2015年07月29日09時56分掲載  無料記事
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政治

選挙について 〜自民党と公明党が3分の2議席を得た昨年12月の総選挙を振り返る〜 「議会制民主主義」と60日ルール

  今年第二次大戦後70年を迎える節目の年に、戦後守り続けてきた戦争放棄を国是とする方針を転換するかどうか、国会の大きな争点となっています。その安保関連法案が強行採決で衆院を通過して、議論の場が移った参院で60日間たっても、決着がつかなければ、衆院は参院が否決したとみなして、衆院で再議決して法案を可決することができます。この時、必要な票数は出席議員数の3分の2です。これは「60日ルール」と呼ばれています。 
 
  参院は良識の府と呼ばれ、衆院で通過した法案でも様々な見地から精査する役割を負った議会です。参院はそのために設置されたものです。ですから、その参院での議論を60日たったからと言って強引に打ち切って衆院で可決させることは極めて慎むべきことがらとされています。 
 
◆選挙の争点は「消費税」と言った安倍首相 
 
  衆院で与党の自民党と公明党が3分の2の議席数を確保したのが、昨年12月の衆議院議員選挙でした。この時の選挙を思い出してみると、昨年11月に筆者は日刊ベリタでこう書いています。 
 
  「年内に解散総選挙が行われる見通しになったと報道されている。安倍首相は消費税を10%に引き上げる時期の是非を国民に問う、ということで消費税が争点のようにメディアは報じている。」 
 
  昨年秋、自民党議員たちの汚職をめぐるスキャンダル報道やアベノミクスの結果がはっきりしないこと、あるいは2013年12月に制定された特定秘密保護法や2014年7月の集団的自衛権容認の閣議決定など様々な問題が蓄積した結果、安倍政権の支持率が下落し始めていました。そこへ、予想外の突然の国会解散、衆院総選挙を安倍首相が決定したのです。その時、安倍首相が持ち出したのが消費税を10%に引き上げる時期を国民に問うて、信任されるかどうかを見るというものでした。 
 
  消費税に関しては2014年春に5%から8%に引き上げられた結果、消費が落ち込んでいました。消費の低迷はアベノミクスが誘導した円安に伴う輸入物資の高騰と重なり、経済の見通しに暗い影を落としており、アベノミクスはうまくいっていないんじゃないか、という疑念も国民に広まりつつありました。そんな時、消費税の10%への引き上げは断念せよ、という声も強まっていたのです。 
 
  そこで安倍首相は消費税の引き上げ時期を1年半後に先延ばしするが、その時は何があっても必ず10%に引き上げるからそんな安倍政権を信任するかどうか、国民に問うとして総選挙に打って出たのです。この時、安倍首相から「税は議会制民主主義の基礎である」という珍しい発言までしました。これはNHKのニュースウォッチ9に安倍首相が登場して、衆院を解散する理由について話した時の言葉でした。<議会制民主主義を守るために>消費税の引き上げ時期が1年半後でよいかどうか、国民の真意を問う、としたのです。 
 
◆戦後の衆院選挙史上最低の投票率 
 
  この時の昨年12月の衆院選挙の投票率は52.66%で、衆院選挙史上、戦後最低の数字となったのです。民主党・野田政権が解散総選挙を行った2012年12月の衆院選挙の投票率は59.32%とこの時も戦後の衆院選挙史上最低でしたが、2014年12月の選挙はそれをさらに下回ったのです。二大政党制を促す小選挙区制度によって死に票が増大し、国民の投票意欲が低下していることを意味しているのではないでしょうか。 
 
  昨年12月の総選挙の場合は増税時期を1年半後にするかどうかを国民に問う、というもので、そのために巨額を投じて総選挙をする必要があるのか、と思った人も少なくありませんでした。投票率を年代別に分析すれば70代以下は年齢が下がるに比例して投票率が下がっていき、20代に至っては32.58%と3人に1人も投票していないことがわかります。 
 
  この時、多くのマスメディアではこの総選挙の真の争点が集団的自衛権や特定秘密保護法あるいは憲法改正などの重要なイシューをはらんだ選挙である、という風には報じませんでした。多くの場合、選挙の争点は消費税がシングルイシューであるかのように報じ、無意味な選挙であり、投票率は下落するとの見込みを報じていました。マスメディアの幹部の人たちが安倍首相と頻繁に会食していたことはすでに知られていることです。さらに選挙に行っても議員の名前を書かずに白票を投じるのがよい、と薦める怪しいアドバイスまでネットなどで登場していました。 
 
◆蓋を開けたら安保関連法案 
 
  あれから半年がたち、今、この国は戦後70年維持してきた戦争放棄を基本とする国の基本方針を覆す法案をめぐって国会論戦が行われています。参院で60日たっても可決できないときは衆院に戻して出席議員数の3分の2以上の賛成票で再議決できるとされています。「60日ルール」を適用した場合の参院での強制的な審議打ち切りは安倍首相が唱えた「議会制民主主義」とどう結びつくのでしょうか。消費税10%の引き上げ時期を1年半後に引き上げるかどうかで「議会制民主主義」を尊重するために総選挙を行ったことを考えると、そのバランスがはなはだ欠けているように感じられます。 
 
  今、学生を中心とする若い人達が安保関連法案に対するデモを行っています。中には昨年暮れの選挙に投票しなかった人もいるかもしれません。しかし、それを若い人の責任だけに帰すのは公平ではなく、選挙のあり方、選挙制度のあり方、さらにはそのマスメディアの報道のあり方に大きな問題があるのではないか、と思います。 
 
 
■選挙の投票率の推移(総務省) 
http://www.soumu.go.jp/senkyo/senkyo_s/news/sonota/nendaibetu/ 
 
■昨年12月の選挙結果の報道から 
「第47回衆議院選挙は12月14日に投票が行われ、即日開票された。自民・公明両党が、法案の再可決や憲法改正の発議に必要な、全体の3分の2の317議席を上回る326議席を獲得。選挙前の324議席を、2議席増やして大勝した。」(ハフィントンポスト) 
 
■「60日ルール」 (憲法59条の4) 
<憲法59条> 
1 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。 
 
2 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。 
 
3 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。 
 
4 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。 


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