2015年07月28日11時58分掲載  無料記事
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政治

参院論戦4 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜存立危機事態〜 国家総動員体制と人権が制限される可能性

  今、参院で論戦している安保関連法案 =「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」は昨日触れましたが、「自衛隊法等」と「等」の字があるように、自衛隊法だけでなく、その他の関連する特別法も集団的自衛権の行使を前提として書き直されています。安保関連法案にはたとえば次のような表現があります。 
 
 <(武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律の一部改正)> 
 
  そこで改正されようとするこの法律はそもそもどんな法律かと総務省のデータベースで検索してみると、「武力攻撃事態等における」を冠する特別法がたくさん出てきました。「武力攻撃事態等におけるアメリカ合衆国の軍隊の行動に伴い我が国が実施する措置に関する法律」とか、「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律施行令」とか、「武力攻撃事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律」などです。いずれも冒頭に「武力攻撃事態等」という言葉がついていますが、これらはいずれも従来の個別的自衛権のもとに作られた法律です。そして、今、探していたものは以下の法律です。これがこの箇所で修正されようとしているものです。 
 
  「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律 
(平成十五年六月十三日法律 第七十九号) 
最終改正年月日:平成一八年一二月二二日 法律 第一一八号」 
 
  これは平成15年、今から12年前=2003年に制定されたものです。その頃の世相を思い返してみると、イラク戦争が始まったのがこの年の3月でした。それから3ヶ月後に制定されています。何のためにこの特別法を制定したのか、最初の(目的)のところに書かれています。 
 
 <(目的) 
第一条 
 この法律は、武力攻撃事態等(武力攻撃事態及び武力攻撃予測事態をいう。以下同じ。)への対処について、基本理念、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の基本となる事項を定めることにより、武力攻撃事態等への対処のための態勢を整備し、併せて武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め、もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。> 
 
  ここで目に付くのは武力攻撃事態等 = 武力攻撃事態 & 武力攻撃予測事態 というところです。武力攻撃だけではないというところがポイントです。第二条にそれぞれについて触れています。 
 
<二 武力攻撃事態  武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態をいう。 
三 武力攻撃予測事態  武力攻撃事態には至っていないが、事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態をいう> 
 
  読むとわかるとおり、まだ攻撃されていなくても攻撃される危険性が生じた場合に対処することがこの法律のねらいであることがわかります。ただし、武力攻撃予測事態は「明白な危険が切迫してい」なくても、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」であります。「予測」というのは当たったり、外れたりするもので、武力攻撃事態よりもより直接の武力攻撃からは遠い事態と言えます。では、こうした事態にそなえて何をせよ、と言うのかが次に触れられています。 
 
<(武力攻撃事態等への対処に関する基本理念) 
第三条 
 武力攻撃事態等への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない。> 
 
  国と地方公共団体、指定公共機関が国民の協力を得て、互いに連携して対策を取る、というものです。まだ武力攻撃されていなくても、その危険性が出たと国が認めた段階で、国も、地方公共団体も、指定公共機関も、国民も一丸となって危険に対処せよ、というものです。いわゆる総動員体制です。 
 
  では、今回、この「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」がどう改正されようとしているのでしょうか。以下は改正案の抜粋です。 
 
<第五条 武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)の一部を次のように改正する。 
 
題名を次のように改める。 
武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律> 
 
  武力攻撃事態等( = 武力攻撃事態 & 武力攻撃予測事態) に「存立危機事態」を加えています。この「存立危機事態」とはなんだ?というのが衆院でも議論となったものです。 
 
<第二条中「この法律」の下に「(第一号に掲げる用語にあっては、第四号及び第八号ハ(1)を除く。)」を加え、同条第七号イ(2)中「及びアメリカ合衆国」を「、アメリカ合衆国」に改め、「必要な行動」の下に「及びその他の外国の軍隊が実施する自衛隊と協力して武力攻撃を排除するために必要な行動」を加え、同号に次のように加える。> 
 
  と続くのはこれだけ読んでもわかりませんが、改正されようとする法律のもとの条文(第七号の箇所)は以下です。 
 
<七 対処措置 第九条第一項の対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が法律の規定に基づいて実施する次に掲げる措置をいう。 
  イ 武力攻撃事態等を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置 
  (1) 武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動 
  (2) (1)に掲げる自衛隊の行動及びアメリカ合衆国の軍隊が実施する日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)に従って武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設又は役務の提供その他の措置 > 
 
 もとの条文では個別的自衛権と米軍との安全保障条約をもとにした条文になっていて、武力攻撃事態等に対処するために米軍と円滑な協力をせよ、という趣旨になっています。ここに改正される文言を切り貼りすると以下になります。 
 
<七 対処措置 第九条第一項の対処基本方針が定められてから廃止されるまでの間に、指定行政機関、地方公共団体又は指定公共機関が法律の規定に基づいて実施する次に掲げる措置をいう。 
  イ 武力攻撃事態等を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置 
  (1) 武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動 
  (2) (1)に掲げる自衛隊の行動、アメリカ合衆国の軍隊が実施する日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)に従って武力攻撃を排除するために必要な行動及びその他の外国の軍隊が実施する自衛隊と協力して武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設又は役務の提供その他の措置 > 
 
  存立危機事態という概念が加わって、個別的自衛権から集団的自衛権に広がったことから、日米安保条約を越えて、米国以外の国とも軍事協力ができるようになることを意味しています。そして、そのために国、地方自治体、指定公共機関そして国民は自衛隊のみならず、米軍や外国軍との連携協力を求められることになります。遠いホルムズ海峡であろうと、北極海であろうと、ガルフ湾であろうと、ひとたび何かが起きて「存立危機事態」ということを政府が宣言すれば国中が総動員体制となるわけでしょう。民間企業だからと言って、自由に営業できるとは限らなくなります。おびただしい臨時の規制が敷かれることが予測されます。物価統制も行われる可能性があります。 
 
  さらに、改正しようとするもともとの「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」には人権の制限が条文に盛り込まれているのです。 
 
 <武力攻撃事態等への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合にあっても、その制限は当該武力攻撃事態等に対処するため必要最小限のものに限られ、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない。この場合において、日本国憲法第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。> 
 
 この条文は(武力攻撃事態等への対処に関する基本理念)=第三条に書かれているもので、この見出しは今回の改正によって(武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処に関する基本理念)と変わろうとしています。そして、上の項目は第三条の4です。この4の条文では改正案の文言に存立危機事態は加えられていません。ですから、人権制限の可能性を存立危機事態の場合から削ったのかもしれません。 
  ただし、国や地方公共団体や公共機関および国民の協力を定めた第三条の1 = 「武力攻撃事態等への対処においては、国、地方公共団体及び指定公共機関が、国民の協力を得つつ、相互に連携協力し、万全の措置が講じられなければならない」に「存立危機事態」という文言が改正によって盛り込まれる結果、存立危機事態になると、国民も協力を要請されることになります。その場合に、4における人権の規定とどう絡んでくるのでしょうか。第三条の1で国民の協力が要請されていますから、人権はそれによって制限されることがすでに暗黙のうちに盛り込まれていて、逆に第三条の4は人権制限は必要最小限でなくてはならない、と言っているのかもしれません。ということならやはり人権が制限される可能性が大いにあると読めます。ここの解釈も参院の争点になるのではないでしょうか。 
 
  さらに特定秘密保護法との関係もあり、国内の事情であっても報道規制も敷かれると予測されます。 
 
  存立危機事態に関して、改正案では続けてこう触れられています。 
 
<ハ 存立危機事態を終結させるためにその推移に応じて実施する次に掲げる措置 
(1) 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの(以下「存立危機武力攻撃」という。)を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動 
(2) (1)に掲げる自衛隊の行動及び外国の軍隊が実施する自衛隊と協力して存立危機武力攻撃を排除するために必要な行動が円滑かつ効果的に行われるために実施する物品、施設又は役務の提供その他の措置 
(3) (1)及び(2)に掲げるもののほか、外交上の措置その他の措置 
ニ 存立危機武力攻撃による深刻かつ重大な影響から国民の生命、身体及び財産を保護するため、又は存立危機武力攻撃が国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合において当該影響が最小となるようにするために存立危機事態の推移に応じて実施する公共的な施設の保安の確保、生活関連物資等の安定供給その他の措置 
第二条中第七号を第八号とし、第四号から第六号までを一号ずつ繰り下げ、第三号の次に次の一号を加える。 
四 存立危機事態 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態をいう。 
第三条の見出し及び同条第一項中「武力攻撃事態等」の下に「及び存立危機事態」を加え、同条第六項中「武力攻撃事態等」の下に「及び存立危機事態」を加え、「協力しつつ」を「協力するほか、関係する外国との協力を緊密にしつつ」にめ、同項を同条第七項とし、同条第五項中「においては」を「及び存立危機事態においては」に、「これ」を「存立危機事態並びにこれら」に改め、同項を同条第六項とし、同条第四項中「武力攻撃事態等」の下に「及び存立危機事態」を加え、同項を同条第五項とし、同条第三項の次に次の一項を加える。 
4 存立危機事態においては、存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない。 
第四条中「武力攻撃事態等」の下に「及び存立危機事態」を加え、「すべて」を「全て」に改め、同条に次の一項を加える。 
2 国は、前項の責務を果たすため、武力攻撃事態等及び存立危機事態への円滑かつ効果的な対処が可能となるよう、関係機関が行うこれらの事態への対処についての訓練その他の関係機関相互の緊密な連携協力の確保に資する施策を実施するものとする。 
第八条中「かんがみ」を「鑑み」に改め、「指定公共機関が」の下に「武力攻撃事態等において」を加える。 
第二章の章名中「武力攻撃事態等」の下に「及び存立危機事態」を加える。 
第九条第一項中「武力攻撃事態等」の下に「又は存立危機事態」を加え、同条第二項第一号を次のように改める。 
一 対処すべき事態に関する次に掲げる事項 
イ 事態の経緯、事態が武力攻撃事態であること、武力攻撃予測事態であること又は存立危機事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実 
ロ 事態が武力攻撃事態又は存立危機事態であると認定する場合にあっては、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がなく、事態に対処するため武力の行使が必要であると認められる理由 
・・・・・> 
 
  ここで存立危機事態とは日本と「密接な関係」にある国に対する武力攻撃が起きて、その結果、日本の<存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの(=「存立危機武力攻撃」)>とされています。存立危機武力攻撃とは日本と「密接な関係」にある外国に対する攻撃を指すことがわかりました。その国が武力攻撃を受けたことで、「日本人の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」とはいったいどんな事態なのでしょうか?これも衆院で議論された箇所です。 
 
  そして、このもともとの法律の趣旨が日本への直接の武力攻撃だけではなく、その危険が迫ったときや危険が予測されるときは国、地方自治体、指定公共機関、国民は一致団結して連携協力せよ、ということでした。ですから、遠い外国で「存立危機事態」が発生しても、日本国内でそれに対処するための総動員体制が敷かれることを意味します。自衛隊が単に遠方に派遣される、というようなことではありません。サッカーの日本チームの遠征などとはまったく違って、日本国内が戦時非常体制になって政府と自衛隊によって国民生活も統制される可能性があります。民間鉄道会社や輸送会社による兵器の輸送や医療施設の軍事使用なども含まれるでしょう。 
 
 
■「武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」 
(平成十五年六月十三日法律 第七十九号)最終改正年月日:平成一八年一二月二二日 法律 第一一八号 
http://law.e-gov.go.jp/cgi-bin/strsearch.cgi 
 上のリンクから検索できます。 
 
■「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/189/pdf/t031890721890.pdf 
 
■参院論戦1 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」 それは自衛隊法の改正である 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507261839570 
 
 
 
■参院論戦2 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜在外邦人の「保護措置」について〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507271607251 
 
 
 
■参院論戦3 「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律案」を読む 〜周辺事態と重要影響事態〜 
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=201507272151391 


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