2015年07月27日16時07分掲載  無料記事
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政治

参院論戦2 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜在外邦人の「保護措置」について〜

  参院で今日から質疑応答が始まる安保関連法案、正式名称「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」です。これを無手勝流ですが、読んでみたいと思います。 
 
  昨日は自衛隊法の改正の要素の1つが、在外邦人の保護措置であることを紹介しました。自衛隊法84条を改正するものです。 
  それは単に外国で危機に直面した邦人を「輸送」するだけでなく、<外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置(輸送を含む。以下「保護措置」という。)を行う>というように、警護・救出などの作業を認めるものです。そこでは武器の使用も容認されることになっています。これに関連して、保護措置の際の責任問題を扱う自衛隊法94条にも変化を加えています。 
 
 内閣から提出された改正文は以下です。 
 
< (在外邦人等の保護措置の際の権限) 
第九十四条の五 第八十四条の三第一項の規定により外国の領域において保護措置を行う職務に従事する自衛官は、同項第一号及び第二号のいずれにも該当する場合であつて、その職務を行うに際し、自己若しくは当該保護措置の対象である邦人若しくはその他の保護対象者の生命若しくは身体の防護又はその職務を妨害する行為の排除のためやむを得ない必要があると認める相当の理由があるときは、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。 
 2 第八十九条第二項の規定は、前項の規定により自衛官が武器を使用する場合について準用する。 
 3 第一項に規定する自衛官は、第八十四条の三第一項第一号に該当しない場合であつても、その職務を行うに際し、自己若しくは自己と共に当該職務に従事する隊員又はその職務を行うに伴い自己の管理の下に入つた者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条又は第三十七条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。 > 
 
 
  もともとの自衛隊法94条の5は次のようなものです。 
 
<(在外邦人等の輸送の際の権限) 
第九十四条の五  第八十四条の三第一項の規定により外国の領域において同項の輸送の職務に従事する自衛官は、当該輸送に用いる航空機、船舶若しくは車両の所在する場所、輸送対象者(当該自衛官の管理の下に入つた当該輸送の対象である邦人又は同項後段の規定により同乗させる者をいう。以下この条において同じ。)を当該航空機、船舶若しくは車両まで誘導する経路、輸送対象者が当該航空機、船舶若しくは車両に乗り込むために待機している場所又は輸送経路の状況の確認その他の当該車両の所在する場所を離れて行う当該車両による輸送の実施に必要な業務が行われる場所においてその職務を行うに際し、自己若しくは自己と共に当該輸送の職務に従事する隊員又は輸送対象者その他その職務を行うに伴い自己の管理の下に入つた者の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。> 
 
  タイトルに明瞭なように、もともとの自衛隊法では輸送の際に必要があれば<その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる>とされます。その際<ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。>と制約を設けています。 
 
 刑法36条は「正当防衛」の規定です。 
 
< 1、急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。 
  2、防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。> 
 
  刑法37条は「緊急避難」の規定です。 
 
<1、自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。 
 2、前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。> 
 
  現在の自衛隊法では輸送において敵の危険にさらされ、刑法の規定の正当防衛か緊急避難に該当すれば武器を使用して応戦して敵を殺傷しても良いことになります。一方、改正案の場合は輸送任務だけでなく、それ以前に在外邦人を救出するオペレーションが認められ、その際、武器を使用して敵を殺傷してもよいことになります。その際、同じく刑法の正当防衛と緊急避難が適用されることになっています。 
 
  しかし、<外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出>という今回自衛隊員に加えられようとしている任務においては正当防衛や緊急避難をどのように適用するのか、日本国内で起きている刑事事件とは異なるシチュエーションも出てくるのではないでしょうか。まず武器を使用するのが武装した自衛隊であり、戦闘訓練を行っている部隊であることです。普通の民家に強盗が押し入ったので家人が包丁やバットで応戦するのとは異なるでしょう。邦人の危機を救うために、敵の陣営を突破していくケースが想定されるのではないでしょうか。その場合の正当防衛や緊急避難というのは邦人が危機に陥っている事態が先行して起きていれば、それだけで自衛隊員が武器使用してもOKということになるのではないでしょうか。そうなると、どの国でも日本人が人質に取られたり、包囲されたりする事態が発生すれば自衛隊が出動して作戦を実行できるようになるでしょう。 
 
  これは前提としてその国の「権限ある当局」が治安活動を現に行っていることと、その承認を得ることが改正された84条で求められることになります。これは何を意味しているのか、というと集団的自衛権の発動という意味ではないでしょうか。 
 
  また、自衛隊の救援活動が国際紛争の一環としての戦闘を行うのではないことも前提とされます。 
 
  しかし、そうは言っても、たとえばシリアやイラクでは「権限ある当局」の支配地域は日々狭まっており、イスラム武装勢力の支配域が拡大しています。邦人救出任務が高い確率で発生しうるのはこうした紛争地域です。その地の「権限ある当局」が治安活動をしていると言っても、刻々と支配域は変わり、状況が変わっていきます。国際紛争に参加するのではないと言っても、そうした地域で自衛隊が武器を使用して、邦人救出を行えば国際紛争に発展する可能性があります。 
 
  そして、その邦人救出のオペレーションによって、敵勢力から宣戦布告された場合、仮に日本国内が攻撃されなくても、外国に暮らす邦人が狙われる可能性もあります。たとえばイスラム原理主義勢力が世界各地で連携していることを考えると、ある国で事件が起き、そこで自衛隊との戦闘が起きたとしても、邦人への報復攻撃がその他の国や地域で起きる可能性もあります。実際、フランス人はその経験をしています。1つの救出行為がさらに次の事件を発生させる可能性はどう考えるのか。 
 
  現在、外務省によると、在外邦人は戦後の復興以後、最高の人数となり、次のような数字になっています。 
 
   「平成26年(2014年)10月1日現在の集計で、わが国の領土外に在留する邦人(日本人)の総数は、129万175人で、前年より3万1,912人(約2.54%)の増加となり、本統計を開始した昭和43年以降最多となりました」 
 
  在外邦人は129万人存在しています。これらの在外邦人の安全を確保するのは日本国の任務です。その場合、個々のシチュエーションに対処する必要があるのは当然ですが、長期的、かつ大局的に見た安全政策も問われてくるはずです。外務省は在外邦人統計に次のような注をつけています。 
 
 「【注2】 アフガニスタン、イラク及びシリアについては、在留邦人の安全上の理由から邦人数等の公表を差し控えており、本統計には含まれていません。」 
 
  数字を発表できないくらい、中東での在外邦人は潜在する危険にさらされていることを意味します。この場合に、在外邦人を守るためには迂闊に武装勢力を刺激する発言を政治家がしないことが要求されることは言うまでもありません。迂闊な発言によって在外邦人が人質に取られ、処刑される可能性があるからです。その場合でも、自衛隊が今後、救出作業を行って戦闘行為が発生すると、そこで起きるのは憎しみの連鎖です。憎しみの連鎖に陥ってしまうと、簡単に戦闘が終われなくなってしまいます。こちらがやめようと思っても、殺された先方がやめることができなくなるからです。 
 
 
■総務省行政管理局の法令データベース。 
憲法も法律もその他の様々な法令もデータベースにあります。以下のリンクがそうです。 
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/idxsearch.cgi 
 
■「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 
法案は次の参議院のウェブサイトに全文が書かれています。 
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/pdf/t031890721890.pdf 
 
■自衛隊法 
改正されようとしているもともとの自衛隊法のリンクがこちらです。 
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S29/S29HO165.html#100000000000100000000000 


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