2015年07月27日21時51分掲載  無料記事
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政治

参院論戦3 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜周辺事態と重要影響事態〜

  今、参院で議論されている「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」ですが、よく読むと改正されるのは<自衛隊法等の一部>という風に「等」という言葉が入っています。改正の対象は自衛隊法だけではなかったのです。 
 
 たとえばこれです。 
 
「周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成十一年五月二十八日法律第六十号) 
最終改正年月日:平成一九年六月八日法律第八〇号」 
 
  いわゆる周辺事態法で1999年に制定され、最後に改定されたのは8年前。その最終バージョンでは目的を示した第一条は次のようになっています。 
 
<(目的) 
第一条 
 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「周辺事態」という。)に対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。> 
 
  読めばわかるように、今すぐに攻撃されているわけではなくても、放置しておくと日本が危険になったり、日本の平和や安全に重要な影響を与える事態を「周辺事態」と命名し、これに日本がどう対処するか、また日米同盟のもとでどう連携するかを決めた法律です。その第一条が今、集団的自衛権のもとで次のように変わろうとしています。 
 
 <(周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律の一部改正) 
 第三条 周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(平成十一年法律第六十号)の一部を次のように改正する。題名を次のように改める。 
 
  重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 
 
第一条中「我が国周辺の地域における」を削り、「周辺事態」を「重要影響事態」に、「対応して我が国が実施する措置、その実施の手続その他の必要な事項を定め」を「際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより」に、「寄与し」を「寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し」に改める。> 
 
  もとの周辺事態法と比べれば一目瞭然、「周辺事態」を「重要影響事態」に改めようとしています。日本の「周辺」という地理的制約を一切はずす、ということでしょう。日本に重要な影響を与える事態が起きれば世界中どこでも自衛隊が出かけることを意味します。 
 
  集団的自衛権のもとで日本の領域外に出た自衛隊はもともとの周辺事態法で想定された日本の領土やその周辺地域における個別的自衛権の場合とは行動を異にする必要があります。第一条の改正案は次のようなものです。 
 
 「この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「重要影響事態」という。)に際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。」 
 
  改正案がいちいち細かく切り張りになっているので、よほど注意しないと改正されてどんな文章になるのか、さっぱり不明です。そして、切り貼りしてみたら、上のようななんとも理解しづらい悪文ではありませんか。そこで、骨子を抜き出してみましょう。 
 
<1、自衛隊が米軍やその他、外国軍の後方支援活動などを行う 
 
   (ことによって) 
 
2、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化 
 
  (して) 
 
3、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする> 
 
  圧倒的にわかりにくいのは2でしょう。狙いを筆者なりに解釈してみれば中核はあくまで日米安保、日米協力であり、<外国との連携はその日米同盟に寄与することを中核とする>、ものだということ。つまり、自衛隊の外国軍に対する連携(後方支援等)はあくまで日米同盟に寄与することが肝心であること、と受け取れます。 
 
  いったい、なぜこんなわかりにくい文章を書いたのでしょうか。想像ですが、外国との連携と米国との同盟との主従関係があからさまにわからないように、文章の順番を入れ替えたのではないかな、と思われます。アメリカの「平和」、パックスアメリカーナに寄与する限りにおいてのみ、外国軍の後方支援活動などを自衛隊は行いますよ、と宣言しているわけです。というのも言うまでもなく、事実としては日米同盟の主は米国であるからです。逆に言えば米国の意思に反して、日本が独自の判断で外国軍に対する後方支援活動を行うことはありません、と言っているようなものです。 
 
 
■我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案 
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/pdf/t031890721890.pdf 
 
■周辺事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/strsearch.cgi 
 
■参院論戦1 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 それは自衛隊法の改正である 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507261839570 
 
 
■参院論戦2 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜在外邦人の「保護措置」について〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507271607251 


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