委員会(委員長:大城浩弁護士)から「国の埋め立て承認申請や沖縄県の承認手続きに法的瑕疵(かし)があった」とする検証結果をまとめた報告書を受け取った。翁長知事は、第三者委員会からの報告を受けて、埋め立て承認を取り消す方向で検討に入るという。 
 沖縄世論の後押しを受けて県内移設を阻止するべく奮闘する翁長知事は、今年6月初旬にはアメリカへ乗り込み、米上下両院の国会議員らと面談して辺野古移設の断念と普天間飛行場の早期閉鎖・返還を訴えている。 
 この訪米の評価をめぐっては、沖縄2大紙(琉球新報・沖縄タイムス)は「大きな成果があった」と報じる一方、本土の大手紙は「冷遇された」と否定的に報じ、どう判断して良いのか分かりづらかったのだが、この疑問を「新外交イニシアティブ」(ND)事務局長の猿田佐世さんが分かり易く解説してくれた。 
 
 2013年8月に設立されてから間もなく設立2周年を迎えるNDは、東京とワシントンを中心に、日米・東アジア各国の外交に関する情報発信や政策提言、各国議会に直接多様な声を運ぶ活動に取り組む民間シンクタンクで、この間、稲嶺進名護市長の訪米コーディネート(2014年5月)、映画監督のオリバー・ストーン氏や民間中国大使を務めた丹羽宇一郎氏など著名人を招いたシンポジウム、米軍基地問題や憲法・領土問題・歴史認識問題に関する研究会、米国が日本の原子力政策に与える影響の研究や日米地位協定に関する調査・研究活動に取り組んでいる。 
 
 そのNDが7月2日、東京・永田町の衆議院第一議員会館において訪米報告会「『米国に声を伝える』−沖縄訪米団による訪米行動を終えて−」を開催した。 
 NDは今回、翁長知事一行とは別に、国会議員の糸数慶子参院議員や那覇市長、読谷村長、沖縄県議、那覇市議、沖縄経済界の方々など総勢約30人からなる「沖縄訪米団」のワシントン行動(6月1〜3日)について企画同行を担当している。 
 猿田事務局長によると、沖縄訪米団から企画の依頼が来たのが訪米1週間前、しかもその時点で30人の内訳が確定していないという依頼を受ける側としては不利な状況であったそうだが、猿田事務局長を始め若手スタッフたちが睡眠時間を削って準備に奔走した結果、ワシントンではアメリカ連邦議会の軍事委員会、外交委員会、歳出委員会の各関係者を中心に、下院議員15名、上院補佐官6名、下院補佐官23名、ブルッキングス研究所でのラウンドテーブルを含むシンクタンク等10件もの面談を実現させている。日本の国会議員が訪米しても米国会議員本人には簡単に会えないと聞くが、そういう状況において15人もの議員本人との面談が入ったのは驚異的であり、沖縄訪米団や同行の記者からもNDの実力に対して感嘆の声が上がったそうだ。 
 
 訪米報告会では、まず始めに沖縄訪米団の1員である糸数参院議員が「沖縄における米軍基地の状況を細かく説明しても、分からない人が随分多くいらっしゃいました」「面談のとば口から『取り敢えず要請書を受け取りましょう』と言う補佐官や、私たちの顔を全く見ずに数分経ったら『要請書は議員にちゃんと渡します』と言う補佐官もいて、対応は様々でした」などと語りながら、面談相手の反応等を報告した。 
「デビン・ニューネス下院議員(共和党、米下院「親日議員連盟」メンバー)は『沖縄の人が抱く差別的感情は別として、軍事的に沖縄の位置は重要で、沖縄に基地を置かないと中国がアジア全体を支配する』といった中国脅威論を持ち出していました。私たちが驚いたのは、彼の発言の中に日本でよく聞く日本政府の言い方、つまり『辺野古以外に選択肢は無い』という表現があったことでした。私たちがアメリカに行く前に、既に日本の外務省がアメリカの主だった人たちに話を刷り込んでいたのでしょう。上院議員であれ、下院議員であれ、議員のスタッフであれ、皆が刷り込まれたかのように、判で押したように同じ言葉が出てきたのです。そして、2つ目には『辺野古が駄目だったら、皆さんとしてはどの場所がいいですか。対案を出すのが当然でしょう』と言っていました」 
 
「マーク・タカノ下院議員(民主党)は『以前に辺野古の基地を見たことがありますが、あの海を埋め立てて滑走路を作ることは理解しがたい』と仰っていました」 
 
「私はこれまで何度もアメリカに行っていますが、今のハワイ州知事である沖縄県系3世のデービッド・ユタカ・イゲ氏は『やはり国が決めることで、州が話を引き取ることは出来ません』と仰っています。メイジー・ヒロノ上院議員(民主党)らハワイ選出の国会議員も、今は同じようなことを仰っている状況です」 
 
「スティーブン・ウォーマック下院議員(共和党)にもいろいろと話をしましたが、彼には『テニアンを含むマリアナ諸島も女性に対する性暴力の問題とか、騒音の問題とか、環境が汚染されているといった同じような問題を抱えているので、沖縄の人たちの気持ちはよく分かりますが、だからと言って、自分たちが沖縄と全く同じ立場に立って、沖縄に新基地は作らせませんとは一概に言えません。自分たちには沖縄の基地をどうするかについて、はっきりとした答えは出せないのです』と言われました」 
 
「私たちが今回訪米した最大のポイントは、アメリカ下院議会を今年5月に通過した国防権限法の中に『辺野古が唯一の選択肢』という文言が入っていたことから、この条文を取り除くことでした。ジェームズ・インホヘ上院議員(共和党)の補佐官と面談した際、『これから上院で国防権限法が審議される場合には、是非その文言を削ってほしい』と強く申し上げましたが、同補佐官からは『これから審議していくけれども、移転先を全く無視した状態で法案を通してしまうか、移転先を具体的に議論するかは、上院は下院と審議の仕方が違うのでまだ分からない』と言われました」 
 
「沖縄経済について尋ねられた際、私が『これまでは基地からの収入がかなり多かったのですが、今や基地収入が沖縄経済を支えているのはわずか5パーセントであって、観光収入が15パーセントになっています』と沖縄の県内総生産の状況を伝えたところ、カリフォルニア州選出の議員の中には『カリフォルニアも観光がとても大事なので、どうすれば観光でそれだけの収入が上げられるか逆に教えてほしい』と尋ねてくるくらい、沖縄に関心を持ってくれる人もいました」 
 
「パトリック・クローニン氏(新アメリカ安全保障センター)などシンクタンク研究員とも面談しました。彼らの全員が私たちと同じ歩調で進もうという訳ではありません。彼らはアメリカ政府からの意向を受けて研究しているので、第一はアメリカの利益という姿勢ですが、そういう人たちの中から逆に『19年経っても辺野古新基地が作れないのは何故なのですか』と質問してくることもありました」 
 
 そして最後に、糸数議員は今回の訪米は大きな成果があったと強調した。 
「私は県議会議員時代から含めると、これまで10回程訪米してきましたが、今までは議員やシンクタンクに要請文だけ渡して帰っていくという方法だったので、ほとんどの面談相手から『それは東京の問題でしょ』と言われて追い返されることが多くありました。私たちの訪米の仕方にも問題があったと思うのですが、今回はNDが関わってくれたこともあって、米メディアそして一般市民への浸透度合いも違いましたし、アメリカの著名な方々を含め、私たちと一緒に辺野古の海を守っていこうとする動きが多くのアメリカ人の間で広がるなど、今回の訪米はこれまでと全く様子が違うものとなりました」(つづく) 


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