2015年08月21日20時53分掲載  無料記事
http://www.nikkanberita.com/print.cgi?id=201508212053335

核・原子力

日米同盟が日本の原子力政策に与える影響とは 〜ND(新外交イニシアティブ)日米原子力エネルギープロジェクト訪米調査報告会〜

 九州電力は8月11日、原子力規制委員会のお墨付きを盾に川内原発1号機を再稼働させ、これにより約2年間続いた原発稼働ゼロの状態が終了した。 
 各大手メディアの世論調査では、原発再稼働に「反対」と回答する人が「賛成」と回答する人を大きく上回る結果が出ているのに、安倍政権を始め、日本政府が原発の稼働に固執するのは何故なのか。 
 また、原発推進派は原発の価格優位性を主張し、資源エネルギー庁(経済産業省の外局)が発表するエネルギー白書にも「原子力発電の魅力的な点は発電コストの低さ」とあるが、本当にそうなのか。 
 こうした疑問を解明しようと、民間シンクタンク「新外交イニシアティブ」(ND/New Diplomacy Initiative)は「ND日米原子力エネルギープロジェクト」を立ち上げて調査・分析を進めている。 
 
<プロジェクトの発足経緯> 
 
 ND日米原子力エネルギープロジェクトは、日本の原子力政策について、日米の同盟関係がどのような影響を与えているのかという切り口から研究するプロジェクトで、プロジェクトメンバーは今年6月4日から約1週間、ワシントンとボストンにおいて米国の原子力専門家らにインタビューを行うなどの調査を実施した。 
 このプロジェクトを始めるに至った経緯について、プロジェクトメンバーは7月31日に東京・永田町の衆議院第一議員会館で開催した訪米調査報告会で次のように説明している。 
「2012年9月、野田佳彦首相率いる民主党政権が『2030年代の原発ゼロ』の閣議決定を模索しましたが、この際に米国側からの様々な意見なり要求、すなわち米政府からの圧力があって閣議決定を見送ったのではないかという報道が当時ありました。 
 日経新聞には、当時のCSIS(戦略国際問題研究所)所長が『日本、原発ゼロ再考を』という論文を寄稿していましたし、NSC(国家安全保障会議)のマイケル・フロマン補佐官が『閣議決定することを懸念する』『プルトニウムの蓄積は国家安全保障のリスクにつながる』と発言したことや、CNAS(新米国安全保障センター)のパトリック・クローニン上級顧問が『具体的な工程もなく目標時期を示す政策は危うい』と発言したことも報じられました。 
 このように、日本政府または日本国民が2030年代までに達成しようと考えていた脱原発が、米国からの圧力によって頓挫してしまったのではないかという点について、米国が本当にそのような影響を行使したのかどうかを調査してみようということでプロジェクトが始まった次第です」 
 
<調査結果> 
 
 プロジェクトは訪米調査に当たり、 
 ‘本の原子力政策に影響力を与えるキー人物・組織を明らかにする 
◆‘本の原発・核燃料サイクルに対するアメリカの原子力専門家の見解を求める 
という2つの目的を掲げ、原子力専門家(学者、ジャーナリスト)、日米関係の専門家、元政府関係者(ホワイトハウス、エネルギー省、原子力規制委員会)を対象に、客観性を高めるべく、原発推進派と反対派の両方のバランスを取ることに努めた上で合計約30件のインタビューを実施したということだ。 
 調査に当たったND研究員の平野あつきさんは、インタビューの際に次のような質問を投げたという。 
○ 米国の原発・再処理・使用済み燃料処分等の政策の将来は? 
○ 米国が日本に原発維持を求めるのであれば、その理由は? 
○ 日本の脱原発政策は、米国の原子力産業へどのような影響を与えるのか? 
○ 日本の原子力政策に影響を与える米国のステークホルダーは誰か? 
○ 2018年の日米原子力協定改定に向けて、どのような議論が行われているのか? 
○ 米国は、日本の使用済み核燃料再処理について、どう捉えているか? 
○ プルトニウム処分で日米協力はあり得るか? 
 
 また、平野さんは日本の原子力政策に影響を与えている米国の原子力事情を説明しつつ、調査結果を次のとおり報告した。 
 .轡А璽襯ス革命、再生可能エネルギー(主に風力発電)への支援、炭素税導入の不透明さ、原発の建設・維持・廃炉にかかる膨大な費用、といった要因から、原発の将来性は経済性にかかっている。 
  原子力専門家の中にも「米国の原発は経済的でない」「電力市場の自由化に伴い、原子力の競争力は低下する見込み」という意見がある。 
◆(胴颪慮胸厠論策の最重要課題は使用済み核燃料の処理で、原発稼働と再処理は別問題として認識されている。 
 米国には、核兵器の拡散を危惧する党派を超えた「核不拡散派」という層が存在し、原子力の使用は安全保障の問題として捉えられている。 
ぁ.▲瓮螢でも放射性廃棄物の最終処分場の問題は解決していない。また、再処理は選択肢に入っていない。 
 
<「ワシントンの拡声器効果」システムと原発問題> 
 
 糸数慶子参院議員、那覇市長、読谷村長、沖縄県議、那覇市議、沖縄経済界関係者など総勢約30人からなる「沖縄訪米団」が、在日米軍海兵隊・普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)を名護市辺野古区に県内移設する計画の断念と、普天間飛行場の早期閉鎖・返還を訴える目的で行ったワシントン行動(6月1〜3日)の後、平野さんとともに現地調査に当たったND事務局長の猿田佐世弁護士は、プロジェクトを立ち上げた理由について次のように語っている。 
「私は3・11のとき、ワシントンに住んでいまして、米国が3・11をどのように受け止めているのかを多少なりとも見聞きする機会がありました。 
 その際、福島第一原発事故からそれほど時間が経たないうちに米国の政府高官などから『日本は原発も再処理も推進すべきだ』といった発言が出たことに違和感を覚えたことが、プロジェクト立ち上げに至る一番最初の端緒だったと言えます」 
 
 そして猿田弁護士は、安全保障問題や沖縄の基地問題に長年関わる中でその存在を確信したという「ワシントンの拡声器効果」システム、すなわち日本政府・大企業・一部の国会議員が、いろんな手段を通じて米国国内の数少ない知日派と呼ばれる人たちにお金や情報を提供した上で、彼らに日本に向けていろんな情報を発信してもらい、それを日本メディアが大きく取り上げることを計算に入れて、日本社会に大きくもたらされる知日派の影響力を利用して日本国内で意図する政策を実行していくという仕組みについて、原発の問題でもこのシステムが成り立つのかどうかを確認することが今回の訪米調査における挑戦であったと語るとともに、日本の原子力政策に対する米国のステークホルダー(利害関係者)として、 
 ‘本に対して最も影響力を持つ「日本専門家」 
◆(胴颪旅饑Г箸盡世錣譴覲防坡隼鏡策を支える「不拡散派」 
 米国内の原発・原子力を研究する「原発・原子力専門家」 
という3層がある中で、日本のプルトニウム蓄積を懸念する不拡散派の声が何故か日本にあまり届いていないことを指摘するとともに、米国の原子力関連企業と異なり、米政府は必ずしも日本が原発の稼働を続けることを望んではおらず、日本政府に対して原発の稼働を強く求めるようなプレッシャーは掛けていないのではないかといった視点や、いくつもの解釈が成り立つ米国のステークホルダーの意見・主張を、日本の各メディアはそれぞれ好きな形で取り上げて拡声器効果を恣意的に利用しているのではないかといった視点を紹介した。 
 
<日本の原子力専門家が感じた米国原子力政策及び関係者への印象> 
 
 NDスタッフの訪米調査に同行した長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)長の鈴木達治郎教授(元・内閣府原子力委員会委員長代理)は、プロジェクトメンバーに同行した理由を次のように語っていた。 
「原子力の問題に30年以上関わっている私が、今更アメリカに一緒に行くというのはどうかと思いましたが、原子力政策や核不拡散政策を、私たちのような原子力専門家の視点からだけでなく、日米関係という視点から見たいという猿田さんたちのご希望に対し、それはちょっと面白いなと思いましたので、現地調査への同行を引き受けました。 
 実際にアメリカに行ってみて、猿田さんや平野さんがいろいろと質問するのを端でじっと聞いていましたが、新しい視点からの質問が多くて、私自身も非常に勉強になりましたし、今回のように楽しい出張は初めてでした」 
 
 鈴木教授は、今回の訪米調査で受けた印象を次のように発表している。 
○ 核不拡散専門家の間では、党派を超えて、プルトニウム在庫量拡大に対する懸念を、ほぼ全員が共有していた。 
○ 「日本専門家」にとっては、原子力政策・再処理政策の是非を問う問題としての関心は低い。議会での関心も低い。 
○ (2018年7月に有効期間30年の満期を迎える)日米原子力協定に対する影響は、今のところ見えていない。しかし現段階で、プルトニウム在庫量問題解決への取り組みを開始しないと、日米関係のみならず国際社会からの懸念が増加するだろう。 
○ 米国エネルギー・原子力関係者は、(特に輸出面での産業協力で)日本に対する期待が高いが、プルトニウムが蓄積するような再処理政策については否定的な意見が多い。 
○ 再処理・プルトニウム問題は、日本独自の問題と考えるより、日米あるいは同様な悩みを抱えるフランス・英国等とも協力して取り組む方が信頼を得られるだろう。 
○ エネルギー政策・原子力政策は、日本国民だけではなく、米国ひいては世界に向けても説明責任があることを認識すべきである。 
 
<日本で原発のコスト問題が指摘されない理由> 
 
 質疑応答で「米国では、原発は経済的な理由から下火になっているということですが、日本の原発ではコストの問題は指摘されず、米国ではコストの問題で廃炉になっているというのは何故ですか」という参加者からの質問に対し、鈴木教授は「一般論として自由市場において原発に経済性は無いものの、実際には電力会社の経営判断で決定されていく可能性がある」と指摘した。 
「一般論として、自由市場において原発には経済性がありません。これは、シェールガスや化石燃料の値段が米国ではかなり下がっていることも関係しています。 
 ただ、既存の原発と新規の原発では経済性が大きく違いますし、既存の原発の場合でも経済性のあるものも沢山ありますので、個々の原発によって経済性はかなり違ってくる可能性があります。 
 日本で何故コスト問題が指摘されないかというと、日本では基本的に化石燃料の値段が高く、したがって一般的に『原子力は安い』という認識が出来た訳ですが、実際はどうなのかというと、残念ながら日本ではデータ公開があまり進んでいませんので把握が難しい状況です。例えば、原発の建設費がいくらというのも、あまり公開されていません。米国のように精査出来るデータが少ないことが一番問題です。 
 日本でも電力市場が自由化すると、新規の原発はなかなか建設出来ないのではないかと見られてきていますが、原発の経済性は単純化して言わない方が良く、実際には電力会社の経営判断、個々の原発の設備投資リスクによって今後は決定されていく可能性があります」 
 
<硬直した日本の原子力政策を変えるには> 
 
 最後に鈴木教授は、NDを始め、原子力専門家以外の人たちが日本の原子力政策にもっと関心を寄せてほしいと訴えた。 
「福島での原発事故により原子力への関心がワッと広がった訳ですが、NDのような日米関係を見ている方々が原子力の問題を扱ってくださったことは、私にとって新鮮でした。 
 今まで原子力の議論を行ってきた人たちは、正直言ってごく僅かで、そうした人たちが議論を続けても恐らく状況は変わりません。政策が凝り固まってしまっている状況を変えるには、今まで議論してきた人たち以外の方々が『この問題は一体何なの』と議論に入ってきて、『こうした方が良いんじゃないの』という新鮮な提案を行っていただくのが一番良いかなと思っています。 
 NDにも期待していますが、今日ここにお集まりの方々の顔ぶれを見ても、これまで私がお会いしてこなかった方々もたくさんいて、こういう広がりが非常に大事だと実感しています。是非、今後とも日米関係の中での再処理問題、プルトニウム問題という議論を続けていってください」 
 
     ★     ★     ★ 
 
 ND日米エネルギープロジェクトは今後、国内でのインタビュー調査のほか、在米専門家・政治家へのインタビューといった追加調査を続け、最終的に報告書を作成して出版するということだ。次なる活躍に期待したい。(坂本正義) 


Copyright (C) Berita unless otherwise noted.
  • 日刊ベリタに掲載された記事を転載される場合は、有料・無料を問わず、編集部にご連絡ください。ただし、見出しとリード文につきましてはその限りでありません。
  • 印刷媒体向けの記事配信も行っておりますので、記事を利用したい場合は事務局までご連絡下さい。